第43話
俺は何かの物音で目を覚ました。これは…キッチンからの音か。
身体を起こして目線を向けると、紫雨が朝食を作っているようだった。其処で昨夜は彼女が泊まって行った事を思い出す。
「お早う」
「あら、お早う。もう直ぐ朝食が出来るから、待ってて頂戴」
彼女はそう言うと、テーブルに料理を運んで来る。ご飯と味噌汁は昨夜の残りで、他にベーコンエッグとサラダが出て来た。
普段の朝食はトーストで済ませる事が多いので、何時もより贅沢な感じがする。
そして食べ終えると身支度を済ませる。洗顔や歯磨きは問題無いが、やはり着替えは手伝って貰った。
準備を終えて部屋を出ると、何時も通りタイミング良くエリスが出て来る。
「おはよ。何か進展した?」
「…別に、何も無いわ。行きましょう」
紫雨はそう返し、先頭をさっさと歩き始める。
エリスは俺の横に並ぶと、同じような事を聞いて来た。
「で、一晩一緒に過ごして何かあった?」
「…特には無いかな。まあ異性と二人きりなんて慣れてないから、緊張はしたけどね」
「ふーん。異性として意識はしても、進展は無しかぁ」
そう言う彼女は少し残念そうだ。何を期待していたのだろう。
そして学園に着くと、皆で真っ直ぐ保健室へと向かう。
「先生、お早う御座います」
「あら、お早う。…桐原さんも居るわね。じゃあ腕を出して」
俺はベッドに腰掛け、袖を捲る。傷口が露わになった。
先生は其処に手を翳し、治癒魔法を唱える。暖かい光と共に、傷がどんどん消えて行く。
「…ふぅ。これで大丈夫な筈だけど、どうかしら?」
俺は肘、手首、指と順番に動かしてみる。問題無く動くし、違和感も無さそうだ。
「大丈夫みたいです。有難う御座います」
「これが仕事だもの、無事なら何よりよ」
俺達は改めて頭を下げてから保健室を出る。これで治療は完了だ。
「紫雨、改めて有難う。昨日は君のお陰で助かったよ」
「…言ったでしょ、自己満足だって。だからお礼は要らないわ」
彼女はそう答えると、教室へと歩いて行ってしまった。照れ隠しなのか本心なのかは、正直判らなかった。
俺も自分の教室に行き、亮に挨拶がてら無事治療が済んだ事を告げる。
彼は「そうか、良かった良かった」と言っていた。心配してくれていたようだ。
そして放課後。準備室には対魔特別班が全員集まっていた。
会長が立ち上がり、告げる。
「では、森川女史と相談した結果を報告させて貰おう。先ずは最下層への道を隔てている壁に少し穴を開ける。そして魔物が飽和状態なら、遠距離で数を減らす。これが第一段階だ」
彼女はそう説明しながら、ホワイトボードに要点を記述して行く。
「次に第二段階。壁を完全に撤去し、最下層を攻略する。これには私達三年と、桐原君で対応する」
「…俺ですか?」
「そうだ。最下層の魔物を倒せる攻撃手段がある以上、戦力として数えさせて貰う。…だが君には、先にやって欲しい事がある」
「やって欲しい事、ですか」
「ああ。森川女史からの伝言だ。君の両親に会って、話を聞くようにとの事だ。尚その際、異界について話す事も許可するそうだ」
わざわざこのタイミングで俺の両親に会えとは、どういう事だろうか。だが一つ言える事は、恐らく両親は異界について何か知っている。そういう事なのだろう。
「…判りました。では今週末に会ってきます。何か注意する事とかはありますか?」
「そうだな、今置かれている現状を包み隠さず話してくれ。森川女史は、君にとって役に立つだろうと言っていた。話を聞いたら、報告を頼む」
彼女はそう言うと、今度は第一段階の具体的な内容に触れた。
先ずは今日中に異界特務庁の人が来て、壁に穴を開けるそうだ。其処で魔物が多数確認出来たら、久遠寺先輩とエリス、それに俺で攻撃を加える。
その間に壁の手前に丈夫な扉を設置する。壁を取り払った後も、最下層の魔物がそれ以上進んで来ないようにする為だ。
これで来週まで掛かるだろうとの見込みなので、俺は週末に両親に会う。その結果がどう影響するのかは判らないが、兎に角やるだけだ。
やがて異界特務庁の人が到着し、皆で一緒に壁へと向かう。
そして掘削機で魔物が通れない程度の穴を開ける。穴を覗いてみると、魔物がわらわらと蠢いていた。正直、気持ち悪い。
其処からは後衛三人で遠距離攻撃を始める。だが案の定、魔物が硬過ぎて攻撃が中々通らない。結局その日は、2体を倒すに留まった。流石にこのペースでは、先が思いやられる。
そして訪れた週末、俺は実家の前に立っていた。事前にメールで来る事は伝えてある。
俺は玄関を開け、「ただいまー」と告げて中に入る。
居間に行くと、既に両親は揃っていた。
「話があるんだけど、唯姉からは何か聞いてる?」
「一応な。だが先ずは、お前の口から説明してくれ」
そう言われ、俺は入学してからの出来事を話して行く。最後には最下層の魔物が現れ大怪我をした事、そして今後は最下層攻略に動く事を伝えた。
父さんは其処まで聞くと、視線を母さんに向けた。
「…お前の出番のようだな」
すると母さんは笑みを浮かべ、口を開いた。
「そうみたいね。…それにしても茅人が魔法使いなんて、遺伝かしらね」
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