第3話

「判り易く言うとだな…君、ゲームはやるか?」

「はあ、それなりに」

「RPGで言う所のMPが魔力量で、魔法の使用回数等に影響する。普通の人は魔力は全く無く、稀に居ても魔法数回分が精々だ。だが君の魔力量は、それとは比較にならない位に多いのだ」

「…疑問なんですが、何処でそれを知ったんですか?」

「ああ、入学式が終わった後、役員がチェックしていただろう?あれは専用の機械で魔力量を測定していたのだ」

 成程、あれは服装チェックでは無かったのか。

 しかし、これは特筆すべき物の無かった俺でも頑張れるという事ではないか。魔法とやらが本当に使えるのかは判らないが。

 彼女は俺達を見回すと、口を開いた。

「もう質問は無いようだな。直ぐに結論を出すのは難しいだろう。今日はこれで帰って貰って、また明日の放課後に此処に来て欲しい。其処で結論を聞かせて貰う」

 そう告げられ、この場は解散となった。

 俺は帰り道すがら、どうするべきかを考えていた。だが結論はほぼ固まっている。

 自分では知り得なかった能力が活かせて、収入も得られるのだ。今後を考えれば好条件だろう。

 魔物と戦う危険度だけが不安点だが、魔法なら遠距離で倒せそうだ。接近しないのなら比較的安全だと思われる。

 帰宅した俺は夕食を作り、風呂のお湯張りをする。そして夕食後に風呂に入りつつ洗濯機を回す。一人暮らしを始めてから身に付けたルーティンだ。

 風呂上りに洗濯物を干した後、スマホをいじる。魔物絡みの情報が無いか調べる為だ。

 だが検索で引っかかるのはオカルトやファンタジーな話ばかりで、現実世界に関わるものは見付けられなかった。一般人には秘匿されているのだろうか。

 仕方なくアラームを設定し、布団に潜った。


 翌朝。教室で授業の準備をしていると、声を掛けられた。

「よう、お早う。結論は出せたか?」

 昨日の彼だった。龍ヶ崎 亮という名前だったか。

「一応ね。そっちは?」

「ああ、入ろうと思ってる。何だかゲームみたいで楽しそうだろ?」

「まあ確かに。俺も入るつもりだよ」

「そっか。じゃあ仲間になるんだし、俺の事は亮って呼んでくれ」

「判ったよ、亮。俺の事も茅人で良いよ」

「良し、茅人。これから宜しくな」

 そう言い、俺達は握手を交わした。がっしりとした力強い手だった。


 初日の授業が無事終わり、放課後。俺達は教室を出た。

 すると廊下の前方には、同じく昨日呼ばれていた同級生の女性が居た。生徒会室に向かっているのだろう。

 すると亮が彼女に駆け寄り、話し掛けた。

「よう、今から向かうんだろ?一緒に行こうぜ」

 いとも簡単に彼女に話しかけた事に驚く。俺には出来ない芸当だ。

 だが彼女は少し嫌そうな顔をし、言葉を返した。

「馴れ馴れしいわ。友達でも何でも無いのだから、そういうのは止めて頂戴」

「あらら、素っ気ないねぇ。…まあ良いや。どうせ行先は同じだから、後を付いて行くぜ」

 そうして、何故か彼女を先頭にして同方向に歩き始める。まるでストーカーだ。

 彼女はちらりと後ろを見ると、早歩きで進み始めた。…俺は何もしていないのに、随分と嫌われていないか?

 まあ、亮と一緒だったので同類と思われたのかも知れない。諦めよう。

 そうして生徒会室に到着し、ドアをノックする。

「開いているぞ、入って来てくれ」

 生徒会長の声に従い、中に入る。既に先行していた彼女は椅子に座っていた。

「良し、全員集まったな。では早速だが答えを聞かせてくれ。先ずは御堂君」

「…修行の一環になるので、受けさせて頂きます」

「そうか、有難う。では次、龍ヶ崎君」

「楽しそうですし、やらせて貰うっすよ」

「楽しそうか、成程。では最後、桐原君」

「…主にバイトの代わりになるので、やらせて頂きます」

「良し。これで全員オッケーという事だな。では早速、入会届を書いてくれ」

 渡された紙にクラスと氏名、それに血液型と携帯番号を記入する。血液型は輸血が必要な程の怪我に備えて、だろうか。

 生徒会長は全員分の届を受け取ると、満足そうに頷いた。

「では改めて、生徒会 対魔特別班にようこそ!私達は、君達のような精鋭を待っていた!」

 左手は腰に当て、右手を前に突き出したポーズで告げる。何か効果音が欲しい所だ。

 彼女は何故かそのポーズのまま話を続ける。

「…という事で、活動の詳細について説明させて貰おう。先ずは特別顧問の紹介だ。…森川女史、こちらへ」

 その言葉に、隣の部屋からスーツ姿の女性がやって来た。セミロングのおっとりした雰囲気の美人だが、俺はその顔に見覚えがあった。

「…唯姉?」

「あら、かーくんじゃない。こんな所で会うなんて、奇遇ねぇ」

 其処に居たのは、実家の隣に住んでいる唯姉だった。本名は森川 唯香で、小さい頃は本当の姉のように接していた。公務員になったと聞いていたが。

「おや知り合いか?なら都合が良い。彼女には基本的に週1回、桐原君の指導に当たって貰う。私達上級生には、魔法に秀でている者が居ないのでな」


 生徒会長がそう告げると、唯姉はにっこりと微笑んだ。

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