第16話
その後も中層を巡り、俺達は魔物を倒して行った。
後半には二人も大分慣れ、拘束を弱めても充分戦えるようになって来た。
そうして今日の攻略を終え、準備室へと戻る。魔物一体の魔石が大きいので、随分稼ぐ事が出来た。
会長に魔石を預け帰ろうとした時、俺は御堂さんに呼び止められた。
「…少し相談がある。時間を貰えないだろうか?」
俺に話を持ち掛けるのだから、恐らくは活動に関する事なのだろう。俺は頷いた。
亮には先に帰って貰い、準備室で話を聞く事にした。
「実は…私の父が、この活動を辞めるよう言って来ているんだ」
「父親が?理由は何て?」
「薙刀術を磨くのなら、家の道場でやれば良いと。どうやら家での修練を怠っているからか、腕が鈍っていると思われているようだ」
「そうか、実の親でも活動内容は言えないもんな…」
実際には毎日鍛えているのだが、父親は知らないのだ。
「それで明日、私の実力を父が見極める事となった。私の腕が鈍っているとは思いたくないが、何せ活動では人が相手では無いから。対人戦が弱くなっている可能性は否めない」
御堂さんは其処まで話すと、決心した表情で続けた。
「あの身体強化の魔法、杖無しでも使える事は出来るだろうか?」
成程。確実に父親に実力を見せる為に、俺の手を借りたいという事か。
俺は早速右手に魔力を思い切り込め、自分の胸に当てた。
「肉体よ、滾れ」
魔力が身体に流れ、魔法は無事発動した。だが効果は杖を使った時の一割程度だろうか。
「…今日、中層で掛けたのより少し強い程度の効果だけど。それで足りる?」
「充分だ。それでは済まないが、明日私の家に来て欲しい」
翌日。俺は教わった通りに御堂さんの家の前に来ていた。
大きな敷地に立派な門構え。由緒ある日本家屋といった感じだ。道場らしき建物も見える。
呼び鈴を押すと、直ぐに御堂さんが門まで迎えに来た。
普段の制服姿しか知らないが、今日は袴姿だった。薙刀をやる時の道着なのだろう。凛とした雰囲気が引き立っている。
「わざわざ有難う。では早速だが、道場に向かおうか」
俺は彼女の後を追い、道場に向かう。
そして道場に足を踏み入れると、外よりもひんやりとしていた。何か静謐な空気がある。
道場の中央には、同じ袴姿の男性が立っていた。あれが父親なのだろう。年齢は40代位だろうか、身体を鍛えているのが見て判る程だ。顔には厳格さが浮かんでいる。
「…そちらが言っていた同級生か?」
「はい、私達一年のリーダーを務めています」
「えっと、桐原と言います。お邪魔します」
俺は流れで一応挨拶をする。
「では桐原さん、貴方には私と娘の試合の見届け人として立ち会って貰う」
そう言うと、訓練用の薙刀の一本を御堂さんに渡した。いよいよ始まるようだ。
すると御堂さんが俺に近寄り、屈んだ。そして小声で告げる。
「では頼む」
そう言い俺の右手を取ると、彼女は自分の腹部に押し当てた。俺の視界には強調された胸があり、右手には柔らかい感触が広がる。
俺は一気に上昇する体温を必死に無視し、右手に魔力を集中する。そして「肉体よ、滾れ」と魔法を唱えた。
魔力が彼女に流れ込み、魔法が発動する。彼女はにこりと微笑んだ。
「有難う。これで大丈夫だ」
そう告げると立ち上がり、父親と相対する。
二人同時に薙刀を構え、試合が始まった。御堂さんは中段、父親は上段の構えだ。
事前にちょっと薙刀について調べてみたが、基本的には剣道と似通っていた。後は受けからの転じ技が重視されている所が特徴だろうか。
だが俺の眼前で繰り広げられている光景は、参考に見た試合の動画とは全く違っていた。
ポイント先取では無く、致命の一撃を与えようとする動き。互いが受け、躱し、隙を突く。実戦を想定した戦いだった。
俺は自身の胸に手を当て、身体強化の魔法を唱える。見届ける以上、ちゃんと目で追わないと。
薙刀同士が打ち合う音が響き続ける。俺の目では、どちらが優勢なのかは判らない。互いに真剣なのが判る程度だ。
やがて戦いの傾向が見えてくる。御堂さんは回避を重視し、父親は受けを重視している。だが回避の方が動きが大きい分、先に体力を消耗しそうだ。
そんな心配をした矢先、脛打ちを避けた御堂さんが体勢を崩す。
「やぁっ!」
父親の上段からの振り下ろし。だが御堂さんも堪え、胴を打ち抜く。
其処で時間が止まる。互いに寸止めをしていた。俺の目では同時に見えたが…。
すると父親が薙刀を引き、その場で正座をした。御堂さんもそれに合わせる。
「本日の試合は引き分けとする。だが怠けるなよ」
父親はそう告げると立ち上がり、道場を去って行った。すると彼女も立ち上がり、俺に近寄って来る。
すると突如足が縺れ、俺は慌ててその身体を受け止めた。
「…どうやら身体強化が切れたようだ。だが…今日は、有難う」
そう告げる彼女の背中を、俺はぽんぽんと叩いた。身体全体に伝わる柔らかさに緊張し、それしか出来なかった。
その後、俺は何故か彼女の家で昼食を頂いていた。
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