第2話

「百聞は一見に如かずだ、こっちへ」

 彼女はそう言うと、ドアを開けて隣の部屋へと向かった。仕方なく俺達も後に続く。

 隣は倉庫のようで、壁の棚には書類が沢山収まっていた。一応椅子や机も置いてあるが、そのスペースは部屋の半分程度だった。

 彼女は一番角にある本棚から一冊本を抜いた。すると本棚は機会音を立てて横にスライドし、壁には一枚の扉が現れた。

 漫画や映画でしか見ないような仕掛けに俺達は驚き、益々意味が判らなくなる。何故生徒会の部屋にこんな物があるのか。

 彼女はその扉を開き、俺達を手招きする。それに従い近くに寄ると…。

 扉の先には、石壁に覆われた通路が伸びていた。

 廊下が突き当たりだった事から、この壁の向こうは外の筈だ。なのに明らかに異質な空間が広がっている。現実かどうか疑うレベルだ。

 扉の直ぐ先には、幾つもの縦長のロッカーが並んでいた。その一番手前、彼女の名前が貼ってあるロッカーを開ける。其処には日本刀が立て掛けてあった。

 彼女はそれを掴み、石壁の通路を進み始める。

「…私に遅れないように付いて来て」

 俺達は言葉を発さず、ただ彼女の後を追う。何を見せられるのだろうか。

 暫く進むと、金切り声が前方から聞こえて来た。見ると、細く長い脚で器用に歩く、昆虫のような生き物が居た。色は黒く、大きさは中型犬程度だ。正直言って、図鑑でも見た事が無かった。

「あれを私達はカニと呼んでる。あくまで通称だけど。此処では雑魚の部類だ」

 そいつはこっちに気付いたらしく、大股で駆けて来る。思わず俺達が逃げ出そうとした所で、彼女は更に一歩踏み出した。

 きいん、と言う音が響く。見ると彼女は刀を振り抜いており、謎の生き物は真っ二つになっていた。

 するとそいつは徐々に身体が崩れ、最後には妙な色の石ころだけが残っていた。

「先刻のが魔物、そしてこれが魔石。…じゃあ一度戻ろうか」

 彼女の言うがままに通路を戻る。また何か来るのではないかと背後が気になってしまう。

 彼女は刀をロッカーに仕舞い、生徒会室まで戻った。

「…さて、魔物という存在について理解したかと思う。そこでこれだ」

 そう言うと、プリントを一枚ずつ手渡された。タイトルは「生徒会 対魔特別班 活動要項」と記されていた。俺はそのまま目を通して行く。

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 仕事内容: 異界に住む魔物の討伐

 仕事詳細: 1)各個人の適正に合わせた訓練の実施

       2)異界への侵入及び魔物の討伐

       3)魔石の収集及び売却

 福利厚生: 1)保健室での特別治療(負傷時)

       2)異界侵入は隔日(月水金) ※訓練は別

 教育訓練: 先輩及び特別顧問による指導

 危険手当: なし

 その他:  月30万円も夢じゃない!

       明るくアットホームな職場です!

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「………」

 何だこのブラック企業の求人みたいな内容は。突っ込むべきか。ちらりと横を見ると、2人も困惑していた。

 駄目だ耐えられない。俺は口を開いた。

「…あの、質問いいですか?」

「ああ良いぞ。何だ?」

「怪しさ満点なんですが、狙ってますか?それとも素ですか?」

 すると彼女は顎に手を当て、答えた。

「…ユーモアは心の栄養だぞ」

 成程、この人の性格が掴めてきた。空気が読めないタイミングで笑いを突っ込んで来るタイプだ。

「…まあ敢えて怪しい感じに書いたが、内容は事実だ。先程のような魔物を倒し、魔石を集める。それを売る事で君達の収入にもなる。最低賃金でバイトするよりも稼げるだろう。それに生徒会所属なので内申点も期待出来る。どうだ?」

 収入の所に俺は惹かれる。バイトを探す必要も無く、活動がそのまま収入になるのは大きなメリットだ。どれだけ危険なのかが判らないのが不安点だが。

 すると唯一の女生徒が手を挙げた。

「先程の刀ですが、業物ですね。警察には許可を?」

「取っていないが」

「…違法行為では?」

「異界は超法規エリアだ、問題無い」

「………」

 それきり彼女は黙ってしまった。納得したのだろうか。しかし本物だったのか、あの刀。

 今度は同じクラスの彼が手を挙げた。

「俺達が選ばれた理由を知りたいんすけど」

「そうだな。では一人ずつ説明しよう。まず龍ヶ崎君、君は身体能力の高さを評価され選ばれた」

「…まあ確かに運動は得意っすけど」

「次に御堂君、君は自宅の道場で培った薙刀術を評価され選ばれた」

「………」

「最後に桐原君、君は…」

 彼女は俺の目を見て、告げた。


「内包魔力量の高さを評価され、選ばれた」

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