第25話

 異界の道中、エリスさんから提案があった。

「リーダー、私の魔力銃に魔力を込めてくれる?」

「別に良いけど…何か意味があるの?」

「込める魔力量によって威力が変わるの。ウィザードなら沢山込められるでしょ?壊れる心配は無いから、やってみて」

 そこまで言われたら断る理由も無い。俺は全開で魔力を込めてみた。感覚としては杖と同様のようだ。

 銃を彼女に返すと、早速とばかりに魔物がやって来た。何時ものマネキンだった。

「じゃあ威力を試してみるわね。えいっ」

 突如、周囲が真っ白な光に包まれた。そのあまりの威力に、彼女の身体が後方に吹き飛ばされる。俺は急いで先回りし、何とかその身体を受け止めた。

 前方を見ると、マネキンはあっさりと消し飛んでいた。そして遥か先の通路で爆発を起こす。

「…おいおい、俺が消し飛ぶ所だったぞ…」

 間近に居た亮が声を漏らす。確かに射線に仲間が居たら、魔物同様に消し飛んでいただろう。

 俺が身体を受け止めたままのエリスさんは、放心状態だった。本人の想定外の威力だったのだろう。

 すると何度か咳払いが響く。御堂さんだった。

「…何時までくっついているのかしら?」

 その言葉に俺が思わず手を放すと、エリスさんはそのまま尻餅を付いた。

「び…びっくりした…。何よあの威力!魔力込め過ぎじゃない!?」

「俺は言われた通りやっただけなんだけど…。どっちにしろ、緊急時以外は禁止だな」

「…そうね。流石にあれだと壊れちゃうかも知れないわ」

 そう言いつつ立ち上がり、お尻をはたく。怪我は無いようだ。

「…という訳で、さっきのは今後やらないから安心してくれ」

 俺は二人にそう告げ、先を進み始める。

 見た感じ亮は問題無いが、御堂さんの機嫌が悪い。エリスさんとの相性が悪いのだろうか。

 パーティ内の関係を円滑にするのも、リーダーとしての務めだろう。俺は御堂さんに近付き、声を掛けた。

「…何かしら?」

 何時も通りの返答だが、若干棘があるように感じた。

 俺は其処には触れずに話題を振る。

「ゴールデンウィークの時に勧められた本だけど、全部一気に読んでみたよ。凄く面白かった。新刊の発売が待ち遠しいよ」

 すると彼女は笑顔を見せ、言葉を返した。

「そうでしょう?理解してくれて嬉しいわ。あれが楽しめたのなら、同じ作者の別の本もお勧めよ。余裕があったら手に取ってみて」

「判った。お陰様で生活費は余裕があるから、今度買ってみるよ」

 その後も本の話題で話が弾み、気が付けば御堂さんの機嫌は良くなっていた。

 すると前方の亮から声が挙がる。

「何か見た事無い魔物だぞ。下層の奴か?」

 見ると浅黒い泥人形の背中に、多数の触手が生えた魔物が居た。

 俺は即座に叫ぶ。

「下層の魔物だ!全員俺の後ろに!」

 俺は杖を向け、間髪入れずに魔法を唱える。

「鎖よ、縛れ!」

 魔法の鎖が魔物を地面に縛り付ける。だが触手全てを抑える事は出来ず、数本がこちらに向かって来た。

「盾よ、遮れ!」

 前方に生み出した障壁に触手が次々と直撃する。俺はその体勢のまま、次の魔法を唱えた。

「槍よ、貫け!」

 引き揚げる触手を追い越すように槍が飛び、泥人形の頭部を撃ち抜く。すると魔物は一瞬動きを止め、一気に塵となって消えた。

 盾が保ったのは僥倖だった。触手を回避しながらでは、魔法を放つのは困難だっただろう。

 そうして再度歩き始めると、エリスさんの視線に気付いた。

「…どうした?」

「ウィザードって強いのね、向こうには居なかったから。…貴方がリーダーの理由が判ったわ」

 つまりは、俺をリーダーとして認めてくれたという事だろうか。ならば悪い気はしない。

 その後は俺は補助に徹し、三人で上手く魔物を倒して行った。これで俺を除いても近・中・遠距離と揃った訳だ。バランスとしては良いだろう。中層は三人に任せ、俺は先輩達と下層に挑むのも良いかも知れない。

 やがて時間となり、準備室へと戻った。その際にエリスさんは銃をそのまま持ち出していた。

 俺の視線に気付いたのか、彼女が答える。

「会長の許可は得ているわ。ポリスに見られても只の玩具だしね。いざという時の為の護身用よ」

 成程、魔力が無ければ使えないのだから、銃刀法にも引っかからないのか。

 俺は集まった魔石を提出し、準備室に戻る。すると全員が残っていた。そのまま四人で一緒に帰る。

 そして途中で亮と別れ、御堂さんとも別れた。エリスさんは未だ居た。

 同じ方向なのかと気にせず帰る。だが彼女は俺の家の前まで付いて来た。そして俺の前を通り過ぎ、隣の部屋のドアを開ける。

「今日からお隣同士、宜しくね!」

 そう言うと彼女は部屋に入って行った。言い方からして、俺の方だけ知らなかったようだ。


 その日は同級生、しかも異性が隣という事を意識し過ぎ、物音が気になって寝付きが悪かった。

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