Seg 11 あなたの街のお助け機関 -02-

 担当の女性は、ユウを連れてエレベーターに乗ると、職員カードをかざした。

 すると、階下へと動き始めたが、最下階である地下二階を通過し、地下五階へとたどり着いた。

 その先を案内したのは、頭にVRゴーグルをつけた青年だった。白いかべゆか天井てんじょうに囲まれながら進むと、ガラスでできた大きな部屋へやへ案内された。


「では、今からアヤカシの存在証明のテストを受けていただきます。手順としては、この大きな部屋へやに入っていただき、出現したアヤカシの居場所をこのポインターで示してください」


 そう言って、ペンライトのボタンを何度かし、赤い光を出して見せる。


「正解するとピンポンと音が鳴ります。ポインターを誤ったところに指すと不正解の音がなり、二回失敗すると失格です。アヤカシは全部で五体出現しますのですべてのアヤカシの居場所を示してください」



「……うまくできるかな?」


 部屋へやに入って待っている間、わたされたペンライトをまじまじと見るユウ。緊張きんちょうからか手に力が入ってしまった。


 ッブ――――――――――――――!


 不正解音が警報のごとひびく。

 すぐにボタンから手を放したが、音はすぐにはまなかった。


「……始める前からボタンをさないでください」

 審査官しんさかんの青年がジトーッとにらむ。

「……すいません」


「申し訳ないですが、すでに機器がスタンバイ状態なので、今のは不正解として一回カウントされています。次に間違まちがえると失格ですのでご注意ください」


「ええー!?」

「やる前から自分んでんな~、ユウどん……」


 い席で待つみっちゃんは、自分のことさながら、ハラハラしながら見ていた。


「それでは、始めます」

「はいっ!」


 ブゥ……ンと機械が始動音を出し、ユウはすぐにぞわっと背中をふるわせる。


 青年がかけたVRゴーグルには、ユウの背後にアヤカシが映っていた。


 ピンポーン


 一体目のアヤカシをポイントできたようだ。


「黒いかげだ」

 ユウは、おぞましい姿のアヤカシを想像していたのか、ただの黒いかげを見た一瞬いっしゅん、キョトンとした。


「アヤカシって、全部黒いかげなんですか?」

 思わず試験官にたずねたユウに、試験官はうなずいただけだった。


 その返事にユウはホッとする。

「なら、そんなにこわくないや!」


 俄然がぜんやる気になったユウは、二体目、三体目とすんなりクリアした。


 しかし四体目となると、さすがに動きが素早すばやくなり、とらえたと思いポインターを当てるが、アヤカシは急に向きを反転させた。

 反応しきれなかったユウは、

「げっ!」

 失敗に変な声をあげてしまった。だが、運よくアヤカシに当たっていたようで、ピンポーンとクリア音が鳴った。

「あ、危なかったー……」


「ちなみに、魔法士まほうしのライセンスは永久ライセンスになります。

 一度受けたら合否にかかわらず二回目の受験はできませんので頑張がんばってください」


「ウッソ!? つか、今ココでそれを言うっ!?」


「検査官の言うてることはホントやで~」

「好不調の波はありますが、魔力まりょくを持つ人は生きている限り、少なからずその力が存在することが過去のデータから解析かいせきされています。ですので受験者の方はみな万全ばんぜんの態勢でいどまれてます」


 それを聞いて、ユウはみっちゃんを見る。

「そんな切なそうな顔で見んといてっ!

 ユ、ユウどんなら大丈夫だいじょうぶやて! ファイトやっ!」


 とにもかくにも、最後の一体である。


 五体目は、姿をあらわしたり消したり、動きもさらに素早すばやくなかなか照準が定まらない。


 間違まちがえれば不合格。


「あれ? この動き方……」

 ユウは、以前ネズミのようなアヤカシと出くわした時の事を思い出す。


 チョロチョロと動き回って止まらない。しかも時間がたつほど数が増えていく。

 早くたおさないと、そのうち近隣きんりんの街にまで被害ひがいおよんでしまう。

 その時、兄は無駄むだに動くことをせず、じっとアヤカシの動きをはだで感じ取っていた、ようにユウは思っていた。

 勝負は一瞬いっしゅんだった。

 背後からくると見せかけて、正面を横切る刹那せつな、兄はアヤカシを鷲掴わしづかみしてつかまえてしまったのだ。

 増え続けたアヤカシは分身だったらしく、本体がつかまるとすぐに消えてしまった。


 その後、アヤカシをどうしたのかまでは覚えていなかったが、今、ユウの前にあるアヤカシも動きがそれに似ていた。


 何度か動きを目で追い、やがて右を向いてポインターを構える。


「……今っ!」


 赤い光は、黒いかげらえ、正解音がひびいた。


「クリアです」

「やったあ!」


「おつかれさまでした。こちらで一旦いったん休憩きゅうけいなさってください。この次は、別室にて魔力まりょくの測定、数値化を行います」

 うながされた椅子いすたおれるようにすわむユウ。それをみっちゃんが手でパタパタとつかれきった顔をあおぐ。


「おつかれや~ん。大丈夫だいじょうぶかあ?」

「だって……もう二度と受験できないんでしょ? そりゃ、本気……出さなきゃ……!」


「落ち着かれましたら、こちらから次のお部屋へやへどうぞ」

 検査官は機器類を片付けるとどこかへ行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る