第6話

 あの後生徒会室に戻った俺達は、生徒会長からランクを言い渡された。

 俺と亮はDクラス、そして御堂さんはCクラスだった。彼女の薙刀術は既に高みにあるそうで、生徒会長の評価も高かった。

 俺と亮については、最初の小部屋でなら単独での訓練を許可された。生徒会長曰く「来週また森川女史が来るまでの間に、自分なりに訓練してみたまえ」との事だった。

 俺自身の最優先課題は、攻撃魔法の精度向上だろう。次点で身体強化に身体を慣れさせる事だろうか。

 そして帰り際に、異界への扉のある部屋…生徒会準備室の鍵を貰った。生徒会役員が居なくとも、自由にこっちの部屋は使って良いそうだ。

「今後も月水金の顔出しは必須、火木の訓練は自由だ。折を見て上級生の紹介もしよう」

「じゃあね、かーくん。来週を楽しみにしているわ」

 2人に見送られ、俺達は生徒会室を出る。窓から廊下に差し込む光は、夕暮れに近付いていた。

 御堂さんはさっさと廊下を進んで行く。後ろに結われたポニーテールは殆ど揺れず、姿勢の良さが伺えた。

 流れで俺は亮と途中まで一緒に帰り、途中の交差点で別れた。

 明日からの訓練を考えていた俺は、決心し途中とある店に寄ってから帰った。


 翌朝、少し怠い身体のまま学校に着く。昨日の身体強化の影響だろうか。

 席に着くと、早速とばかりに亮が話し掛けて来た。

「よう。今日はどうすんだ?」

「訓練するよ。俺だけ未だ魔物と戦ってもいないしな」

「そっか、じゃあ俺も行くぜ。つっても、やるのは素振り位だけどな」

 そんな話をしていると先生が来て、ホームルームが始まった。


 そして放課後。俺達は真っ直ぐ生徒会準備室へと向かう。

 廊下で丁度御堂さんと会うが、彼女は逆方向に歩いて行った。今日は帰るのだろう。

 俺達は生徒会準備室の鍵を開け、中に入る。鞄を長机の上に置き、早速異界への扉を開ける。

 一応注意事項として、扉を開けた際に視界に魔物が居たら引き返すよう言われている。だが見る限り魔物は見当たらなかった。

 今日は訓練なので、杖だけをロッカーから取り出す。そして小部屋に入った。

 亮が早速素振りを始める中、俺は訓練の準備を始めた。

「…何やってんだ?」

 そんな姿を亮に問われる。まあ俺も逆の立場なら、同じ問いを発しただろう。

 俺は膨らませた色とりどりの風船に紐を結び、準備室にあった備品を使って目線の高さにぶら下げる。そして電池式の首振り扇風機を近くに置いた。

「何って、訓練の準備だよ。…まあ、見ても判らないとは思うけどさ」

 風船は視界を遮り、邪魔をする為のものだ。そして扇風機で不規則な動きを加える。俺が昨日考えた訓練方法だ。

 先ずは自分に身体強化の魔法を唱え、続いて杖を構える。狙うのは壁の抉れた箇所だ。

「針よ、穿て!」

 ぱあん!という音と共に、放たれた魔法が風船を貫く。壁の狙いからも外れていた。

 俺は割れた風船を外し、新しい風船を吊るす。

「成程なあ。フレンドリーファイア対策か」

「そういう事。これが出来ないと実戦に参加出来ないからね」

 その後も訓練を続けるが、頻繁に風船が割れて行く。思った以上に、動きのある物に視線が引っ張られてしまう。

 だがこれで成果も見え易い。割れた風船の数が減って行けば成果有りだ。努力の成果が目に見えないと、精神的に挫けるのは受験勉強で経験済みだ。

 隣では亮がスマホを見ていた。遊んでいるのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 俺は気になったので尋ねてみる。

「…何を見ているんだ?」

「ああ、昨日会長からメールで送られて来た動画さ。長剣の扱いが上手かった卒業生なんだってさ」

 横からスマホを除くと、男子学生が長剣を振るっていた。どうやら教材として型を実践して見せているようだ。その振りは鋭く、美しかった。

 亮はスマホを置くと、今見た素振りをやって見せる。だが素人目にも雲泥の差だった。

「んー。明らかに違うんだが、何が違うか判らん。横で見た感じ、どうだ?」

「振りの速度が全然違う。あと腰が引けてるし、もっと上半身は前傾かな?」

「そっか。こりゃ自分を動画で撮って、見比べた方が早いか?」

 亮も試行錯誤しているようだ。俺も負けじと訓練を続けた。

 結局その日は最後の方は多少マシになったが、コツは掴めなかった。


 翌日の放課後。俺達は生徒会室で椅子に座っていた。目の前には役員が全員揃っていた。

 会長が立ち上がり、口を開く。

「では生徒会役員を紹介しよう。先ず彼が副会長の伊藤君だ」

 見るからに温和そうな雰囲気の3年男子だ。彼は「宜しくね」と一言発した。

「次に会計の紬原君だ」

 ショートヘアの静かな雰囲気の3年女子だ。彼女は頭をぺこりと下げた。

「次に書記の武井君だ」

 長い前髪と眼鏡が特徴的な2年男子だ。彼は眼鏡をくいっと持ち上げると「宜しく頼む」と言った。

「以上が正規の生徒会役員だ。あと2人程、1年生から採用する予定だ。では続いて、対魔特別班の紹介をしよう。先ずはこちらの久遠寺君だ」

 栗色の長い髪に大きな瞳。明るい性格が表情にも出ている3年女子だ。

「宜しくね。得意武器は弓、ランクはSだよ」

「続いてこちら、双子の矢吹姉弟だ」

 1人はツインテールの2年女子。上級生なのだが幼く見える。

 もう1人は女顔の2年男子。カツラを被れば2人は瓜二つだろう。

「私が姉の春菜。得意武器は曲剣二刀流!宜しくね!」

「…僕は春樹。得意武器は、槍…です」

 見た目は兎も角、性格は正反対のようだ。

 そして最後に締めとばかりに会長が口を開いた。


「以上3人、それに私と君達を加えて対魔特別班のメンバーだ。宜しく頼むぞ」

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