第32話
迎えた翌日の訓練日。放課後俺達は、勉強の為に準備室に集まった。過去問題は既に先輩から借りてコピー済みだ。
去年と同じ問題を出す教科は、中間テストで把握済みだ。そうでない教科は普通の勉強方法で補填して行けば問題無いだろう。
亮には早速、教科書を見ながら過去問を解いて貰う。二度目なので本人も多少嫌々ながら、真剣に取り組んでくれている。
エリスは苦手と言っていた現代社会から始めた。彼女は実力を測る為、自主的に教科書を見ずに解き始めた。
俺と紫雨は自分の勉強をしつつ、二人の質問に答える体制を取っている。
皆が無言の中、カリカリと文字を書く音だけが響く。
やがてエリスが問題を解き終わり、自己採点を始める。そして採点が進むに従い表情が曇って行く。結果は良くなかったようだ。
「うーっ、やっぱり駄目だったわ」
「お疲れ。じゃあ今度は、間違った所を教科書を見て解いてみようか。復習にもなるしね」
「りょーかい。…ちなみにこの教科、同じ問題が出るの?」
「いや、中間だと多少変えて来てた。だけど過去問だけやってても半分は取れる筈」
「おっけー。じゃあ先ずは過去問で満点取れるようにするわ」
そう言い、彼女は教科書を開く。優秀なだけあって、勉強に対する忌避感は無いようだ。
一方亮は、教科書を見ながらも悪戦苦闘している。数学は教科書に答えが載っている訳では無いからな。
紫雨は背筋を伸ばした体勢で、黙々と勉強を進めている。中間テストで実力は知っているので、何も心配は無いだろう。
俺は、去年と同じ問題が出ない教科を重点に進める。先ずは過去問を完璧に解けるようにし、その後で出題範囲を網羅する。同じ問題の出る教科は、遅れて着手しても問題無い。
そして結構な時間が経過した頃、亮が三教科解き終えた。俺と紫雨も手伝って採点し、間違った所を直接教えて行く。
そうして帰宅時間を迎える頃、エリスが口を開いた。
「ねえ、もし暇なら土曜に勉強会をやらない?折角だから私、良い成績を残したいの」
その提案に、俺達は顔を見合わせる。
「俺は買い出しの時間さえ取れれば大丈夫。二人は?」
「俺も暇だぜ。つーか、是非やらせてくれ。正直言って、自主的に勉強する自信が無え」
「私も大丈夫よ。で、何処でやるの?此処?」
そんな紫雨の問いに、エリスが答える。
「私かリーダーの家、どっちかで良いんじゃない?それなら半数は移動不要だしね」
「じゃあそうしましょうか。それで、どっちにするの?」
「俺は問題無いけど、エリスは?」
「…服や下着が散乱してても、皆が気にならないなら大丈夫よ!」
「…じゃあ俺の家で、って事で。一応、ちょっとは片付けておくか…」
こうして土曜の勉強会が決まった。部屋に友人を招くのは初めてだ。
そして迎えた土曜日。既に前日に掃除と片付けは済ませてある。
やがてチャイムが鳴り、扉を開けると亮と紫雨が居た。
「お早う。じゃあ上がって」
「おう、邪魔するぜ」
「お邪魔します…あら、エリスは?」
「隣だから油断してるんだと思う。ちょっと呼んで来る」
二人と入れ替わりに俺は外に出て、直ぐ隣の呼び鈴を鳴らす。…だが反応が無い。
ノブを回すと、扉が開いた。鍵は掛かってないようだ。
直接呼ぼうと扉を開け、中を覗く。だがエリスの姿は見当たらない。
「おーいエリス、二人が到着したよー」
そう声を掛けると、風呂場の扉が開いた。其処からエリスが出て来る。…バスタオル姿で。
「あ、おはよー。御免ね、お風呂に入ってたんだー」
叫ばれるかとも思ったが、彼女は平然としていた。恥ずかしく無いのだろうか。
目を逸らすと、先日言っていた通り服や下着が部屋に散乱している。その中からパンツを拾い、履き始める。
「じゃ、じゃあ準備が出来たら来てね」
俺はそう告げると、扉を閉めた。逆にこっちが照れてしまった。
自分の部屋に戻ると、二人は勉強の準備を始めていた。
「あ、これ一応手土産よ。で、どうだったの?」
「…準備中。少し経てば来るよ」
俺はそう答えておいた。先程の光景は脳内に焼き付いているが、説明する必要は無いだろう。
「そうだ、ウチからも土産な。休憩ん時にでも食べようぜ」
亮はそう言い、紫雨に続いて手土産を渡して来る。お菓子か何かだろうか。
俺が四人分の飲み物を用意した頃、やっとエリスがやって来た。
「皆、おはよー。御免ねー、シャワー浴びてたんだー」
エリスのその挨拶を聞くなり、亮が俺の方を向いた。その眼は「…見たのか?」と問い質しているように感じた。俺は思わず目線を逸らす。冷汗が頬を伝う。
「じゃあ始めましょうか。…ちょっと二人、男同士で何やってるのよ?」
「おっと、熱くなっちまう所だったぜ。…後で教えろよな(小声)」
…そんなやり取りがありつつ、勉強会が始まった。
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