第18話
俺達が対魔特別班に入ってから、1ヶ月近くが経過した。
最近は中層も随分とスムーズに攻略する事が出来るようになった。何体かは魔法で拘束しなくても、俺を除いた二人で倒せるようにもなった。
そんなある日、対魔特別班の全員が集められて打ち合わせが行われた。
会長が立ち上がり、口を開く。
「本日集まって貰った理由だが、ゴールデンウイークの予定についてだ。魔物をずっと放置では数が増え過ぎるのでな、都合がつくなら休み中だが異界に行って貰いたい」
成程。確か最初の頃にも、春休み中に魔物が増えて上層に上って来た件もあった。そういう事態を起こさない為の対策だろう。
だが会長は、何故か気まずそうな表情を浮かべる。
「…だが、今回は正直言って君達一年に頼る事になってしまう」
「先輩達は皆、都合があるという事ですか?」
「そうだ。先ず二年の矢吹姉弟は、いつも通り祖父母の家に帰省する。それが二人暮らしをする条件だったな」
「そうですよー。しっかり顔を見せて来ます!」
「…いつもすいません」
「いや、それが約束なのだからそちらを優先してくれ。普段頑張ってくれているのだから、気に病む必要は無い。…それで私達三年だが、春期講習で予備校通いだ」
三年の先輩達は二人とも進学か。
「以上の理由から、君達一年でゴールデンウイーク中の対処をして貰いたい。上層三割、中層七割の配分で攻略を頼む。恐らくだが、下層から中層に魔物が上って来ると思われる。その際は桐原君、君が対処するように」
「判りました。ちなみに以前下層で遭遇した魔物以外に、注意すべき相手は居ますか?」
「それは問題無いだろう、君なら充分対処出来る筈だ。だが保険医が欠勤の日もあるから、無理はしないように」
それなら大丈夫だろう。同様の戦い方をすれば良い筈だ。
「ついては一年で話し合って、予定表を作成してくれ。なお全ての日を出て来る必要は無い。半分程度で構わないぞ」
そう告げられ、打ち合わせは解散となる。
俺達一年はそのまま残り、予定表を作成する事となった。
「…さて、二人は休み中に外せない予定はある?」
俺は早速二人に尋ねる。
「俺は何もねーぞ。寧ろ暇で困ってた所だ」
「私も同様ね。家に居ても、道場での修練と指導位しかやる事が無いわ」
何も予定は無いようだ。俺も当初はバイトに費やすつもりだったので、これなら二人を単独行動させる必要も無い。
「じゃあバラバラに組まず、全員で出るようにしよう。…いっその事、土日は普通に休みにして、平日休みに出て来るのはどうだろう?その方が俺も家事の時間が取れて良いんだけど」
俺は二人にそう提案してみる。
「良いんじゃね?それで問題無いと思うぜ」
「ええ、それなら普段通りだものね」
「じゃあ決まりだ。それで予定表を作ろう」
そうして予定表の平日に、三人とも丸印を付ける。
「後は時間だな。始業時間でも構わないけど、何か希望はある?」
「私は何時でも問題無いわ。毎日朝の修練で起きているから」
御堂さんは見た目通りの生活をしているようだ。
「…少しだけ遅くしねぇ?生活リズムを崩すつもりは無えけど、毎日朝はバタバタするんだよ」
亮が申し訳無さそうに言う。今まで寝坊した事は無かった筈だが、朝が弱いのだろうか。
「…じゃあ9時にしとくか。後は昼で切り上げるか、午後も頑張るかだけど」
普段の放課後と同程度で済ますなら、午前で終了で問題無いだろう。だが訓練も兼ねるのなら、いっその事午後も頑張るのも有りだろう。
「私は午後も頑張るのに賛成よ。早くリーダーに追い付きたいもの」
「そうだな。差を付けられたままじゃ悔しいからな。俺も賛成だ」
二人の同意を得られたので、午後も頑張る事となった。これなら一日の中で上層と中層の両方を回るのも問題無いだろう。
俺は出来上がった予定表を持って、会長の所へ行く。
「予定表が出来ました。どうぞ」
「ああ、有難う。…成程、やる気満々だな。では頼むぞ。だが何度も言うが、怪我には気を付けてくれよ」
「判ってます。それでは失礼します」
俺はそう告げて準備室へ戻る。
さて今日は異界に潜らない日だが、最近は三人で訓練をしている。なので今日も一緒に異界の小部屋へと向かった。
先ず俺が二人に魔法を掛ける。身体強化と、魔法の鎧だ。なお身体強化は以前よりも強めに掛けてある。
そして二人は模擬戦を始める。仮に攻撃が直撃しても、魔法の鎧で防げるのは確認済みだ。それを魔法が切れるまで行なう。
その間、俺は黙々と魔法を壁に向かって放つ。最近は発動までの時間短縮に傾注している。
俺の魔法の弱点は、詠唱があるため連射が出来ない事だ。もし一撃目を外した場合、二撃目までのタイムラグが発生する。
無詠唱で発動しないものかと試したが無理だったので、今度は詠唱を早口にしてみた。すると魔法が発動したりしなかったりしたのだ。どうやら発動条件が整う前に詠唱を終えてしまうと、魔法が発動しないらしい。
唯姉がわざわざ間を置く詠唱を教えたのも、この辺りが理由なのだろう。
なので今は右手で発動条件が揃う感覚を感じ取り、それに詠唱を合わせる訓練をしている。時間にすれば僅かだが、これで多少は改善されたと思う。
横を見ると御堂さんからの一撃を受け、亮の魔法の鎧が弾け飛んだ。やはり御堂さんは対人戦では圧倒的だ。経験の差が違う。
中途半端に魔法を掛け直すと効果切れのタイミングがずれるので、掛けた魔法が切れるまで休憩となる。俺は二人に近寄った。
そして俺は御堂さんに尋ねる。
「亮に足りない所って、どの辺りだと思う?」
「…型が定まっていないから、体勢が崩れ易い。重心のズレは大きな隙を生む。私は其処を狙っているだけ」
「…亮、剣道でも習うか?」
「勘弁してくれ。上下関係の厳しい体育会系には、もう二度と関わりたくねーの。それなら剣術道場にでも通った方がマシだろ」
「私の家は剣術も教えているわ。どうかしら?」
そんな御堂さんの提案に、亮は心底嫌そうな顔で答えた。
「…教えるのはお前の親父さんなんだろ?すっげー厳しそうだから嫌だ」
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