第26話
朝、準備を終えた俺は家のドアを開ける。
すると丁度、隣からエリスさんが出て来た。偶然タイミングが一緒になったようだ。
「あ、お早うリーダー!一緒に行きましょう!」
特に断る理由も無いので、一緒に学園に行く事にする。
道中、彼女からは日本語が上手い理由を聞いた。幼少の頃から日本のアニメにハマり、何時か日本に行こうと独学で学んだそうだ。其処までやるとは、大した熱量だ。
学園に近付いて来ると、周囲の視線と声が気になって来る。噂の転入生が、男と並んで歩いている事を怪しんでいるようだ。流石に心地良いものでは無い。
だがまあ、後ろめたい訳でも無いのでそのまま一緒に歩き続ける。
そうして彼女の教室の前で別れ、自分の教室へと入る。
席に着くと、途端に周囲がザワザワし始める。俺は珍しく先に来ていた亮に話し掛けた。
「ねえ、何かあったの?」
「あー。転入生に早速手を出した奴が居るって、噂になってんぞ」
…今朝の出来事が、もう噂として出回っているのか。
「ただ一緒に登校しただけなんだけど…」
「ならちょっと客観的に想像してみろ。どうだ?」
…前日転入して来たばかりのエリスさんと、会話をしながら一緒に登校する男。うん、怪しいと思うな。
「まあ気にすんな。周囲も慣れれば噂にもしなくなるさ」
「…今後も一緒に登校する予定は無いんだけど」
「要は気にするなって事だ」
亮はそう言い、会話を切り上げる。
彼女は未だ日本に慣れていないのだ。もし今日のように誘われたら、断るのは忍びない。ならば亮の言う事も一理あるのだろう。暫くは割り切るしか無さそうだ。
そして放課後。生徒会内では、二つの事件が起きていた。
一つは、会計の紬原先輩のお兄さんが行方知れずになった事。これには会長を含め生徒会役員が総出で対応するそうだ。
そしてもう一つは。
久遠寺先輩と矢吹姉弟、そして俺の四人は、異界中層の噂の場所に出向いていた。
先日まで壁だったその場所には穴が開いており、その先には別の異界が現れていた。話によると異界は突然現れるが、こうやって別の異界と繋がるのは半々程度の確率だそうだ。
俺達は先遣隊として、この新たに出現した異界を調べる事になった。一年の三人は今までの中層を回り、他に異常が無いかを確認する手筈になっている。
早速足を踏み入れてみると、先ず床や壁の違いに気付く。土と石の混ざった素掘りの洞窟になっており、坑道がイメージとして合致するだろうか。
早速、先ずは右の方向へ進み始める。久遠寺先輩はマッピング中だ。
暫く進むと、今までの異界では見かけない魔物が複数現れた。子供程度の大きさの緑色の身体。ゴブリンだろうか。手には棍棒やナイフなどを持っている。
矢吹先輩のお姉さんが群れの中に飛び込み、二本の曲剣を振るう。そして次々と魔物の首が舞う。そして一瞬で全てが塵となった。
「どうだった?」
久遠寺先輩が問う。
「あんまし強くないね。多分だけど、あっちの中層と変わらなそうだよ」
彼女はそう答え、曲剣を仕舞う。
「もしそうなら、今までと難易度が変わらないから助かるのよね。じゃあ先へ進みましょうか」
久遠寺先輩はそう告げ、歩き始める。俺は魔石を拾い、後を追う。
その後も初見の魔物に遭遇するが、苦戦する事は無かった。俺の魔法も問題無く通用する。中層程度という見解も妥当に思えた。
やがて通路は突き当たり、下へ続く階段があった。
「この調子で行けば、向こうの下層と同程度だけど…。油断はしないでね」
そんな久遠寺先輩の言葉を受け、皆で階段を降りる。
見渡す限り、風景は上と変わらなかった。同様の通路が先へと続く。
やがて新たな魔物に遭遇する。肌はゴブリンに似ているが、人間の倍の背丈に額の角が特徴的だった。オーガだろうか。こちらは人型の魔物が多いのかも知れない。
「鎖よ、縛れ!」
俺は早速魔法で拘束する。だが魔法から逃れようとする魔物の力は強く、軋む音がこちらにまで響く。
矢吹先輩が二人とも攻撃を繰り出すが、与えた傷は浅かった。あの筋肉に防がれているのだろう。
俺は魔物の頭部に狙いをつけ、魔法を唱える。
「槍よ、貫け!」
魔法の槍は真っ直ぐ魔物の頭部を抉るが、突如角度を変え天井に突き刺さる。見ると魔物は頭部を半ば抉られながらも生きていた。骨も頑丈なのか。
すると風切り音と共に矢が放たれ、頭部の傷へと真っ直ぐ突き刺さる。魔物は前へ倒れ込み、塵になった。
横を見ると、久遠寺先輩が弓を構えていた。
「…下層はあっちよりも難度が高そうね。念のため、拘束魔法は必ず掛けて頂戴」
「判りました」
俺はそう答え、大きな魔石を拾う。確かに大きさからすると、向こうの下層よりも強かったようだ。
だがそれ以降に遭遇した魔物は、向こうの下層と然程変わらない程度の強さだった。一部の魔物が強力なようだ。
そうして全ての通路を巡り、調査は完了した。
階層は中層と下層のみ、広さは向こうよりも小さめ。魔物は下層の一部を除き同程度という結果だった。
そして通路は中層の一ヶ所とのみ繋がっており、下層では繋がっていなかった。
結果報告と魔石の提出は久遠寺先輩に任せ、俺達は準備室に戻る。既に一年の皆は戻っていた。
「そっちはどうだった?」
「何も変化無しだったぜ。初見の魔物も居なかったしな」
「そっか。じゃあ解散しようか。先輩もお疲れ様でした」
俺は準備室を出る先輩に声を掛け、そのまま一年全員で帰った。
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