第28話
翌日の放課後。俺は早速昨日の件を尋ねてみた。
「御堂さん、呼び方を変えようと思うんだけど、何が良いと思う?」
「え…、え?な、何いきなり!?」
問われた御堂さんは、酷く狼狽していた。どうしたのだろうか。
彼女は何度か深呼吸すると、口を開いた。
「えと、どうして呼び方を変えたいのかしら?」
「リーダーとして『さん付け』は止めるようエリスに言われて。亮は元々呼び捨てだし、後は御堂さんだなって」
彼女は暫く無言で固まったかと思うと、深く溜息をついた。
「…そういう事ね。なら私も名前呼びで良いわよ」
「名前…えと、何だっけ?」
俺がそう答えると、彼女は顔を両手で覆った。何か今日は情緒不安定だな。何事だろうか。
彼女はその姿のまま呟いた。
「…紫雨(しぐれ)よ。確かに名乗って無かったかも知れないわね。覚えておいて」
「判った。じゃあ今後は紫雨って呼ばせて貰うよ」
さて、呼び方の結論は出た。これで心置きなく異界攻略を再開出来るというものだ。
前回は中層を攻略したので、本日は上層だ。このメンバーなら余裕だろう。
実際、皆中層よりも気を抜いて回る事が出来ていた。油断するのは良くないが、怪我の心配も無いなら大丈夫だろう。
「敵が弱いわねー。もっと張り合いが欲しいわ」
「だよな。流石にもう上層は余裕だな」
エリスと亮が意気投合していた。対して紫雨は変わらず、黙々と役目をこなしている。対照的だ。
俺は念のため二人に声を掛ける。
「中層から魔物が上って来る事もあるから、気をつけて」
「そうは言うけどよ、ランクから言えば中層も俺達はリーダー抜きで回れるだろ?油断するなという方が無理だぜ」
「まあそれはその通りなんだけど…」
恐らくだが、本来ならもう少しランクアップに時間が掛かるのだろう。下積みのように上層に挑み続けるのが普通の筈だ。
タイミングとしては、三年が引退のタイミングで中層に挑むのが丁度良いのだろう。
「なら上層はさっさと回って、中層に行く?」
「賛成ー。稼ぎにも影響するんだから、さっさと行きましょ」
俺の提案に、エリスが同意する。
そうして早速中層へと行き、攻略を続ける。気の抜けていた二人も生き生きしていた。
俺も使うのは身体強化と魔法の鎧のみとし、手は出さずに三人の戦いを暫く見守った。
やはり紫雨が実力では一歩抜きん出ている。構えや振りなど、どれを取っても安定感がある。亮も実力は上がったが、未だ及ばないようだ。
エリスは実力自体を測るのが難しい。命中精度は高いのだが、魔力銃の威力が足枷になっている。中層は問題無いが、下層は今の魔力量では厳しいだろう。伸びしろが小さいとも言い換えられる。
でも実際、中層メインで充分に稼げるので問題は無いのだが。俺は一年メンバーとは別行動で、先輩と下層に挑む必要もあるだろう。
やがてエリスが魔力切れ間近となり、銃剣に切り替える。接近戦で見ると亮にも遠く及ばない。向こうでも使う機会は極端に少なかったのだろう。
流石に不安になる実力なので、エリスには後ろに下がって貰う。どうせ俺は手を出さないので、魔力銃の弾込め役に徹した。
更に暫く進むと、前方に魔物の姿が見えた。俺はそれを見て警告する。
「下層の魔物だ。拘束するまで手を出さないで」
俺は前に出て魔物を観察する。体長4メートル程の草食恐竜のような姿で、目は退化しているのか完全に閉じている。音に反応しているのか、俺の声に合わせて突進して来た。
俺は杖を魔物に向け、魔法を唱える。
「鎖よ、縛れ!」
下層の魔物は全般的に力が強く、拘束しても充分とは言えない。直ぐに破られてしまいそうだ。
そこで試しに拘束魔法を重ね掛けする。すると二度三度と重ねる毎に、拘束が強固になっていった。
これなら当分大丈夫だろう。俺は皆に声を掛ける。
「反撃に注意しつつ、皆で攻撃してみて。エリスは魔力を多めに込めるから、狙いには気を付けて」
そうして三人が攻撃を開始する。身体が大きく表皮も硬いので致命傷は厳しいが、ダメージは与えているようだ。時間を掛ければ倒せるだろう。
俺は拘束魔法の掛け直しと、魔力銃の弾込めに専念する。魔力さえ多めに供給出来れば、魔力銃は二人の攻撃よりもダメージが大きい。
やがて幾度目かの銃撃が顔を直撃し、頭部を破壊する。そして塵になって消えた。俺は魔石を拾い、リュックに入れた。
「流石に下層の魔物は時間が掛かるね。どうだった?」
俺は三人に尋ねてみる。
「手が痛え。流石にキツいな」
「身体が大きいから、深手を与え難いわね。技量だけで無く、腕力も足りないみたいね」
「良い威力ね!これからもリロードをお願いするわ!」
「エリスの提案は却下。頑張って魔力量を増やして」
これで油断していた二人の気持ちも変わる…と思いたい。紫雨は心配無いだろう。
準備室に戻ると、外は雨になっていた。急に湿度が上がった感じがする。
俺は魔石を提出し、四人で一緒に帰る。このままだと明日の買い出しも雨だろうか。少し憂鬱だ。
そうして皆と別れ、エリスと帰る。そして家の扉を開けるタイミングで声を掛けられた。
「明日買い物をしたいのだけど、お店の場所を詳しく知らないの。付き合ってくれない?」
「良いけど…じゃあ明日、10時位で良いかな?」
「それでお願い。じゃあね」
彼女はそう答えると、部屋へと入って行った。
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