第19話

 世間はゴールデンウイークに突入し、テレビでも観光スポットが特集で組まれていた。

 そんな中、俺は予定通り学校へと訪れていた。既に運動部は練習を開始しており、あちこちから声が響く。

 校舎に入ると途端に静かになり、自分の歩く足音だけが響く。教室棟を抜けて部活棟へ。準備室に到着すると、既に鍵は開いていた。

 扉を開けると、御堂さんが椅子に座り読書をしていた。やはり彼女の佇まいは静謐さが良く合う。

 彼女は俺に気付くと「お早う」と挨拶をし、目線を本に戻す。俺も「お早う、御堂さん」と返し、向かいの椅子に座った。

 予定の集合時間まではもう暫くある。恐らくだが亮は時間ギリギリにやって来るだろう。

 一応生徒会活動という事で、お互い制服だ。

 俺はスマホを取り出し、先日会長から聞いた話を思い出す。

 聞いた話によると、こちらから異界へと物理的に通信アンテナを伸ばしており、異界からの通話も可能だそうだ。もしもの時の緊急連絡用にとの事だが、正直言って緊急時に通話する余裕は無さそうだ。

 俺は視線を少し上げ、御堂さんを見る。

 初めの頃よりは会話も出来るようになったが、こういう時には会話が浮かばない。まあ読書の邪魔をするのも気が引けるので、沈黙も許容出来るのだが。

 そうして暫くスマホを眺めていると、廊下から足音が聞こえて来る。どうやら走っているようだ。

 そしてこの部屋の前で止まり、勢い良く扉が開かれる。案の定、亮が到着した所だった。

「いやー、悪い悪い。何だかんだで時間ギリギリになっちまった」

「間に合ったんだから構わないよ。じゃあ行こうか、それとも一休みする?」

「準備運動みたいなもんだ。行こうぜ」

 そう言い、亮は荷物を置いて異界の門に向かう。御堂さんも本を閉じ、立ち上がった。

 さて、午前中は中層へと向かう事にした。上層は多少疲れていても危険が少ないのが理由だ。

 俺は早速、自分を含め全員に身体強化と魔法の鎧を付与する。

 その後は遭遇する魔物の強さに応じ、拘束魔法の使い分けをする。最近は二人の訓練の為、俺自身は補助魔法のみで攻撃魔法は殆ど使っていない。俺が主となって対処するのは、あのマネキン位だ。

 模擬戦の甲斐もあってか、亮の戦い方が素人目にも良くなって来ている。以前は回避・受け・攻撃がそれぞれ別の動きだったが、今は回避から攻撃に転じる等の繋ぎの動きがスムーズになっている。

 御堂さんは受けを捨て、攻撃と回避に徹底している。試合のイメージで受けると力負けする時があるのだろう。中距離を常に維持し、隙を突くのがセオリーになっている。

 そう考えると、亮が攻撃を引き付けるタンクの役割も担っている。両手剣で無ければ盾を装備して欲しい所だが、本人の好みに口は挟まないでおこう。

 魔石がどんどん俺の背負ったリュックに溜まって行く。俺が一番動かないので、魔石を持つ係になったのだ。身体強化のお陰で負担も感じないので問題無い。

 移動中、俺は合間に魔法の盾を魔力全開で唱える。これが一番俺自身の成長度合いが測り易いのだ。

 以前は鍋の蓋程度の大きさだったが、今は直径1メートル程の大きさになっている。厚みも増しており、中層の魔物なら一撃で破られる事は無いだろう。

 どうやら魔力総量が増すと、一回での全開魔力量も増すようだ。身体能力の成長は後衛である以上判らないが、この分だとちゃんと伸びているようだ。

 そうして可能な限り隈なく中層を巡り、魔物を討伐して行く。半日で全てを回るのは厳しいが、これで大分討伐出来ただろう。

 頃合いを見て準備室に戻り、昼食にする。

 俺は冷凍食品メインの簡単な弁当だ。亮はコンビニで買ったらしいパンが数個。御堂さんは高級そうな重箱を取り出していた。

 それを見て、亮が口を開く。

「…そんなに食うのか?」

「女性に対し失礼ね。食べた分消費しているから、問題無いわ」

 確かに彼女は、胸はしっかり出ているがスレンダーな体型をしている。食事量の分は動いている証拠だ。

「茅人も手作り弁当か。自分で作っているのか?」

「そうだよ。冷凍食品メインなんで、手は掛かってないけどね」

「いや凄えよ。俺は料理は全く駄目だからな。食うの専門だ」

「慣れると結構楽しいけどね。…亮って何か趣味あるの?」

「食事と筋トレ、それにスポーツ観戦だな。お前は?」

「ゲームと読書ぐらいかな?今は節約中なんで、手を出せてないけど」

 魔石の収入は来月からなので、今は生活費でカツカツだ。趣味で集めたゲームや本を売らずに済ませたいのだ。

「んで御堂さんは、何か趣味あんの?」

 亮はそのままの流れで、御堂さんに話を振った。

「…読書と修練、それに将棋かしら」

「…何かシブいな。読むのも歴史小説とかか?」

「…違うわ、こういうのよ」

 御堂さんはそう言い、朝読んでいた本を取り出す。それは俺もタイトルを知っているようなメジャーなラブコメ小説だった。

「へー、何かイメージに合わねーな」

 亮の一言に彼女の目付きが鋭くなる。機嫌を損ねたっぽいので、俺は慌てて口を挟む。

「その新刊、出てたんだね。俺は未だ手を出して無いんだけど、面白い?」

 すると彼女は一転、笑みを浮かべた。

「こういうのが好きなら、絶対に読むべきよ。勿論ストーリー自体も良いけど、キャラが立ってて心理描写も良いわ」

「そうなんだ。魔石の収入が貰えたら、俺も買ってみるよ」

 俺はほっと胸を撫で下ろす。この分だと後で聞かれそうだから、来月には必ず買って読む事にしよう。

 そうして昼食を済ませ、今度は上層へ。攻撃を受ける心配は殆ど無いが、俺の訓練を兼ねて同様に身体強化と魔法の鎧を全員に掛ける。

 後は俺の出番は天井の芋虫位で、二人がどんどん魔物を倒して行く。この分なら上層は単独でも大丈夫そうだ。連休が明けたら、会長に二人のランクアップを進言してみよう。

 こうして上層もある程度回り、陽の高いうちに今日の活動は終了となった。

 俺は集まった魔石を段ボールに詰め、準備室を出る。すると亮だけでなく御堂さんも待っていた。そしてそのまま流れで途中まで一緒に帰る事になった。

 途中で亮と別れ、少しの間御堂さんと二人で歩く。会話は特に無かったが、心地良い時間だった。


 去り際に「ばいばい」と手を振られたので、俺も手を振って見送った。

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