第44話
俺は母さんに尋ねてみた。
「その言い方だと、母さんも魔法使いって事?」
「そうよ。但し『別の世界の』って注釈が付くけどね」
母さんの答えに、俺の頭には疑問符が浮かぶ。どういう意味だ?
其処へ父さんが口を挟んだ。
「母さんはな、俺が昔異界で見付けたんだ。言葉が通じなくて恰好も珍しかったからな、異界に関係する人物だという事で異界特務庁に保護して貰った。その後は戸籍を用意して貰って、結婚して今に至るって訳だ」
「…俄かには信じられないんだけど」
「その証拠が魔力量よ。こちらの世界の人は、私の元居た世界の人よりも圧倒的に魔力量が少なくてね。魔力消費を抑えた独自魔法でも、直ぐに魔力切れを起こすわ」
俺も今まで魔力切れを起こした事は無いが、そんなに違うのか。確かにエリスの魔力銃の弾数を考えると、納得出来る部分もあるが。
「私の魔力は遺伝したけど、髪色は遺伝しなくて良かったわ」
「え、普通の黒髪じゃない」
「実はずっと染めてるの。実際は青いのよ」
成程、それは染めないと目立つ。地毛と言っても通用しなさそうだ。
「…それで、唯姉の目的って何?ピンとこないんだけど」
「私の元の世界の魔法を覚えさせよう、って事らしいわ。今までは魔力量が足りなくて全然使える人が居なかったのだけど、茅人なら大丈夫だものね」
「それって、俺が今使ってる魔法とどう違うの?」
「唱え方も全然違うし、消費する魔力量が桁違いなのよ。その分威力も大きいけど。って事で、これを掌に乗せてみて」
そう言って渡されたのは、赤青緑黄の四色の小さな石だ。言われた通りに掌に乗せてみると、青と黄の石が輝いた。
「水と地ね、私と同じで良かったわ。他の属性だと私も使えないから」
どうやら使える属性は生まれつきらしい。いよいよゲームの魔法っぽくなって来た。
「今使ってる独自魔法は、只魔力を形にしてるの。対して属性魔法は魔力を属性に変換して、魔法陣を描いて使うわ。それと、自身の身体強化についても違うやり方を覚えて貰うから」
そう言うなり、二人は立ち上がる。
「じゃあ行くぞ」
「え、何処へ?」
「異界特務庁が管理する異界だ。俺と母さんの職場だな」
家から車で10数分、市役所の隣にあるコンクリート製の建物に着いた。入口には「特別観測所」とだけ書いてある。
カードキーを翳して入口を通り、そのまま正面の階段を下へ降りる。すると重厚な扉があり、両側には守衛のような人が二人立っていた。
「桐原だ、通るぞ」
「はい、お気をつけて」
そう告げると扉が開かれ、先に通路が続いている。此処からが異界か。
異界に入ると直ぐにロッカーが並んでいる。此処は学園と似ていた。その内の一つを開け、中から武器を取り出す。
父さんは大剣、母さんは杖だった。
「杖が必要なのは独自魔法だけで、属性魔法では不要なのだけどね。杖を使った方が茅人もやり易いでしょう?」
母さんはそう言うと、杖を俺に渡して来た。確かに杖を使って魔法を放つ事に慣れているので、その方が助かりそうだ。
そのまま通路を、父さんを先頭に先へ進む。すると角を巨大化したサイのような魔物が現れた。
「此処の魔物の強さって、どれ位?」
「学園の最下層より一段上って感じか。お前が一撃喰らうと死ぬな」
マジか。いきなり何て所に連れて来るんだ、この親は。
「良く見てろよ。…母さん」
「ええ」
そう言うと母さんが前に出て、手を翳す。すると手の先に魔法陣が生まれた。
「水刃螺旋陣(カッター・スパイラル)」
そう唱えると、水で出来た複数の刃が魔物に襲い掛かる。それは回転しながら魔物を切り刻み、魔法が通り過ぎた頃には魔物は塵となって消え去った。
学園の最下層よりも強い魔物を、魔法で一撃。これが属性魔法の威力か。
「念のため上級魔法を使ったけど、中級でも1~2撃で倒せるわ。どう?」
「どうって…凄いとしか言いようが無いんだけど」
「そうね。じゃあ先ずは基礎として、身体強化を覚えて貰うわ」
「それって、身体強化の魔法と何が違うの?」
「魔法を唱えずに、直接魔力を身体に循環させるの。実際に魔法を使うのは、それが出来てからよ」
そう告げられ、其処からは身体強化の訓練が始まった。
魔力を意識し、身体を包む大きさまで広げる。言葉にすると簡単だが、そうは行かなかった。今までの魔法は、杖に魔力を流せば使えたのだ。それを広げるというイメージが上手く掴めない。
結局その日は、身体強化の訓練だけで終えてしまった。
そして翌日、日曜も同じ場所を訪れていた。
身体強化のコツを掴んだ所で、今度は属性魔法の訓練に入った。
兎に角、魔力で魔法陣を描くのが難しい。しかも使うのは全く知らない文字だ。結局その日では、属性魔法を使えるようにはならなかった。
今後の訓練に必要だからという事で、母さんが魔法を唱える度にスマホで魔法陣の写真を撮る。そうして水属性と地属性の初級~最上級魔法を全て撮影した。
今後は学園で自主訓練となる。ちゃんと魔法陣が描けるよう、黙々と繰り返すだけだ。
そうして俺の週末は、訓練だけで終える事となった。
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