第27話

 新たな異界の調査から数日後。

 紬原先輩の件については、自発的な失踪との結論になったそうだ。資産が先輩に贈与されていた事、その割にアパートはそのままになっていた事が理由だ。その為、当面はアパートの家賃を立て替えながら様子を見る事になった。

 新たな異界については、下層のみ必ずSランク一名以上の同行が必須となった。一部に強力な魔物が居る以上、当然の処置だろう。

 そして俺は、そんな事とは関係無く噂に振り回されていた。

「新たな情報だ。一緒のアパートから出て来たから、既に同棲していると思われているらしい」

 亮からの報告に俺は頭を抱える。エリスさんとは結局、毎日タイミングが合うので一緒に通学していた。その結果がこれである。

 噂の件について本人にも聞いてみたが、曰く「噂は噂なんだし、言わせておけば?」との事だった。相手が気にしていないのは救いか。

 だがやはり噂の当事者になるのは、気分の良いものでは無い。無視しようと思っても、視線と声は届くのだ。これ以上悪化したら、登校拒否しそうだ。可愛い子と噂になるのは光栄かも知れないが。

 そして噂が広まり続けている原因はもう一つある。

 俺と亮が食堂で昼食を食べていると、御堂さんとエリスさんが毎回相席しにやって来るのだ。その結果、亮と御堂さんも噂になり始めた。カップル同士と思われているらしい。

 その噂声が聞こえた時の、御堂さんの睨む形相は恐ろしかったのだが。それでも相席を止めないのは、何か理由があるのだろうか。

 変に噂せず、単純に生徒会の四人組と見てくれる人も居るようだが。寧ろ生徒会のメンバーだという事を知らない人が多いようだ。

 その結果、放課後が一番心休まる時間となっていた。

 今日は訓練の日なので、異界の小部屋に皆で集まっていた。

 亮と御堂さんは変わらず模擬戦、エリスさんは射撃訓練をしていた。俺はいつも通り皆に強化魔法を掛けてから、魔法を放ち続ける。

 するとエリスさんが声を掛けて来た。

「ねえ、銃に魔力を込めてよ」

「…それで吹き飛ばされたの、忘れたの?」

「だから調整してよ。程良い感じに」

 そう言われ、仕方なく銃に魔力を込める。皆に身体強化の魔法を掛ける時の魔力量で良いだろうか。

 銃を返すと、彼女は早速撃ってみる。すると普段の数倍の威力が出た。これは上手く魔力量を調整すれば、戦闘でも有効かも知れない。詠唱無しで撃てるのは利点だ。

 其処へ御堂さんが声を掛けて来る。

「ねえリーダー、リーダーも模擬戦をやってみない?」

「え、俺?やっても良いけど、多分直ぐに負けるよ」

「それは判らないわ。さあ、こっちに来て」

 彼女はそう言い、俺の前に立ち構える。対人戦なんて初めてなんだが、大丈夫だろうか。

 俺は杖を背負い、ショートソードを抜く。技量としては入学当初の亮と変わらないだろう。

「じゃあ…行くわ」

 そう言うなり、鋭い突きが顔の横を過ぎる。反射的に避けていた。すると薙刀が引き戻されずに足を払って来たので、後ろに跳んで躱す。

 武器のリーチの差があるので、隙を見て間合いを詰めるしか無さそうだ。俺は以前から試していた事を実践する事にした。

 俺は地面を蹴り、真っ直ぐ御堂さんに向かう。その動きを止めるべく、左から薙ぎ払われる。

 俺はそれに対し左手を翳し、魔法を唱えた。

「盾よ、遮れ!」

 小皿程度の大きさの盾だが、彼女の一撃を防いで割れた。俺はそのまま止まらず突進し、剣で突く。

 それを半身引いて避けられるが、身体を捻って横に剣を振り抜く。その攻撃は柄で防がれるが、俺は同時に左手を翳した。

「針よ、穿て!」

 俺の放った魔法は彼女の脇腹に当たり、魔法の鎧を砕いた。

「…やっぱりね」

 彼女はそう呟く。何とか魔法に頼って勝てたが、何がやっぱりなのだろうか。

「…龍ヶ崎君、貴方は見てて判ったかしら?」

 そう問われた亮は、迷わずに返す。

「動きが訓練してる俺達よりも速い。身体強化の魔法が強めに掛けてあるからか、動体視力も凄いな。後衛のくせに、身体能力がこの中で一番なんじゃね?」

「そういう事。魔法込みなら、接近戦でも一番強いのよリーダーは。だからもっと近接も鍛えてみない?」

 そう言われて考える。正直、魔法の訓練は行き詰っていたのだ。だからこそ杖無しでの魔法の訓練に手を出していたのだが。だが伸びしろのある訓練なら、寧ろ有益だろう。

「…そうだね。これからは混ぜて貰おうか」

 すると御堂さんは嬉しそうに微笑んだ。亮が相手だけでは飽きていたのだろうか。

 其処へエリスさんが口を挟む。

「なら私とも模擬戦しようよ!」

「…早撃ちなら詠唱の分、俺が敗けるぞ。それとも互いに避けるのか?」

「あの魔法のシールドで防ぐ練習とか?それか剣で弾くのなんてカッコいいじゃない?アニメでも見たし」

「アニメと現実を一緒にしないで。会長達なら出来そうだけど、俺は無理」

 俺はそう返すとショートソードを構える。筋力と身体強化のお陰か、重さは殆ど感じない。振りや構えは素人だが、突きなら充分威力が出せるだろう。

 その後は色々と、模擬戦のやり方について皆で話し合ってみた。その結果、やはり銃は模擬戦に向かないと結論付けた。エアガンを用意するか、魔力切れを考慮しサブ武器を持つ方向で検討する事になった。

 既に梅雨に突入し、空は雲が重く覆っている。そんな中を四人で帰る。

 最終的にエリスさんと二人きりになるのも噂を助長させているのだが、同じ行先なのに違う路を行くのも変だ。なので目撃されても諦めよう。

 その途中、エリスさんが話を振って来た。

「ねえ、リーダーなんだから『さん付け』は止めない?」

「突然だなぁ。えーと、エリス?後は亮は呼び捨てだから…御堂さんはどうしよう」

「それは是非、本人に直接聞いた方が良いわ」


 彼女はそう答えると、にししと笑った。

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