こちら生徒会 対魔特別班
龍乃 響
第1話
春の暖かい風を感じながら、俺は通学路を歩く。
良くラノベでは、主人公が自分語りで「俺は普通の男子高校生だ」等と言う事が多い。だが実際は普通じゃない事が大半だ。
不思議な力を持っていたり、沢山の女性にモテたり、特殊な家庭環境だったり。普通とは何だと問いたくなる。
だが俺自身…桐原 茅人(きりはら かやと)は、正真正銘の普通の男子高校生だ。
容姿にコンプレックスは無いが、秀でた所も無い。勉強は普通、運動は団体競技が苦手。趣味もアニメやゲームを嗜む程度で、これといった個性が無い。
敢えて挙げるならば、今春から一人暮らしを始めている所だろうか。
桜の花弁が舞う路を歩きながら、眼前に広がる校舎を見る。
私立光陵学園。県内で上の下に位置するこの学園で、今日から俺の新たな生活が始まるのだ。
かなり受験勉強を頑張って入ったこの学園は地元から遠く、自宅からの通学が困難だった。両親は快く一人暮らしを許可してくれたが、仕送りの金額はギリギリだ。
なのでアルバイトをしようと思っている。一人暮らしなら許可も出易いだろう。
さて、この学園のモットーは文武両道。但し武とは武道では無く、部活動・委員会活動全般を指す。
校舎は大きく分けて3つに分かれており、左から部活棟、教室棟、技術棟となっている。
正面の玄関に向かい、掲示してあるクラス分けを確認する。
…俺のクラスは1-Dだ。指示に従い教室へと向かった。
教室に入り、指定の席に座る。周囲は同じ中学出身同士で固まり、会話に花を咲かせている。
残念ながら俺と同じ中学出身はこの学校に殆ど居らず、このクラスに至っては1人も居なかった。…無事友達が出来るかどうか、ちょっと不安になる。
やがて教師の指示により体育館へと向かう。入学式が始まるのだ。
ネクタイやリボンの色から、前から1年・2年・3年と並んでいるようだ。赤のネクタイに紺のブレザーが俺の今の恰好だ。
壇上では司会の教師の進行により、入学式が始まった。
先ずは学園長挨拶。校長じゃないのは学校では無く学園だからか。見ると40代半ばの長身のスマートな男性が演台の前に立った。
髪をオールバックにし、張りのある声で話す。やり手の若手経営者といった感じだろうか。話自体も要点を簡潔に語っており、長話をしないのは有難かった。
続いて生徒会長挨拶。「はい」という返事と共に壇上に上がったのは、黒髪ロングの女性。見た感じは容姿端麗。如何にもお嬢様然として見えるが、意思の籠った瞳がそれを否定していた。
「ご紹介に与りました、生徒会長の宮前です。新入生の皆さん、ようこそ光陵学園へ。今は未だ前途に不安を感じているかも知れませんが、優しい上級生と真摯な教師の方々により、その不安は直ぐに払拭されるでしょう」
溌剌とした、それでいて心地良い声色。確かな自信と、それを裏付ける実力が垣間見える。
至福と形容出来る時間は、あっという間に終わりを告げた。彼女が壇上から降りる。
俺を含め大勢の新入生が、その姿を目で追っていた。
その後はクラス毎の担任の紹介と挨拶があった。俺達のクラス担任は若林先生と言い、気が強そうな若い女性だった。
こうして入学式自体は終了した。
1年生から体育館を出て行く際、生徒会の腕章を付けた上級生達が何かを一人ひとりチェックしていた。初日から服装チェックだろうか。
だが誰も咎められる事無く、その場を通り過ぎる。気にはなったが、そのまま教室へと戻った。
その後のホームルームでは教科書と時間割、それに生徒手帳が配られた。そして学校に関する説明を色々とされた。
これで終わりかと思った頃に教室のドアがノックされ、生徒会の腕章を付けた上級生が入って来た。
その人は先生と少し話をすると、先生が口を開いた。
「龍ヶ崎 亮と桐原 茅人の2名は、この後直ぐにこの生徒会役員の指示に従うように。それでは本日は終了とする。…起立、礼!」
そう告げられ、さっさとホームルームが終了する。
俺は状況が判らないながらも荷物を持ち、生徒会役員の所へと向かう。既に1人近くに居るが、彼が呼ばれたもう1人だろうか。
茶髪を短く刈り上げた、スポーツ系のイケメンだ。彼も困惑した表情を浮かべていた。
早速とばかりに役員の人が歩き出したので、その後を俺達も付いて行く。
渡り廊下を通り、部活棟へ。そして階段を登り3階へ、そのまま奥を目指す。
辿り着いたのは生徒会室だった。指示通りに中に入ると、パイプ椅子が置かれ既に10数人が座っていた。全員1年生だ。皆、服装チェックに引っ掛かったのだろうか。
俺達も椅子に座り暫く待つ。すると隣の部屋から1人やって来た。それは入学式でも見た生徒会長だった。
彼女は俺達の前に立つと、口を開いた。
「ご足労頂き有難う。早速だが、何かしらの部活や委員会に入ろうと決めている者。手を挙げてくれ」
その言葉に従い、結構な人数が手を挙げる。俺はバイトが可能な部活が無いか探す予定なので、手は挙げなかった。
「…良し、今手を挙げた者。手間を掛けさせて申し訳無かったが、帰って貰って良いぞ」
そう告げられ、疑問符を浮かべながらもぞろぞろと生徒会室を出て行く。
残ったのは、俺と同じクラスの彼を含め3名だけだった。
いよいよ集められた目的が判らない。全員が困惑していた。
そんな空気を払拭するかのように、彼女が告げた。
「この場に残った君達には、これより生徒会から正式に勧誘をさせて貰う」
その言葉に俺達は益々混乱した。本来、生徒会は優秀な生徒が務めるものだろう。他の2人は判らないが、俺が勧誘される理由は何も無い。可能性があるとしたら、人違い位か。
そんな俺達を見て、彼女は満足そうに頷く。予想通りの反応だったのだろうか。
「勧誘しているのは生徒会内の、本来業務とは全く別の1組織だ。学業や人心掌握に長けている必要は無い」
そう告げられるが、疑問は解消しない。なら何をするのかが判らないからだ。
彼女は今度はにやにやと笑みを浮かべる。俺達の反応を楽しんでいるようだ。入学式での印象は早速崩れ去った。
彼女はこちらを指差すと、芝居がかった口調で告げた。
「君達に入って欲しい組織の名称は、その名も対魔特別班。…君達には、魔物と戦って貰いたい」
その言葉に、俺達は困惑を通り越して呆れ顔になった。
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