第2話 スライムなの?くまなの?
簡単に錬金出来るので、街に行くまでにも採取しながら行くことにする。とりあえず街に向かいたいけど、どっちに向かったらいいか辺りを見回して考えていると。
ガサガサッ!
どうしよう、何かいるみたい。シールドを発動させて魔法の準備をしておく。
ガサガサガサッ!!
ぽよん♪
「えっ?」
ぽよんぽよん
「この子……何?」
出てきたのはぽよんとした丸いもふもふ。
形的にはスライムっぽい。でも、くまみたいな丸っこい耳が付いてるし、お顔もぬいぐるみのくまさんみたい。しかも後ろには小さな丸いしっぽもある。
でもそんな事よりも大事な事がある!
「か、かわいい! むぎゅむぎゅすりすりしたーい!」
(ど、どうしよう。かわいすぎて倒せないよー!)
困っておろおろしていたら、くまスライム(?)は私の目の前に来て私をじーっと見つめている。シールドを張っているから安全だけど、攻撃される気配はない。
見つめられているけど、どうしたらいいのかな。
あっ! もしかしてテイム出来るんじゃない? おそるおそるシールドを解除してくまスライム(?)の目の前にしゃがんで、声をかけてみた。
「私の名前はハルっていうの。ねぇ、私の家族になってくれる?」
くまスライム(?)はぽよんと一つ跳ねると、身体が光だした。光が収まると同時に聞こえた可愛い声にびっくりした。
『ご主人様、よろしくま~!』
(か、かわいいーーー!)
声も語尾も可愛いなぁと和みつつ、なんて呼べばいいか聞いてみた。
「家族になりたいから、ご主人様じゃなくてハルって呼んでね。君のお名前は?」
『分かったくま。ぼくに名前はないくま。ハルに付けて欲しいくま~』
くまの名前と言えば、私の家に小さい頃からいたくまのぬいぐるみが『ひぃろ』だったのを思いだした。
「私が付けていいのね。じゃぁ君の名前はひぃろでどうかな?」
『ひぃろ。ぼくの名前はひぃろ! うれしい、ありがとうくま~』
ひぃろは名前が嬉しいのか、私の周りをぽよんぽよんと跳ねている。
あまりの可愛さにむぎゅ~っとする。
「ふわぁ~気持ちいい、しあわせ~」
満足するまでもふもふむぎゅむぎゅしてからひぃろに聞いてみる。
「ねぇ、ひぃろはスライムなの?」
「そうくまー」
やっぱりスライムなのだね。でもスライムのイメージってつるんとしていてぷるぷるした感じを思い浮かべるのに、ひぃろはもふもふだね。でも気持ち良くて、いつまででも抱っこ出来そうだ。
癒されるもふもふスライムなんて、素敵すぎる。
「ねぇ、ひぃろ。街はどっちにあるか分かるかな?」
『あっちくま』
抱っこから解放されたひぃろはぽよんぽよんと東の方に跳ねていく。
「教えてくれてありがとう、行こうか」
私はひぃろと一緒に街に向けて歩き出す。
目の前でぽよんぽよん跳ねるたびに揺れる丸いしっぽ、可愛すぎる。そしてとても癒される。いくらでも歩いていられそうだ。
のんびり歩いていて、ふと気が付いた。さっきから森の中を歩いているのに周りを警戒してなかった。怖い魔物が出てこなくて良かったけど、どうしたらいいかな。
「ねぇ、ひぃろ? さっきから森の中を普通に歩いちゃっていたけど、この辺にも魔物はいるのかな?」
『いるけど大丈夫くま! ぼくが調べながら進んでいるから安心してくま』
「えっ! ひぃろ、そんな事がわかるの?! だから安全だったんだね、ありがとう。頼りにしてるね」
自信満々なひぃろがとても可愛くて、私は思わずひぃろの頭をなでなでした。
(あぁ、これも気持ちがいい)
そういえば、一度魔物と戦ってみたいかも。突然出てきても対応出来なそうだし、エアーカッターで倒せるか確認がしたいな。
「ねぇ、ひぃろ。一度魔物と戦ってみたいのだけど、どうかな?」
『ん~、少し先に1匹いるから戦ってみるくま?』
「うん、お願い」
ひぃろの後について歩いていくと、途中からゆっくりになって止まった。
『この先にウルフがいるくま。ここから見えるくま~』
そーっと覗いてみると、ウルフがウロウロしていた。地球の狼よりも一回り大きい気がする。
念の為ひぃろと私にシールドを張って、首を狙ってエアーカッターを繰り出すと簡単に倒せた。倒した後にはウルフの死体はなく、ぽふんっ! とアイテムを落とした。ドロップされたのは、ウルフの肉と毛皮だった。
「えっ! お肉と毛皮が出たよ、死体は? 解体とかしなくていいの?」
『くま? 倒したら出るに決まってるくま~。解体ってなにくま??』
(か、かわいい)
聞きながらコロンと倒れるひぃろが、なんとも可愛すぎる。
