第15話

 今日は会長の指示もあり、俺達は一年だけで中層へと訪れていた。

「…前に会ったあんな奴が普通に出て来るんだよな、大丈夫なのか?」

 亮は以前の事もあり、不安を感じているようだ。

「ちゃんと使える魔法が増えたから、大丈夫な筈だよ」

 少なくとも魔物の動きを封じれば、危険は少ない筈だ。

 それよりも。俺は二人を鍛える為に提案をする。

「これからは身体強化の魔法を二人にも常に掛けようと思うんだけど…御堂さん」

「何?」

「これをやると徐々に筋肉が付くんだ。だからそれが嫌なら、言って欲しい」

 彼女は少し思案顔をすると、口を開いた。

「…筋肉質な女性って、どう思う?」

「え?…極端でなければ、健康的で良いと思うけど」

「そう…。大丈夫、私にも掛けて頂戴」

 本人が納得したようなので、二人に身体強化の魔法を掛ける。徐々に慣らすので、先ずは魔力は弱めだ。

「おー、何か力が湧いて来るな!」

「魔法が切れた直後に身体が重くなるから、その時は直ぐに言って。魔法を掛け直すから。…じゃあ進もうか」

 そうして俺達は中層を進み始める。

 すると以前にも遭遇した猪の魔物と遭遇した。

「鎖よ、縛れ」

 俺は早速魔法を唱え、魔物の動きを封じる。

「これで暫くは動けない筈だから、二人で倒してみて」

「判ったわ」

「よっしゃ、思いっきり行くぜ!」

 そうして二人で魔物に斬り掛かる。二年の動きを見た後だと、二人のそれは常識の範囲内だ。だが御堂さんの動きは洗練されており、対して亮は粗削りに見える。

 やがて止めを刺したのか、魔物が塵になる。

「流石に魔石は大きいな。しかしさ、真面に戦えば厳しいのは判るんだけど、何か只の作業になってね?」

「其処は我慢してよ。先ずは安全に倒し、無事に戻る事が優先だから。慣れてきたら拘束を弱めたりするからさ」

「仕方ねーな。まあこれで敵の硬さは知れるか」

「リーダーの言う事だもの、私は従うわ」

「…うん。じゃあ先に進もうか」

 そうして中層をどんどん進んで行く。魔物に遭遇する度に魔法で拘束し、二人に倒して貰う。その際に二年から教わった特徴を説明して行った。

 暫くすると敵の硬さに慣れて来たのか、拘束してから倒すまでの時間が短くなって来た。これなら弱めの魔物なら拘束を弱めても大丈夫だろう。

 すると丁度狼のような魔物が現れた。動きは比較的速いが、防御が脆いので二人でも倒し易い筈だ。

「鎖よ、縛れ」

 魔力量を弱めて魔法を唱える。これでその場からは動けないが、攻撃は出来る状態だ。

「じゃあ反撃して来る程度に拘束したから、ちゃんと防御や回避も考えて戦ってみて」

 俺の言葉に頷き、二人が接敵する。

 御堂さんは武器のリーチもあるので反撃を受けないだろう。注意すべきは武器を弾かれたりする点位か。亮は反撃される距離まで接近するため、特に注意が必要だ。

「うぉ、っと。流石に攻撃は鋭いな。でもこれなら、何とか躱せるぜ」

 亮は身体強化の恩恵もあり、攻撃を回避出来ているようだ。

「はっ!」

 数撃の後、御堂さんの一撃が魔物の首元を斬り裂く。そして塵となり、魔石を残して消えた。

「ふーっ、やっぱこの緊張感が無いとな。戦った気がしねーぜ」

「お疲れ。疲れたら早めに言ってね、ちゃんと休憩を取るから」

「私は未だ大丈夫よ」

「俺もだ。とっとと先に進もうぜ」

 そうして先に進むと、今度はあのマネキンが現れた。

「あいつはかなり硬いから、拘束しても倒すのは大変だと思うけど…どうする?」

 二人に問うと、微妙な表情をした。トラウマにでもなっているのだろうか。

「硬い敵を削り続けるのは、あまり良い訓練とは言えないわ。リーダー、倒して貰えるかしら」

 そう言われ、仕方なく俺だけで対処する事にした。

 何度か戦って動きも把握出来ているので、拘束は不要だろう。

 俺は杖を向け、魔法を唱えた。

「槍よ、貫け」

 狙い通り、顔から胴体に掛けて魔法が貫く。魔物はそのまま床に崩れ落ち、塵となった。

 それを二人は茫然と見つめていた。

「…魔法ってすげーな、あいつを一撃かよ」

「そうね。…随分と差を付けられちゃったわね」

 褒められて悪い気はしないが、根本の戦い方が違うので申し訳無さが先に立つ。


 まだまだ時間はある。俺達は先に進んで行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る