こちら生徒会 対魔特別班

第５２話

　魔物はゆっくりと頭を振りながら、こちらを見渡す。…獲物を選んでいるのだろうか。

　亮は連絡中なので、紫雨が前に出る。エリスは矢の装填を始め、俺も杖を構える。

　やがて魔物は手近な紫雨をターゲットと決めたのか、前足を振り下ろす。その動き自体は然程速くは無かった。

　紫雨は余裕を持って躱すが、その前足が地面を叩くと激しい揺れが襲った。一番近い彼女は思わず膝を付く。

　その直後、エリスが矢を放つ。それは寸分違わず魔物の眉間を直撃した。

　だが矢は刺さらず、表皮の岩を少し砕くに留まった。何と言う硬度だ。

　俺は動きを多少鈍らせてもあまり意味は無いと判断し、魔法を唱えた。

「水刃多層旋陣（カッター・ウォール）！」

　無数の刃が魔物を斬り刻む。だが傷を与えていると言うより、表皮を削っている感じだ。幾らかは表皮の下にも届いているようだが、致命傷には遠かった。

　だがこれで時間が稼げ、紫雨が体勢を立て直す。

　これは…急所と思われる頭部を地道に攻撃し、表皮を剥がす必要がありそうだ。

　すると今度は魔物が大口を開き、紫雨に噛み付く。彼女は咄嗟にバックステップで下がり、その攻撃を躱す。がきん、と凄まじい音が響く。

　その隙を突いて紫雨が薙刀を振るう。連撃が頭部に直撃し、削れた表皮を撒き散らす。

　思わず引いたその魔物の頭部を、俺は狙った。

「巨石落天（ストーン・フォール）！」

　中空に現れた大きな岩は、重力に任せて魔物の頭部に落下する。それは大きな衝撃と共に砕けた。

　魔物の頭部は表皮が大分砕け、その下の皮膚が見え始めていた。

　其処へ連絡を終えた亮が駆け付ける。紫雨は一歩下がり、亮が間合いを詰めた。

「デケえな…。注意する事は？」

「攻撃が重い。受けると危険だから、回避して」

「りょーかい、っと」

　彼はそう答えると盾を背中に背負い、剣を両手で掴んだ。盾を持っていると、直観的に受けてしまうと判断したのだろう。

　すると魔物は後ろを向く。逃げるのか？そう思った瞬間、尻尾が横に払われた。

　亮は距離を詰めて下を潜り、紫雨は間合いを取って回避する。ぶおん、と尻尾が空を切った。

　魔物はそのまま尻尾を振り上げると、直後に思い切り振り下ろした。

　後ろ向きのままなので目測は甘いが、その衝撃に床が割れる。前足よりも凄まじい振動が俺達を襲った。

「うぉっ！？」

　亮が思わず尻餅を付く。其処へ魔物が伸し掛かり、圧し潰そうとする。

「石柱防壁円陣（ストーン・ウォールサークル）！」

　俺は即座に魔法を放った。

　石柱が何本も亮の周囲から伸び、囲うように円を描く。

　魔物の攻撃は石柱を中ほどまで圧し折るが、亮までは届かなかった。

　其処へエリスの矢が、魔物の後頭部に突き刺さる。皮膚が露わになっていた部分だ。

　痛みなのか怒りなのか、魔物は勢い良くこちらへ振り向く。その隙に亮が石柱の隙間から抜け出した。

「巨石槍突砕陣（ストーン・ランス）！」

　俺の放った巨大な石槍が、魔物の頭部を貫く。

　魔物は大きく仰け反り、言葉にならない悲鳴を挙げる。その頭部は半分近くが吹き飛んでいたが、未だ健在のようだ。

　魔物の赤い目が、明確に俺を睨む。そして距離を詰め始めた。俺を最優先で倒すべき敵だと判断したようだ。

「台地崩落陣（ディグ・ホール）！」

　俺の魔法で、魔物の進む先の床に穴が開く。魔物はそのまま穴を踏み抜き、体勢を崩す。

「やあっ！！」

　その隙に紫雨が距離を詰め、抉れた頭部に薙刀を突き刺した。刃の部分が全て埋まった。

　魔物は電気が流れたように一度びくんと跳ね、その動きを止めた。

　やがてその巨体がゆっくりと塵になり、搔き消える。

　その後には、大人でも抱えて持つのが厳しそうな大きさの魔石が残されていた。

「ふぃー、危なかったぜぇ…」

　そんな亮の言葉に、全員が大きく息を吐く。何とか倒せたようだ。

　身体がぴりぴりとする。どうやら強敵なだけあり、大きく成長に寄与していた。

　だがこのレベルの魔物が居るとは、この異界はかなり危険なようだ。こんなのが外に出たら、警官数人では敵わないかも知れない。

　俺は皆に声を掛ける。

「一先ず外へ出て、先輩達を待とう」

　そうして皆で外に出る。魔石は亮が床を転がして運んだ。

　やがて先輩達がやって来て、即座に異界特務庁へ連絡をする。他の発見された異界のレベルは判らないが、相当危険だろうと予想出来る。

　会長は連絡を終えると、魔石をまじまじと見つめた。

「…恐ろしい大きさだな、良く一年だけで倒せたものだ」

　正直あれで動きが素早かったら、先に前衛がやられていただろう。

　念のため入口で暫く警戒し、異界特務庁が到着してから俺達は引き揚げた。

　このまま異界が増え続けたらどうなるのだろう。俺はそんな事を考えていた。