第38話
更に奥へと進むと、今度は大型の魔物が現れた。一つ目で俺達の三倍程度の背丈、サイクロプスっぽい姿だ。
大型の魔物が群れていないのは助かるが、総じて体格に比例して力が強いのが定番だ。俺は亮に声を掛ける。
「攻撃は受けずに、回避を!力負けする!」
亮が頷いたのを確認し、俺は杖を構える。すると魔物はその大きさに似合わず、ダッシュして迫って来た。
思った以上に素早く、虚を突かれる。俺は突進を止めるべく前に出て、魔法を唱える。
「盾よ、遮れ!」
魔法の盾に魔物が激突し、盾が砕ける。衝撃で俺は後方に吹き飛ばされるが、魔物も後ろに仰け反っていた。先ずは奇襲回避成功か。
再度の突進を防ぐため、前衛・中衛が間合いを詰める。魔物は動きを阻害され、周囲の排除に傾注し始める。
其処で後衛は全員、弱点と思われる目を狙う。久遠寺先輩とエリスの矢、それに俺の魔法が一斉に直撃する。
だが眼球そのものが硬いのか、魔物の目は健在だった。
それでも目を含む頭部が弱点なのは間違いないので、後衛は集中攻撃を続ける。その間に皆は足を狙い、機動力を奪って行く。
やがて俺が放った魔法が当たった際に、何かが割れた音が響く。魔物は手で目を押さえる。外殻を破ったようだ。
「二人とも、隙間を狙える?」
俺は久遠寺先輩とエリスに問う。
「任せて」「りょーかい!」
二人は返事を返し、同時に矢を放つ。それは狙い違わず、魔物の指の隙間を貫いた。
魔物は声にならない悲鳴を挙げ、塵となって消えた。
「負傷した者は?」
「全員無事だよー!」
久遠寺先輩の問いに、矢吹先輩(姉)が返す。どうやら攻撃は一度も受けなかったようで、安心する。良くて直撃で重傷だろう。
やがて行き止まりに到達し、地図のルートを全て回った事を確認する。
「これで間引きは完了ね。じゃあ引き揚げましょう」
久遠寺先輩の言葉に従い、全員で外へと戻る。
すると既に会長を含む役員は戻っていた。
「皆、お疲れ。こっちは何事も無かったぞ。そっちはどうだった?」
「手強い魔物は居たけど、全員無傷で生還。問題無しよ」
「そうか。では旅館に戻って、温泉に入るとするか!」
そうして旅館へと戻り、皆で温泉に向かう。当然男湯と女湯は分かれているが。
頭と身体を洗い、湯船に浸かる。思わず年寄りみたいな声が出そうになる。身体の芯まで熱が伝わり、疲れを解すようだ。
すると隣からは女性陣の声が響く。見ると仕切りは完全では無く、天井近くに隙間があった。
同じくその隙間を見上げていた亮が、拳を握る。
「俺の挑戦すべき時は…今だ!」
格好良くキメているが、要は覗きだろう。しかも幾ら身体能力が向上しているとは言え、人力で届かせるのは難しい高さだ。
「という訳でだ、俺に身体強化の魔法を掛けてくれ」
亮は恥ずかし気も無く、そう告げる。
「…仮にバレても、俺の事は話すなよ?」
俺はそう釘を刺し、亮に身体強化の魔法を掛ける。
「よっしゃ、行くぜ!」
亮はそう告げるなり、壁に向かって駆け出す。そして手前で跳躍すると、壁に足を付け駆け登り始めた。
だがそんな動きが長く続く筈も無く、勢いが止まる。
「くっ!!」
亮は諦める事無く最後のひと蹴りをし、片手が仕切りの隙間を掴んだ。
その瞬間、男性陣から一斉に歓声が挙がった。感動の瞬間だ。やっている事は最低だが。
亮はそのままもう片方の手でも掴み、懸垂の要領で身体を持ち上げる。そして頭が仕切りを越えた瞬間。
ばこーん!という音と共に、亮の顔面に桶が直撃する。そしてそのまま落下し、湯船で飛沫を上げた。
女湯の方から会長の声が響く。
「毎年一人は挑戦する奴が居るものだがな、一年でありながら届いたのは見事だ!褒美に罰は免除しておいてやろう。…次は無いぞ?」
そう告げる最後の口調は冷ややかだった。だが当の本人は、湯船に浮いていた。背中を強く打ち付けたらしい。
俺は散った親友に心中で敬意を表すと、のんびり温泉を楽しんだ。
やがて復活した亮を連れ温泉を出ると、女性陣と鉢合わせた。皆の亮への視線が冷たい。ドMなら逆に喜びそうだが、彼は目線を逸らしていた。
だが紫雨だけは俺を睨んでいた。「貴方も協力したでしょう?」と眼が語っていた。思わず俺も目を逸らし、そのままいそいそと部屋へ戻った。
未だ眠る時間では無いので、俺は持ち込んだ小説を読み始める。先輩は布団に潜り、音楽を聴いているようだ。亮は何か格闘技の雑誌を読んでいる。
やがて気付く間も無く全員が眠りにつき、朝を迎えた。
外は快晴。更に陽射しが強まっているようだ。
大部屋に集まり、朝食。納豆、卵、焼き鮭。海苔。純和風の朝食だ。白米が何時にも増して美味く感じる。
そして皆が食べ終わった頃、会長が口を開く。
「今日はこれから海へ行く!皆は部屋で水着に着替えて、旅館の真正面の砂浜へ集合だ!では、解散!」
俺達も部屋に戻り、水着に着替えて砂浜に向かう。其処は旅館宿泊者専用との事で、俺達以外に誰も居なかった。プライベートビーチ状態だ。
そうして一番手に到着した俺達が待っていると、皆がやって来た。
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