第31話
唯姉による特別顧問指導を受けた数日後。丁度目当ての物も送られて来たので、俺は早速三人を集めて話をしてみた。
「えっと、先ずは亮。今使っている剣だけど、片手で扱える?」
亮は実際に剣を抜くと、素振りを何度かして見せた。
「…まあ両手よりかは威力が落ちると思うがな。無理って事は無いぞ」
「そう。じゃあ此処に盾を用意したから、左手に持ってみて」
用意したのは所謂カイトシールドと呼ばれる、逆三角形を引き延ばした形状の物だ。ファンタジー作品で盾と言えば、この形状をイメージするだろう。
亮は右手にロングソード、左手にカイトシールドという出で立ちで構えて見せた。中々様になっている。
「おお…。これはロマンを感じるスタイルだな」
亮もこの組み合わせには、感じ入る所があるようだ。
「亮は前衛で敵の攻撃を引き付ける、タンクの役割が大きいから。回避と受けだけで無く、防御も出来ればと思ってね」
「成程な。まあ流石に慣れが必要そうだが、良いと思うぜ。しっかり使いこなせるよう頑張ってやるよ」
彼はそう言い、笑顔で親指を立てる。やる気満々のようだ。
「じゃあ早速だけど、それで紫雨と模擬戦を始めてみて。…次はエリス、これを用意して貰った」
「これは…クロスボウ?」
「そう、日本ではボウガンって呼ぶけどね。しかも市販状態じゃなくて強化済みだよ。魔力銃は魔力切れと貫通力不足があるから、これも併用して欲しい」
俺はそう言い、早速彼女にボウガンを渡す。
扱い方は唯姉から教わっているので、俺はそれをそのまま彼女に教える。
先ずはボウガンを立てて足を引っ掛け、専用の紐を弦に掛ける。そうしたら紐を身体全体を使って引き上げる。こうすると弦が固定されるので、矢を装填して準備完了だ。
俺の説明を受けつつ、彼女が実際にやってみる。
「…思った以上に、弦を引くのが重いわ」
「強化してあるからね。でもエリスでも引ける重さの筈だよ。…良し、そうしたら矢を装填して、此処の安全装置を解除してから発射するんだ」
「ピストルタイプじゃなくて両手で構えるのね。ライフルも持った事があるから、あまり違和感は無さそう。…じゃあ撃つわ」
彼女はそう言うと、一瞬集中し引き金を引く。矢は風切り音と共に発射され、壁に突き刺さった。
「良い威力ね。射程は?」
「大体50メートル位らしいよ。で、こっちの矢筒に矢が10本入ってる。基本的に矢は使い捨てじゃなくて回収だから注意して。じゃあ暫く練習してみて」
俺は彼女にそう告げ、模擬戦に目を向ける。
先ずは盾での受け方に慣れるよう、紫雨が手加減しながらやっているようだ。
悪戦苦闘している亮に声を掛けてみる。
「どう?ものに出来そう?」
「…シールドバッシュとパリィがやりたいんだが、夢のまた夢だな…」
「…応用は慣れてからにして」
確かに盾のロマンだが、手を出すのは未だ早い。気持ちは判るけど。
エリスは黙々と射撃訓練に勤しんでいる。彼女には敢えて身体強化の魔法も掛けていない。魔法が無ければ使えないのでは困るからだ。
素人の俺が見る限り、既に射撃精度は中々のものに見える。これなら習熟も早いだろう。
俺は三人を小部屋に残し、通路に出る。
これから俺がやる訓練は、地道なシャトルランだ。背中のリュックには石が詰めてある。
先日の指導で体力と瞬発力不足を痛感したので、其処を重点に鍛える事にする。筋力増加に繋がるので、身体強化の魔法も掛ける。
敢えて杖を構えた状態からダッシュし、目安の地点へ。一呼吸置いて再度構えダッシュし、元の場所へ戻る。これを繰り返す。
徐々に息が上がって来るが、更に繰り返す。これを走れなくなるまで続けたら、休憩を挟む。
このダッシュを何回まで繰り返せるかが、成長の目安になるだろう。地味な訓練なので気が滅入りそうになるが、何とか奮起して続ける。
二人の模擬戦は先に亮が音を上げるので、紫雨から声が掛かるまで続けた。
そして今度は紫雨との模擬戦だ。俺はショートソードは構えず、杖を持ったまま回避に専念する。
彼女の振りの速さは鋭く、下層の魔物にも引けを取らない。なので幾度が直撃を受けてしまう。やはり剣で受けられないだけで、選択肢が狭まってしまうようだ。
やがて先に俺の息が上がり、亮と交代となる。紫雨は連戦でも息は整い、素の実力差を痛感する。
俺は息を整えた後、再度シャトルランを始める。自分から課したとは言え、運動部並みのハードさだ。
そうして今日の訓練を終え、皆で帰る。
そして翌日は、異界で実戦訓練だ。
中層で先ずは亮に敵を引き付けて貰う。未だ慣れていないのか、攻撃の全てを盾で受けようとしている。慣れれば回避や剣による受けも織り交ぜられるだろう。
そうして暫く引き付けた後、エリスがボウガンで魔物を射抜く。狙いは違わず一撃で魔物を倒した。俺は魔石と矢を拾い、矢を彼女に渡す。
未だお互い修練が必要だが、一年メンバーの戦闘スタイルが固まってきたように思う。
途中何度か俺が前に出て、魔物を回避のみで引き付ける。中層なら余裕を持って回避し続けられる。下層でも問題無く回避出来るようになる事が、当面の目標だ。
紫雨だけは入学当初から戦闘スタイルに変化が無いが、それまでの修練に裏付けされた実力がある。余計な手は加えない方が良いだろう。何か別の武器も同程度に扱えるのなら話は別だが。
そうして魔物討伐よりも修練に重点を置き、中層を回る。引き揚げる頃には、亮も随分と慣れて来たように見える。
そうして準備室へと戻り、俺は亮に声を掛ける。
「お疲れ。…そろそろ、期末テストの勉強を始める時期だね」
「くっ…、その台詞は聞きたく無かったぜ…」
「そう言わないで。中間テストで傾向も見えたし、前よりも効率的に進められると思うよ。…っと、ちなみにエリスは自信ある?」
「え、テスト?伊達に転入試験をクリアしてないわ。一部を除いて完璧よ!」
「…ちなみに一部って?」
「一年なら現代社会、二年なら古典と日本史。独学じゃあ手が回らなかったわ」
「なら一緒に勉強しようか。過去問メインだけど」
「良いの?じゃあ是非お願いするわ!」
「紫雨も、それで良いかな?」
「ええ、構わないわ」
こうして期末テストに向けた勉強会を始める事となったのだった。
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