第20話

 無事に連休を終え、学校が再開した。だが気分的には平日中ずっと学校に来ていたので、連休だったという感じはしなかった。

 朝のホームルームで担任の若林先生からは、連休中誰も問題を起こさなかった事が報告された。真っ先に言う事がそれかと思ったが、先生も大変なのだろうか。

 だが次の話題は全員にとって重要なものだった。一学期の中間テストの日程だ。

 中間テストは今月の下旬に三日間掛けて行われるとの事だ。その話題にクラス中が騒めく。最初なので範囲は多少狭いが、流石に気が滅入る。

 ホームルーム終了後、早速亮が話し掛けて来た。

「なあ、茅人は自信あるか?」

「受験で正直ギリギリだったから、ちゃんと勉強しないと厳しいと思う。別にクラス上位になろうとは思わないけど、赤点は取らないようにしなきゃ」

「そっか、俺は正直ヤベえな。生徒会に勧誘されたから逃れてるけどさ、実は俺スポーツ推薦で入ったんだよな。学力じゃあ高嶺の花だったからな」

「それはご愁傷様。…と言いたい所だけど、生徒会役員って赤点取っても大丈夫なのかな?何か条件ありそうじゃない?」

「あー、マンガとかだと平均以上とかあるよな。それって現実にもあるのか?」

「判らない。だから放課後に聞いてみよう」

 そんな話をしていた事もあり、俺達は放課後に早速会長の所に向かった。

 会長は手に持っていた書類から目線を上げると、口を開いた。

「おお、連休中はご苦労だったな。魔石は今日中に出してくれると助かるぞ」

「判りました。…で、ちょっと質問があるのですけど」

「何だ?4月分の報酬はもう少し後だぞ」

「そうでは無くて。中間テストですが、生徒会役員としての取るべき成績ラインとかありますか?」

「成程、そう言えば話して無かったな。赤点を取ると学校として補習があるが、それとは別に生徒会役員は赤点一教科毎に休日のボランティア活動二日間だ。これが慣例になっている。」

「…ちなみに、今までに赤点を取った人は?」

「私が生徒会に入ってからは、一人も居ないな。昔には数人居たらしいがな」

 会長のその言葉に、亮の顔色が目に見えて悪くなる。

「では桐原君から御堂君には伝えておいてくれ。頼んだぞ」

 会長はそう言うと、書類に目を戻した。俺達はすごすごと準備室へと戻る。

 すると丁度御堂さんが来たので、先程の話を伝えた。

「…そう。赤点を取るつもりは無いから、何も問題無いけど」

「くっ…。その余裕が俺を更に焦らせやがる…!」

「…ぶっちゃけて聞くけど、どの程度ヤバいのさ?」

 俺がそう尋ねると、亮は真剣な表情で答えた。

「保健体育以外は絶望的だ」

 その答えに、こっちが絶望しそうになる。保健体育だけは自信がある事も含めて。

 ならばと俺は話を続ける。

「建設的な話をしよう。正直言って、今から勉強を始めた方が良いと思う。異界攻略をサボる訳には行かないから、代わりに訓練を勉強に充てるしか無いね」

 俺自身は、流石に一夜漬けでも勉強すれば赤点は無いと思っている。だが亮の学力は致命的なようだ。ならばもっと早くに手を打つしか無いだろう。

 其処へ御堂さんが冷ややかに口を挟む。

「普通に授業を聞いていれば、ある程度は取れるものだと思うけれど」

「それはデキる奴の言い分だ!俺は授業内容の半分も理解出来てねぇ!」

 亮は自信満々に言い放つが、その姿が更に悲しさを誘う。

 そうなると「リーダーとして其処までやるのか?」との疑問は感じるが、リーダーとして亮の勉強を見てやるしか無いだろう。

「じゃあ火曜と木曜は、一緒に勉強しようか。流石に任せても駄目だろうし」

「おお、流石はリーダーだぜ!何処かの冷血女とは違って、頼りになるぜ!」

 亮のその言葉に、御堂さんがこちらを睨む。

「…そう、なら私も勉強会に加わるわ。一人じゃあまり訓練にもならないし」

「…え、マジかよ…」

「その代わり覚悟しなさいよ。『判らない所が判らない』なんて口にしたら、全力で殴るから」

 亮は嫌そうだが、俺としては非常に助かる。御堂さんは確実に、俺よりも勉強が出来そうだ。それなら頼りになる筈だ。

「じゃあ御堂さん。申し訳無いけど訓練の日は、三人で勉強会にしよう。代わりに身体強化は掛けるから、無駄な時間にはならないと思う」

「そう、なら多少は有意義ね。じゃあ早速、今日から始めましょうか」

「それならどの教科でも構わないぜ。何せ教科書は全て教室にあるからな!」

「…じゃあ鞄の中は?」

「鉄板を数枚入れてある。俺の筋肉に丁度良い負荷だ」

 俺は頭を抱える。多少予想はしていたが、此処まで脳筋だったとは。このまま放置してボランティア活動をさせた方が、考え方が変わるのではとさえ思えた。

 …だが口に出してしまった以上、もう諦めるしかない。

「…亮、今日の授業の教科書とノートを持って来て」

「判ったぜ。ひとっ走り行って来る」

 そう言うなり、亮は準備室を飛び出して行った。

 その姿を見て、御堂さんがぼそっと呟く。

「…安請け合いしちゃったかしら」

「俺も今、同じ事を考えてる…」


 俺と御堂さんは、亮が戻って来るのを死刑囚の面持ちで待ったのだった。

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