第17話
日曜日。俺はベッドの上で、昨日の出来事に思いを馳せていた。
二人の試合の後に道場に突如母親が訪れ、家の方へと有無を言わせず連れて行かれてしまった。
そして何故か家族の昼食の場に巻き込まれる事となったのだ。
御堂さんの母親は明るくおしゃべりで、父親とは正反対だった。御堂さんは顔は母親似、性格は父親似だと感じた。
頂いた昼食は如何にもな和食で、普段自炊をしている身としては助かるものだった。煮物とかは中々作らないのだ。
そんな団欒の場は、終始母親が喋り続けていた。御堂さんと父親は頷くのみ。その結果俺に質問が集中する事となった。
御堂さんの学校での様子に始まり、最終的には俺の家族構成や普段の生活にまで質問が及んだ。俺はその雰囲気に呑まれ、全て素直に答えていた。
そして食事のお礼として洗い物を手伝い、家を後にした。
その後は何故かやる気が起きず、殆どを寝て過ごしてしまった。
だが結果として無事御堂さんは活動継続出来る事になったので、無駄では無かった事に胸を撫で下ろす。
さて、今日は日曜日。一週間分の食材を買いに行く日だ。時計を見ると既に10時過ぎ。俺は服を着替えて家を出た。
近所のスーパーに訪れ、買い物カゴを片手に物色を始める。
肉類は冷凍しても問題無いので、必要分を買い込む。悩むのは野菜類だ。一人暮らしではあまり消費しないので、買い過ぎると腐らせてしまう。
なので必然的に、冷凍食品の野菜を買う事が多くなる。ほうれん草やブロッコリー、ミックスベジタブル等だ。必要な分だけ使って保存しておけるので、とても助かる。
などと店内を巡っていると、前方から見覚えのある二人が向かって来た。二年の矢吹姉弟だった。
向こうは気付いていないようなので、俺から声を掛ける。
「先輩方、こんにちは」
「んー?、ああ後輩君だ!こんにちはー!」
「…どうも」
「色々食材を買ってるって事は、君も一人暮らしなのかな?」
「ええ。『も』って事は、二人も?」
「そうだよー。二人暮らしなんだー」
そう言われカゴの中を見るが、やけにお菓子が目に付く。更にお姉さんがぽいぽいとお菓子をカゴに入れて行く。
声を掛けた手前、二人に付いて歩く事にした。
弟さんが黙々とカゴを押し、お姉さんがどんどん食材をカゴに入れて行く。その動きは、まるで母親と子供のようだ。
「…ちなみに、どちらが料理をされるんですか?」
「料理は全部、春樹がやってくれるよ。私は食べる係!」
大雑把な人に料理は向いてないらしいので、ある意味予想通りだ。弟さんは分量に細かそうだし、凝り性っぽいから向いているだろう。料理は女性がという概念も、今は大分廃れているし。
「節約するなら…カレーとスパゲッティがお勧め…」
「カレーは数日保つし、スパゲッティは単価が抑えられるんだよ!」
今日の買い方を見ると節約しているようには見えないので、昔は苦労していたのだろうか。俺も魔石の収入がある来月までは苦しいので、そういった情報は正直助かる。
「ちなみに、何で一人暮らししてるの?」
「実家は同じ県内なんですけど、学校から遠いので。お二人は?」
「私達は両親が居ないんだ。小さい頃に死んじゃってねー。それからずっと二人暮らしだから、歴は長いよー」
「…すいません。変な事聞いちゃって」
「ん?もう随分昔だから、気にしなくて良いよ。正直、顔も殆ど覚えてないしねー」
「…今更」
失言かと思ったが、二人は気にしていないようだ。
俺は二人お勧めのカレールーとスパゲッティをカゴに入れる。これで今週分の食材は充分だろう。
二人も買う物が決まったようなので、一緒にレジに並ぶ。
見ていると、弟さんが財布を出していた。家の事は殆ど彼が担っているのだろう。
そうして二人と別れ、家に戻る。
今日明日使う食材を除き、冷凍室へと放り込む。肉類も量に応じて小分けにした方が良いのだが、流石に面倒なのでそのままだ。
全てを仕舞い終わり、電気ポットのお湯でインスタントコーヒーを入れ一息つく。
もう直ぐ昼食だ。その後は残った家事を終わらせよう。
そうして日曜は過ぎて行った。
開けて月曜。登校して廊下を歩いていると、1-Aの教室の前で御堂さんに会った。確かこのクラスだったか。
「お早う、御堂さん」
「ああ、お早う。先日は手間を掛けた。お陰で助かった」
「いや、力になれたのなら嬉しいよ。寧ろ昼食まで頂いちゃって、申し訳無い位だったけど」
「あれは…母はああいう性格なのでな。ではまた放課後に」
「うん、じゃあね」
そう言い廊下を歩き始めると、いきなり肩を掴まれた。
「よう。随分と仲良さそうだったじゃねーか。週末に何かあったか?」
「…ああ、亮か。お早う…特に何も無いよ」
「それは無いな。彼女、少しだが微笑んでいたぞ。俺はあんな顔見た事無ぇぞ」
「…少し家の事について、相談に乗っただけだよ。亮が期待しているような事は無いよ」
「それだけか?まあ良いや。告白する気になったら俺を頼れよ、アドバイスしてやる」
「…話が飛び過ぎ」
そんなやり取りをしつつ、俺達は教室に入った。
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