第36話
訪れた週末。俺達はまたショッピングモールへと訪れていた。
先ずは時間の掛からなさそうな男物の水着売り場へ直行する。試着はせず、無難な値段とデザインの物を選ぶ。
亮も無事購入したので、次は女物の水着売り場へ。
以前の下着売り場程ではないが、非常に居心地の悪い空間だ。そんな中に平然と居る男は、恐らく彼女と一緒なのだろう。
結局逃れる事は出来ず、エリスに連れられて入店。水着選びに付き合う事になった。
早速エリスは何点か水着を選び、試着室に入る。そして俺と亮は、彼女が着替え終わるのを無言で待っていた。
やがてカーテンが開き、水着を着たエリスが現れた。
セパレートタイプで、花柄にフリルがあしらわれた可愛らしいデザインだ。大人っぽさは無いが、彼女には似合っていた。
俺はそのままを彼女に伝える。
「とても可愛くて、良く似合ってると思うよ」
「えへへ、そう?」
彼女はにやにやしながら言葉を返す。満更でも無さそうだ。
だが彼女の後ろ、脱いだ服の一番上に下着が置いてあった。男が居るのだから、其処は是非隠して欲しかった。
彼女が試着室に再度引っ込むと、亮が話し掛けて来た。
「…誉め言葉が手馴れてないか?」
「いやいや、思った事を言っただけだよ。お世辞を言えってのなら俺も困るし」
「まあ良いけどな。俺の感想なんて聞かずに引っ込んじまったし」
そう言えば紫雨が見当たらない。既に水着を選び終えて、試着室にでも入っているのだろうか。
その後もエリスが着替える度に俺が誉め、亮がそれを眺める構図が続いた。
「じゃあ、これにするね!」
エリスが選び終えた頃、紫雨が店の袋を持って近付いて来た。既に購入済みのようだ。
まあ確かに、彼女が水着選びに男の意見を聞くとは考え難い。ならば解釈通りだろう。
その後は、亮を除く三人の希望で本屋へ。
紫雨は俺が以前に貸した本を、一巻から最新刊まで纏めてレジに持って行った。どうやら気に入ったらしい。
俺も何冊か気になる新刊を購入する。エリスも漫画の新刊を幾つか購入した。
その後は特に目的も無かったので、その場で解散となった。
俺とエリスは同じアパートなので一緒に帰ったが、道中では間違った日本の認識を正す使命を負った。
曰く「裸エプロン派と水着エプロン派が争っている」「和服の帯は引っ張る為にある」「女性は皆BLが好き」等々。偏っているにも程がある。まあ国境を隔てれば、冗談も真実に見えるのかも知れないが。
そして日数は経ち、終業式を終えて夏期休暇に突入した。
この時期、外気温の影響を受けない異界は快適だ。制服は上着を着たままで丁度良い。
なお今までの異界を「第一異界」、以前に繋がった新たな異界を「第二異界」と呼ぶ事になった。
今日は矢吹先輩達が第二異界の下層を攻略中なので、俺達は第一異界の下層に挑む。
事前に俺が作成した資料を配り、事前説明を行った。その上で俺が資料を異界に持ち込み、実戦結果を反映させる事にした。
想定よりも苦戦する事があれば、戦術を変えて打開出来た事もあった。その度に俺は資料に追記し、完成度を上げて行く。
厳しい相手は俺が接近し、魔法で削った所をエリスのボウガンで撃ち抜いて倒した。強い敵が相手の場合は、この戦術が安定するようだ。その為にも俺自身、足腰をもっと鍛えないと。
近接でも亮が盾で攻撃を受け、その隙に紫雨が止めを刺す。そんな戦法も形になって来た。
戦闘を終え、亮が呟く。
「…正直けっこーキツいが、下層でも何とかなってるな」
「そうね。冷静に対応出来れば、ある程度の敵は対処可能ね」
「強いのはリーダー任せだけど、大丈夫?」
「まあ今のところ。お陰様で回避も上手く出来るようになったよ」
エリスの問いに、俺はそう返した。
「しかし魔法の補助を切らすと、途端に厳しくなるな。先輩達はこの補助無しなんだから、凄えよな」
亮と紫雨は随分慣れたので、身体強化の魔法も大分強めに掛けてある。お陰で多少格上の敵にも対応出来ている。なおエリスは慣らし中だ。
それにしても、効率良く下層を回るとリュックが心許ない。魔石が大きく、嵩張るのだ。今以上に効率が良くなると、途中で満杯になりそうだ。今度、台車でも用意しようか。
そんな事を考えていると、要注意の魔物に遭遇した。通称アメンボ。巨体だが足と身体が細く、攻撃を当て難い。更にはリーチも長いので、強敵だ。
俺が前に出て、先ずは攻撃を受ける事にする。
「盾よ、遮れ!」
細い分、大きさの割に重量は軽い。俺の盾に跳ね返されて身体が仰け反る。
その隙に拘束魔法を重ね掛けし、それでも抜けて来る攻撃を避け続ける。
其処へエリスのボウガンが、ピンポイントで魔物の頭部を貫く。そのまま塵となって魔物は消えた。
既にエリスはボウガンの扱いに慣れ、魔力銃と変わらない命中精度を誇る。その威力は下層でも通用し、唯姉のアドバイスを聞いて良かったと痛感する。
そうして俺達は下層から準備室へ戻る。今回も魔石は一時的に段ボールに仕舞っておく。しかしエネルギー源との話だったが、火事になったりしないのだろうか。
その後に戻って来た先輩達が無事な事も確認し、俺達は帰った。
夏期休暇中に何度も下層に挑む事で戦術は安定し、皆もどんどん強くなって行った。強い敵を相手にする程、話にあった成長も顕著なようだ。
こうなると不謹慎だが、ゲームでレベル上げをしている気分だ。油断しないよう気を付けないと、と自分に言い聞かせる。
そんな日々を繰り返し、合宿の日を迎えた。
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