第33話
俺達は一つのテーブルを囲み、勉強を開始した。
進め方は放課後と似たようなものだ。亮が過去問題を解いている間に自分の勉強を進め、終わったら判らなかった所を教える形だ。
エリスは既に自分なりの勉強のやり方をしているので、任せる事にする。元が優秀なので大丈夫だろう。
俺と紫雨は自分の勉強を始める。俺自身も中間テストで手応えは掴めたので、期末はもう少し順位が上がるよう頑張るつもりだ。
亮は集中力が続かないのか、途中で何かしら話を振って来る。その大半は学校での噂話だ。やれ先生同士が付き合っているだの、駅前でカツアゲをしている他校の生徒が居るだの。そんな話だった。
その話を完全に無視するのが紫雨、相槌を打つだけなのが俺、話題に乗っかるのがエリスだ。
だが次に亮が出した話題は、俺も紫雨も気になるものだった。
「生徒会で、夏期休暇中に合宿があるらしいぜ」
「生徒会って事は、対魔特別班だけじゃなくて?」
「ああ、そうらしい。つっても、何をやるかまでは知らねえんだよな」
「合宿名目の旅行みたいなものかしら?」
「おー、それは楽しそうだね!」
「テストが終わった頃に話も出るだろうから、楽しみにしておこうか」
ガチの体育会系合宿は俺達なら兎も角、生徒会役員には不要だ。引継ぎを兼ねた旅行と見るのが妥当に思えた。
さて、暫くして良い時間になったので休憩を挟む事にする。
俺はキッチンに行き、亮から貰った手土産を開封した。すると小さめの桐の箱が出て来た。高級デザートなのだろうか。
蓋を開けると、大事そうに明太子が3つ入っていた。
俺は亮に手招きし、こちらへ呼ぶ。
「ん?どうした?」
「…亮の家では、おやつに明太子を食べるの?」
そう言い箱を見せると、亮は溜息をついた。
「あー、親には手土産とだけ言って頼んどいたからなあ。てっきり菓子折りかと思ってたんだが」
「成程ね。じゃあこれは大事に頂くよ。紫雨の手土産は…シフォンケーキか、じゃあこっちを出そうか」
俺はそれを一つずつ皿に乗せ、フォークを付けて持って行く。皆勉強は一段落したようだ。
すると紫雨が俺に声を掛けた。
「ねえ、其処の本棚を見させて貰っても良いかしら?」
「いいよ。お好きにどうぞ」
するとエリスも声を掛けて来た。
「じゃあ私は、秘密の本を見させて貰っても良いかな?」
そう言いつつベッドの下に手を伸ばす。…残念ながら其処には無い。
「…お好きにどうぞ」
危険な物を掘り当てられる心配も無いので、放っておく。
そんな俺の反応に勘付いたのか、エリスが追求して来る。
「その反応…さては書籍媒体では保有してない?となるとパソコンが怪しい!」
そう言い、俺の机の上にあるノートパソコンを指差す。…正解だ。
「残念だけど、パスワードは教えないよ。俺だってその辺りのプライベートは流石に隠したいからね」
「むう…残念。性癖暴露してやろうと思ったのに」
それは本当に勘弁してくれ。同級生、それも異性になぞ知られたくない。
そんな中、紫雨は興味を持った本を引き出し、最初の方を読み始めた。自分の趣味に合うか調べているのだろうか。
こんな時に一番はっちゃけそうな亮が、一番大人しかった。黙々とシフォンケーキを食べている。糖分が不足したか。
すると紫雨から話し掛けられた。
「すまないけど、これとこれの一巻を貸して貰えないかしら?」
「ん?別に良いけど、続きは借りなくて良いの?」
「一巻を読んで面白かったら、ちゃんと自分で買おうと思って」
「そういう事なら、どうぞ。読み直す機会も殆ど無いから、返すのは何時でも良いよ」
「有難う。では貸して貰うわ」
そう言い、いそいそと本を鞄に仕舞う。
さて、そんな休憩時間も終わり、勉強の続きだ。
亮が問題を解き終えたので、間違えた所を紫雨と二人で教える。随分と勉強に対する姿勢が変わったものだと感心する。
そうしたら教科書を見ずに問題を解かせ、点数を上げて行くのだ。
エリスは未だ現代社会を集中して勉強している。本当に他の教科は自信があるのだろう。
やがて時間は昼時となった。
「じゃあ外に食べに行こうか。ファミレスで良いかな?」
「問題無いわ」
そんな訳で近所のファミレスに向かった。多少混んでいたが、待たずに座る事が出来た。
俺はチキンソテーセット、亮は海鮮丼、紫雨は和風ハンバーグセット、エリスは麦飯とろろ定食だ。ドリンクバーも人数分頼む。
すると早速エリスが変な色の飲み物を持って来た。
「色々混ぜてみたわ!コーラとメロンソーダは、色の相性が悪いわね!」
そんな小学生みたいな事をやっていた。やはり身体的成長も含め、高校生には見えない。向こうで飛び級でもしたのだろうか。
少し騒がしいながらも、皆で昼食を頂いた。
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