第35話

 期末テストが無事終了し、成績上位者が貼り出された。

「…マジかよ」

 紫雨は順位を上げて学年二位、エリスも六位に入っていた。俺も勉強の成果か、上位者ギリギリの48位に入る事が出来た。

 一応亮も、中間テストよりも良い成績を取る事が出来た。赤点も無く、結果としては上々だ。ただ比較する相手が悪いだけだ。

 こうして気持ち良く夏期休暇を迎えられる気分の中、放課後の生徒会ではその休暇中の予定について話があった。

 この場には会長を含め、対魔特別班のメンバーが全員集まっていた。

 そんな中、会長が話を切り出す。

「先ずは期末テストお疲れ様。今回も赤点が居なくて安心したぞ。…という訳で、夏期休暇中の予定について話をさせて貰う」

 そう言うと、ホワイトボードをひっくり返す。其処にはメンバーの名前と日付の入った予定表が作成されていた。

「先ずゴールデンウィークと同様、私達三年は基本的に講習となる。其処は承知しておいて欲しい。次に矢吹姉弟だが、帰省する期間以外は下層を中心に対応を頼む」

 其処で会長の視線が俺に向く。

「…そして一年だが、メインは上・中層だが下層にも挑戦して貰う。その為に、桐原君はSランクにする。これで一年のみで下層攻略が出来るだろう」

 突然のランクアップに俺は驚くが、他の皆は平然としていた。会長も当然だという顔をしている。

「勿論安全第一だが、リーダーとして采配を取り頑張ってみてくれ。…という訳で、この予定表を後で埋めておいてくれ。頻度としては週3日程度で構わない」

 そこまで言い終えると、会長は今度は紙を配った。渡された紙の一番上には、『生徒会 夏期合宿について』と書かれていた。

「毎年恒例の合宿についてだ。期間は二泊三日、当日は駅前に集合だ。服装は私服で構わないが、制服も持ってきてくれ。準備する物の詳細はプリントに書いてあるからな」

 そう言われ良く見ると、準備する物の中に水着があった。…合宿、だよな?

 俺は気になったので、手を挙げる。

「何だ、桐原君?」

「…合宿って、具体的にどんな事をやるんですか?」

 俺がそう問うと、会長はにやりと笑った。

「一年は初めてだからな、サプライズだ。具体的な内容は黙秘させて貰う。なお既に生徒会役員を含め、口止め済みだ」

「…ワクワクより不安しか無いんですが」

「まあ安心しろ。突然一年に宴会芸をやれ、等というパワハラはやらない。楽しみ半分、仕事半分とでも思っておいてくれ」

 そう言われては追求も出来ず、俺は手を下げる。まあ上級生が嫌がる素振りも見せないので、面倒な事では無いと思うのだが。

 其処までで話し合いは終了となり、会長と久遠寺先輩が引き上げる。残された俺達は予定表を埋める事にした。

 先ずは矢吹先輩達が帰省する日程、それに異界攻略をする日程を記入して貰う。

 そして一年で残る予定を埋めて行く。今回も一年は一緒に行動する事にした。特別予定が無い限り、別行動をするメリットは無いだろう。

 予定が埋まった所で先輩も居なくなり、一年だけが準備室に残った。

 俺はそのまま夏期休暇に思いを巡らす。忘れないうちに水着を買いに行かないとな。後は一日だけでも実家に帰るか。

 すると亮が俺に話し掛けて来た。

「なあ、合宿で制服が必要って事は…戦うのか?」

 そう。実は俺達の制服は、特注品に交換されている。対魔特別班専用という事で、生地の中に硬質繊維が織り込まれているそうだ。流石に打撃は吸収出来ないが、刺突や斬撃には効果を発揮する。

 俺は思い付きで答える。

「あり得るのは別の異界攻略かな。後は突飛な発想だけど、他校との模擬戦とか?」

「だよなぁ。でもそうすると、武器は持ち物に入ってないが良いのか?」

「俺達が運んだら、銃刀法違反で捕まる可能性があるからね。もし必要なら学校の方でどうにかするんじゃないかな?」

「そりゃそっか、なら気にしなくて良いわな。それよりも水着って事は、海か?」

「目的地を見る限り、海は近いよね。可能性は高いよ」

「じゃあさ、今週末に水着を買いに行こうぜ。俺、中学の授業で使ったのしか無いからさ」

「そうだね。じゃあショッピングモールかな」

 其処へエリスと紫雨が口を挟む。

「じゃあ私も!流石に水着は持って来てないや」

「なら私も一緒にお願いして良いかしら」

 という事で、四人で週末に水着を買いに行く事になったのだった。


 そんな話の後、俺は異界中層を三人に任せて一人で下層に来ていた。

 Sランクになった事で、下層の単独攻略が可能になった事。そして一年の三人を連れて来た時の戦い方をイメージするのが目的だ。

 俺は遭遇した魔物の攻撃を回避してやり過ごし、拘束魔法を重ね掛けする。

 一年でも充分回避できる最低限度の拘束と、硬さを見極める。

 硬過ぎる敵が相手だと、武器が損耗する可能性がある。その場合は遠距離で倒すのが理想だ。

 そうして以前潜った時の事も思い出しながら、魔物毎に方針を決めて行く。

 ある程度網羅出来た所で準備室に戻り、戻って来た皆と合流する。三人も怪我は負っていないようだ。

 俺は夏期休暇に入ったら、皆で下層に挑戦する旨を伝える。全員が真剣な表情で頷いた。今日確認した限りでは、一部の魔物のみ俺が相手取れば問題無い筈だ。

 そして魔石を会長に提出し、帰路につく。

 家に着いた俺は、忘れないうちに下層の魔物の種類と特徴、対応策を纏める。事前に皆に覚えて貰う為だ。

 纏めている内に、その時には考え付かなかった戦術も思いつく。それも案として書き残しておき、俺は眠りについた。


 そして長期休暇に浮かれる学園の喧騒に包まれながら、週末を迎えた。

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