倒すとアイテムがドロップされて、死体も残らないって本当にゲームみたいね。でも解体とか無理だし、ドロップした物は有難くアイテムボックスにしまっておく。お肉があってもアイテムボックスに入れておけば安心だしね。
戦闘の練習は出来たので、またひぃろに索敵して貰って、私は薬草探しの鑑定を使って採取しながら街を目指す。採取しながらだから進みは遅いけど、一人じゃないし楽しい。
採取はひぃろと2人でしているが、ひぃろも探すのがとても上手で有難い。おかげでアイテムボックスに薬草類が沢山集まっている。
そろそろお昼。私のお腹がくるくる音を立ててきた。でも食べる物持っていないのよね。とりあえずひぃろに相談してみようかしら。
「ねぇ、ひぃろ。お腹が空いてきたのだけどこの近くに食べられるもの生えていないかな」
『くま? あっ! 近くにアプルの実が生っている所があるくま。行くくま』
「うん、お願い。そういえば、ひぃろは何を食べるの?」
『ぼくはスライムだから何でも食べられるくま~』
何でも食べられるのか。さすがスライムだね。
ぽよんぽよんと跳ねていくひぃろに着いていくと、大きな木にたくさんリンゴが実っていた。
アプルの実は見た目がリンゴなんだね。
「わぁ、沢山なっているね。でもだいぶ高い所だからどうやって取ったらいいかなぁ」
『ぼくが落とすから下でハルが受け取ってくま~』
「ひぃろ、そんな事まで出来るの? すごいね~。じゃぁ、お願いするね。少し多めに取ってアイテムボックスに入れておきたいのだけど、それもお願いしていいかな?」
『任せるくま! じゃぁ、行ってくるくま~』
とても頼りがいのあるひぃろが、可愛くて格好良すぎる。
ひぃろが木を登っていくとアプルの実の所に着いた。どうやって取るのか興味津々で見ていると、アプルの実に何かをピュッと吐き出した。
『ハル、行くくま~』
そう言ったらアプルの実がぽとりと落ちてきた。どうやったのだろう? 後で聞いてみよう。今はひぃろが沢山落としてくれるので、私はアイテムボックスに仕舞っていく。
アイテムボックスにアプルの実が20個くらい入ったしそろそろいいかな。他にも食べたい子がいるだろうしね。独り占めはいけません。
「ひぃろ、そろそろいいよ~。おかげで沢山集まったよ~」
『わかったくま。じゃぁ、降りるくま~』
降りてきたひぃろをむぎゅっと抱っこしてお礼を言う。
「ひぃろ、ありがとう。とっても助かったよ。一緒に食べよう」
『ぼくはそこら辺の草食べるから大丈夫くまよ。アプルの実はハルが食べてくま~』
「うーん、なんだか悪い気がするけれど……ありがとう、いただきます」
なんて優しくていい子なんだろう。ありがたくアプルを頂く事にする。食べてみるとやっぱりリンゴと同じ味がしたけど、こっちの方が味が濃い気がする。
ひぃろも食べ終わったようだから、ひぃろをなでなでしながらどうやってアプルを落としたのか聞いてみる。
「とっても美味しかったよ、ひぃろありがとうね。でもひぃろはどうやってリンゴ……じゃなくてアプルの実を落としたの?」
『ぼくはスライムで溶解ってスキルがあるから、枝を溶かして落としたのくま』
「なるほど。そうだったんだね、ひぃろとってもかっこよかったよ。そういえば、ひぃろのステータスを鑑定させて貰ってもいい?」
『もちろんいいくま~。ハルだったらいつでも大丈夫くま!』
「ありがとう、じゃぁ鑑定させてもらうね」
名前:ひぃろ
種族:特殊スライム(くまタイプ)
LV:3
スキル:サーチ、溶解、土魔法
特殊スライムってなんだろう? もう一度鑑定してみると、スライムの中でも1体しか産まれない特別なスライム。成長すると特別なスキルを覚えられるって書いてある。
ひぃろってすごいスライムなんだね、びっくりした。サーチと溶解を使っていたんだね、納得したわ。くまタイプってことは他にもいるのかな。
「ひぃろってすごいスライムだったんだね。くまスライムって一人しかいないんだね」
『そうくま~。だから仲間がいなくて寂しかったのくま。ハルに会えて本当に良かったくま~。ぼくをテイムしてくれてありがとうくま!』
ちょっとしょんぼりしたひぃろを、むぎゅ~っと抱きしめる。
「私も一人だったから一緒に来てくれて嬉しいよ。ひぃろ、私と一緒にいてくれてありがとう、いっぱい楽しい事しようね。これからもよろしくね」
いっぱいむぎゅむぎゅしてしょんぼりした気持ちも落ち着いた。
「よし、街に向かおうか」
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