第39話

 先ず最初に来たのは、会長と久遠寺先輩の二人だった。

 会長は黒のビキニ、対して久遠寺先輩は赤のビキニ。二人ともスタイルが良いので似合っており、大人の雰囲気を醸し出していた。

 続いては会計の紬原先輩だ。白のワンピースにパレオが付いている。清楚さが際立っていて、とても良い。

 次は矢吹先輩(姉)だ。何故か紺のスクール水着をチョイスしていた。確実に似合ってはいるのだが、それを選んだ真意が計り知れない。

 次は東雲さん。水色を基調としたワンピースで、肩からタオルを羽織っている。真面目な彼女に合っている。

 そしてエリス。最初に試着していたセパレートタイプの水着を着ていた。やはり屋外の方が素の明るさと相まって、ぴったりだった。

 最後に…。

「何か二人して、いやらしい眼つきをしているわね」

 俺達の背後から声が掛かる。紫雨だった。

 彼女が選んだのは黒と青を基調とした競泳水着だった。パっと見は地味なのだが、思った以上に身体のラインがくっきり出ている。それにデリケートな部分の角度も中々大胆だ。

 そんな俺の視線に気付き、睨みつけて来る。

「…何か文句でもあるのかしら?」

「いや、そうじゃないよ。凄く似合っていると思っただけ。ただ普段見慣れない姿だから、ちょっと緊張しちゃって…」

 俺がそう返すと、彼女は耳まで真っ赤にして歩いて行ってしまった。怒らせてしまったのだろうか。

 すると亮がふと呟く。

「サラッとそういう事言えるのな、お前」

「え、どういう事?」

「いや、お前は素のままの方が良い結果になりそうだ。だから気にするな」

 何やら良く判らない理由で誤魔化されてしまった。何が言いたかったのだろう。

 ちなみに男連中の水着評価は省く。ただ亮だけは唯一ブーメランパンツをチョイスしていた。

 そして各々が自由に遊び始める。

 会長と久遠寺先輩、それに矢吹先輩はビーチバレーを始めた。だがビーチボールがやけに本格的なデザインをしており、そんな軽くも無さそうだ。

 そう疑問を感じていると、副会長が俺達に教えてくれた。

「あれは競技用のビーチバレーボールなんだ。普通のビーチボールだと保たなくてね、あれを使うのが通例みたいだよ」

 試合が始まると、成程確かに普通のボールでは耐えられない訳だ。既に動きの速さが異常だ。身体能力が一般人を超越している先輩達ならではだ。

 はっきり言って、球速は通常のバレーボール以上だ。アタックを打つ時の打点の高さも凄まじい。

 やがて試合は僅差で三年ペアの勝利で終わった。すると会長は俺達を指差した。

「さあ、次は君達の番だ!見事私達を倒してみせたまえ!」

 会長は何故かやる気満々だ。俺は仕方なく近づく。

 だが横を見ると、亮はかなりのやる気を見せていた。スポーツマン魂にでも火が付いたのだろうか。

 そう思っていると、不意に亮に肩を組まれ後ろを向かされた。

「なあ茅人、あの先輩達の胸の動きを間近で見る絶好のチャンスだ。可能な限り粘りたい。俺に身体強化の魔法を掛けてくれ」

 その言葉に俺は頷き、魔法をお互いに掛ける。俺達の気持ちは今、一つになったのだ。

 …暫く後、俺達は砂の上で仰向けになっていた。粘った方だとは思うが、やはり一年では厳しかったようだ。

 だが得たものは大きかった。俺達は寝転がったまま握手を交わす。

 …さて、汗もかいたので海にでも浸かろう。

 俺は肩まで沈み込み、身体に籠った熱を逃がす。これは気持ちが良い。思わずサウナの冷水を連想する。

 会長達は連戦のまま、今度は紫雨とエリスが駆り出されていた。

 常人である生徒会役員達は、泳いだり日焼けしたり日蔭で寝たりと好き勝手に過ごしている。

 俺はのんびりと平泳ぎで沖へと向かってみる。この海岸は遠浅で、暫く泳いでも底の砂が見える。

 今度は仰向けになって浮いてみる。陽射しが眩しいが、視界全面に広がる青空は絶景だ。元々自分はインドア派なのだが、今だけはアウトドア派の気持ちも解る気がする。

 亮は疲れが取れたのか、俺よりも沖へとクロールで泳いで行く。俺はそれを見送りながら、何気なく自分の身体を触る。

 随分と筋肉が付いたものだ。既に腹筋は割れ、手足も太くなっている。所謂細マッチョという奴だろうか。主に身体強化の魔法の効果だろう。お陰で運動神経の高い亮や紫雨にも付いて行けている。

 俺はそのまま波に身を任せ、暫く海面を漂っていた。


 皆で旅館に戻った頃には、独特の倦怠感が身体を覆っていた。

 なので昼食後は昼寝をし、元気が戻った頃に宿題に手を付け始める。

 そして夕食後、廃校のグラウンドで皆で花火をやった。

 最初に打ち上げ花火、次に手持ち花火。最後に線香花火という黄金パターンだ。

 またサプライズとして、女性陣は全員浴衣を着ていた。皆とても似合っていた。

 そうして夏の思い出となる時間は過ぎ去り、翌朝。

 俺達は荷物を手に、旅館を後にした。会長はまた来年も来る事を約束していた。

 電車に揺られながら、心地良い疲労感と満足感に身を委ねる。

 そして初日に集合した駅で解散となった。俺はエリスと共に家に向かう。

「そうだ、忘れないうちに写真を送っとくね」

「ん、写真?何の?」

「それは見てのお楽しみ!」

 その直後にメール着信音が鳴る。メールに添付のファイルを開くと、其処には女性陣の水着写真が全員分揃っていた。しかも記念写真では無く、隠し撮りだった。

「お風呂は直前で止められちゃったけど、水着はちゃんと撮れたよ。感謝してよね!」

 そう言うと、彼女は自分の部屋に入る。


 俺は、このスマホは他人に見られまいと固く誓った。

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