Seg 09 狭間の世界~ミラクルワンダーランド~ -04-

「お好きな調理をいたします。目玉焼き、スクランブルエッグ、オムレツ。ご希望でしたら、ハムやベーコンもございます」

 初めて見る木戸の姿にとまどいつつも、空腹にはあらがえなかった。

「あ……えと、じゃあボクもミサギさんと一緒いっしょのものをお願いします」

 頼んだオムレツは、一分と経たず目の前に差し出された。


 早速席につき、合掌をする。

「なん、だこれっ! めっっ……ちゃうまいっ!」


 卵は、スプーンですくえばふわっと軽く、口に入れるととろんとけてなくなった。


 美味おいしさに夢中になって、あっという間に朝食の時間は過ぎていった。


 満腹の余韻よいんひたりながら腹をさする。

「ふぅ~……こんなに満足したご飯は初めてだ。

 にいちゃんと食べるご飯もすごく美味おいしかったんだけど、なんでか満腹にならなくて」


「ここの材料は厳選されてるからね~」

 ミサギがユウの姿を見て満足そうに言う。


 イメージに、「わたしたちがこの野菜を育てました」な農家のほがらかな笑顔えがおかぶ。


「さて」

 終わった朝食の後を木戸が片付け、それをユウが手伝てつだう。

 ミサギは退屈たいくつそうにながめていたが、終わりが近づくと小さな箱を手にして木戸とユウを呼んだ。


二人ふたりとも、片付けは終わったのかい?」

「はい」

「ユウ様の手際てぎわがたいへんよかったので、予定より十三分早く終わりました」


「結構なことだ」

 家事とは無縁むえんのきれいな手が、ユウを近くへおいでと招き寄せる。


「さて、ユウ君。君にはしばらくこの屋敷やしきで生活をしてもらうわけだけれども、あちこちかぎが必要な箇所かしょがある。そこで、君に屋敷やしき合鍵あいかぎわたしておく。木戸」


 いつの間に移動したのか、木戸はミサギのとなりから姿を現し、スッと箱を差し出した。ふたが開いている箱の中には、かぎが一つ入っていた。


 銀でできた、細かな植物の葉やつるなどの細工が美しく、アンティークによく用いられそうなウォードじょうだ。


 それは、ユウの手のひらにれると、けるように消えてしまった。


「わっ? き、消えた?」

大丈夫だいじょうぶだよ、木戸の術式さ。それでくす心配もないだろ」

「ご使用の際には、鍵穴かぎあなに手をかざしていただければかぎは出てきます」

「うわあ~……便利だなぁ」


「それから、これも」

 ミサギはむらさき水晶すいしょうのような小さな石をわたす。

「アヤカシけの御守おまもり。君のチョーカーにでも付けておいて、肌身はだみはなさず持っていて」

「は、はい。ありがとうございます!」

 受け取った石を、早速さっそくチョーカーのぽっかり空いたくぼみにはめむ。


「本題に入るけど、ヒスイーー君のおにいさんが言うには、君は『ヨミコ』らしいね。

 手っ取り早い方法をとらせてもらうよ」

「手っ取り早い方法?」

「『魔法士まほうし』として力をコントロールする修行しゅぎょうをしてもらう」


 魔法士まほうしと聞いて、ユウは結局教えてもらう時間がなかったなと、みっちゃんを思い出す。


「あの……ヨミコとかマホウシって、何ですか?」

「え~……そこから?」

 ミサギはめんどくさそうな顔をする。

「学校では習わないけど、都市伝説くらいにはきいたことないの?」

「全然」


「……まあ、あのヒスイにくっついていたんだから、まともな勉強と知識は期待できないか。でも面倒めんどうだなあ……」

 大きくため息をつくミサギだが、「あっ」と思い付いたように足元を見る。


「だったら説明しなくちゃだね」


 ドンッ


 ミサギは、軽くゆからしただけだった。しかしそれは、ぐらりとユウがバランスをくずすほど強くれた。


「ぅぬあぁぁ!」

「わあ? みっちゃん?」

 みっちゃんが天から降ってきた。天井てんじょうりついていたのだろうか。


「あいたた……なんでいつも居場所わかんねん?」

 しかし、みっちゃんの言うことなど聞く耳なし。腕組うでぐみをしたミサギは淡々たんたんと言った。


「ミシェル、話はわかってるね。この子に魔法士まほうしに関することを教えてやって」

「ミッサギど~ん、わいのことはみっちゃんてーー」


「わかった?」

 ミサギがにらんだ。

 その絶対零度の表情が許すのは、肯定こうていの返事のみだった。

「うぃっす!」


 みっちゃんはサングラスしにニカッと笑う。

「二度目まして~やな」

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