第34話

 食事を終えて外に出た所で、俺は亮に鍵を渡した。

「じゃあ俺は買い出ししてから戻るから。先に戻って勉強してて」

「おう、了解」

 彼は鍵を受け取ると、二人と一緒にアパートに向かった。

 さて、俺は此処から近いスーパーに行って買い出しだ。急ぎ足で目的地へと向かった。



 彼のアパートに戻り、勉強を再開した。だが昼食後で頭に血が回らないのか、龍ヶ崎君は集中出来ていないようだった。目線を動かすと、エリスも同様だった。

 すると彼は気を紛らわす為か、話題を振って来た。

「…なあ。二人は茅人の事、どう思ってるんだ?」

 だけどその質問の意図が判らず、私は無言で返してしまう。エリスもきょとんとしていた。

 少し間を空け、エリスが言葉を返した。

「…どういう意味、それ?」

「いやな…俺は親友として、あいつの彼女候補の心境を知りたい訳よ」

「つまり、リーダーの事をどう思ってるか聞いてるの?」

「そういう事だ。クラスには仲の良い女子は居ないからな。女性と接点があるのは生徒会だけだろ?」

 随分と下世話な話題を振って来たものだ。私はそのまま沈黙を続けようと思ったけど、エリスはその話題に乗ったようだ。

「それなら答えてあげる。彼氏としてはちょっと微妙だけど、夫としてなら良い感じ?」

「…どういう事だ?」

「彼氏は恋愛を楽しむ相手、夫は人生を一緒に歩む相手。そう考えると、強くて真面目なリーダーは夫向きでしょ?」

 そのエリスの言葉に、私は思わず心の中で同意してしまう。

 そもそも私自身は、恋愛を楽しむつもりは無い。もしお付き合いをするのなら、それは結婚を前提としたものであるべきと思っている。その場合、相手に求めるのは経済力などの現実的なものを除くのなら、強さと誠実さだ。

 茅人君…普段は恥ずかしくてリーダーと呼んでいるが。彼がその条件に近いのは実は自覚している。なので彼女の言葉に同意してしまったのだけど。

「成程な。でも結婚を考えるのは未だ早いだろ?そうすっと、エリスにとって茅人は脈無しか?」

「…そういう訳じゃないんだけどね。亮には女心は判らないかぁ」

「ウチの姉貴みたいな事言うんじゃねーよ」

「まあ脈があるか無いかで言ったら、ある方だよ。それがどの程度かは秘密だけどね」

 エリスのその返答に、私はどきっとする。真意を追求したくなってしまう。

「んじゃ、紫雨はどうなんだ?」

 突如私に話が振られ、思わずシャーペンの芯をぺきっと折ってしまう。

「ど…どうって?」

 私は動揺を抑え、言葉を返す。

「話聞いてなかったのかよ。お前は茅人の事、どう思ってんだ?」

「どうって…普通、よ?」

「普通?また良く判らん答えだな。普通に好きって事か?」

「好っ…!…か、軽々しく答える事じゃないわ」

「何だよノリ悪いな。じゃあエリスと似たようなモンと認識しとくわ」

 其処へエリスが口を挟む。

「そういう亮はどうなの?わざわざそんな事聞くって事は、私か紫雨のどっちかが好きなの?」

「違うわ、俺は年上好きなの。理想はやっぱ会長だな」

「…無謀ね」

 私は思わず呟いてしまう。動揺させられた仕返しだろうか。

「無謀で結構。座右の銘は『成功は挑戦した者にしか与えられない』だからな」

 彼はそう言い、誇らしげに胸を張る。格好いいと思っているのだろうか。

 私は色恋沙汰に現を抜かすつもりは無い。でも、結婚相手を探す気はある。それが早いか遅いかの違い、なのだろうか。

 その後も話は脱線し続け、勉強の進みはイマイチだった。



 エコバッグを両手に下げてアパートの扉を開けると、三人の視線が一斉にこちらを向いた。亮は何か言おうとしている感じ、紫雨は直ぐに視線を逸らし、エリスはにやにやしている。三者三様だ。

「…どうしたの皆?」

「いや、気にするな。色々と思う所があっただけだ」

「そう?なら良いんだけど…。そうだ、はいアイス。買って来たから食べて」

 俺はそう言い、皆にアイスを配る。そして残りの荷物を冷蔵庫に仕舞う。

 其処へエリスが話し掛けて来る。

「ねえリーダー。彼女欲しい?」

「何だよ突然。そりゃあ居たらいいな、とは思うけど…。恋愛経験が無いから、仮に付き合っても何したら良いのか判んないよ」

「じゃあ試しに付き合ってみる?」

 その瞬間、べりっと何かを破く音が響いた。ふと見ると、紫雨がノートを筆圧で破いていた。

「…なーんてね、冗談。純情なリーダーをからかっちゃいけないよね」

「…それって貶されてる?」

 俺はそう返すが、何か微妙な空気が漂っていた。


 その後は、午前程には勉強は進まずに解散となった。

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