第5話 男風呂
「いやー、今日の雪合戦は楽しかったなぁ!」
俺は雪合戦の後、師匠とマスターと一緒に大浴場の男風呂へとやって来た。ララとココとモディは女風呂だ。
ララはノアの姿で男風呂に来たそうだったけど、皆に止められた。ララはちょっと女の子としての恥じらう気持ちが足りないと思う。俺はあの時あんなに恥ずかしかったのに、子供同士だから良いのではないかとララは平気な顔で言っていた。
子供だけど俺は男だ。色々考えるだけで恥ずかしい……
きっとララは純粋だから、男とか女とかあまり考えないんだろうな。まだ5歳じゃそんなものかもしれない。ララの可愛さを思い出してついにやけてしまう。
「なんだ、セオご機嫌だな?」
師匠は服を脱ぎながら、俺の背中をバンと叩く。軽く叩いているようだが、結構痛い。師匠の体は傷だらけだ。若い頃に旅に出て色んな魔獣と戦ったらしい。すぐにポーションや、癒しを受けれなかった事が多々あって、傷が残ってしまったそうだ。でも男の勲章だと言って師匠は豪快に笑い飛ばす。
「マトヴィル、そんなに力を込めて叩いたらセオが可哀想だろう、背中が赤くなっているではないか……」
まったく…… とため息をつきながら、マスターは俺のことを心配してくれる。お風呂から出ても痛むようだったらララ様に癒しを掛けてもらいなさいと、優しい言葉も一緒だ。
マスターの体は引き締まっているが、色が白く、とってもキレイだ。公共の男風呂でこの裸を他の男の人達に見せるのは、危険なのじゃないかなと俺は思う。
多分、男同士でも惚れてしまう人が出てしまうのではないだろうか……そんな気がする……
それに比べて俺の体は子供体型だ。勿論鍛えているから、それなりに筋肉は付いていると思う。だけどやっぱりまだ物足りない。早く大人になって、ララを守れるようになりたい。
憧れのこの2人の様に……俺も絶対になってやる。
俺たちは体を洗い湯船につかる。ララが一生懸命作ってくれた大浴場はとても広い。俺の居た村にも皆で入る風呂はあったけど、こんなに広くなかったし、お湯もこんなにも豊富ではなかった。
皆で頑張って水を溜めて、順番に風呂に入った。俺たちが入るころになると、お湯も決して綺麗では無く、余りに酷いときは水浴びで済ませたものだ。
それも毎日風呂があるわけではない、一週間に一度ぐらいだ。後は体を拭くだけで終わる日もあった。水はそれだけ村では貴重だったんだ。
それが今では湯口からずっと綺麗な水が出ている。体を洗うのもシャワーでサッと流すことが出来る、まるで夢のような世界だ。
初めてこの家に来た日、お風呂やトイレに驚いた。まるで性能が違う、別の世界の物に見えた。使いかたを教えてくれたオルガさんに、何度も確認して聞いてしまったものだ。
でも今ではすっかりそれにもなれ、ララが作る奇想天外な魔道具にも驚かなくなってきた。どちらかと言うと、喜びの方が強くなった気がする。
モディのこともそうだ。俺はずっとモデストに憧れていた。それがまさかララが手作りで作ってくれるなんて思いもしなかった。その上モディは喋るのだ、初めてモディに会った日の喜びは一生忘れないと俺は思う。
バルを育てて居たから分かる、お互いに言葉が通じ合うにはとても時間が掛かるのだ。それがララの作ったものは、一瞬でそれを乗り越えてしまう。
ココにしてもそうだ。ココはララの魔力をまとっているとてもいい子だ。頭もとても良い。あんな幼蜘蛛がいるだろうか……ララは本当に不思議な子だ……
そしてとても綺麗で魅力的な子だと思う……
「どうした、セオ随分おとなしいな。疲れちまったか?」
「えっ?」
俺がララの事を考えていると、師匠が声をかけてきた。
「ははーん、お前ララ様と風呂に入りたかったんだろうー」
「なっ、ち……違います!」
「ガハハハッ、冗談だ。そんな赤くなるな」
師匠はまたバンバンと俺の背を叩く、俺は恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でも分かった。するとマスターが大きなため息を付いた。
「マトヴィル、あまりセオをからかうな、可哀想だろう。大体、セオの想いはそんな軽いものでは無い。本気でララ様に惚れているのだ。命をかけて守ろうとしている、馬鹿な事を言ってやるな」
「なっ!」
俺はマスターの言葉に驚く、惚れてるって……
「惚れてるのは分かってるけどよ、お前は真面目過ぎなんだよ。こう言う事は軽く話して色々聞いてやるのが、大人の役目だろうが」
師匠も俺が惚れてること前提だ……なんだか益々恥ずかしくなる……顔が熱い……
「女性は軽い気持ちで愛を語られれば、その者を相手として見ることはないぞ。だからお前はモテないのだ」
「お前だって結婚相手もいないだろう……」
何だか段々話が違う方向へ行きだした。俺は賢く黙っていた。変に話に混ざれば、こっちに火の粉が飛んでくるからだ。
「まぁ、あれだな、ララ様に惚れちまうのはしょうがない」
「そうだな、あの幼さなのに愛にあふれている。その上頭もよく、美しい。しかもそれを自慢することも無い、謙虚で、素晴らしいお方だ」
師匠は俺の肩をがしっと掴んだ。その力が強くて、俺は肩まで湯に沈んでしまい顔がさらに熱くなった。
「まっ、あれだな、これからライバルは増えるぞ。今は幼くて分からないかも知れねーが、ララ様はどんどん美しくなるぞ」
「うむ……エレノア様の時もそうだったが、虫けらどもが自分の姿も顧みずに群がってくるのだ、特に自身が優れていると勘違いしている王子などに目を付けられれば、国際問題になり得る。セオ、よく周りに注意して、気を付けなければならないぞ」
「そうだなぁ、王子は厄介だったな。すぐに嫁にと言い出しやがる」
「そうだ、それもしつこいと来る。本当に厄介だ。何度処分してやろうかと思ったことか……」
「……だとしたら……セオは、騎士としての資格を取った方が良くないか?」
「ふむ、そうだな、これから学校へララ様も行くようになる、その際騎士として付いて行くのは必須であろうな……ふむ……セオの気持ちはどうだ?」
俺は2人が話す事を、ぼんやりと聞いていた。何だか暑さのせいか頭がクラクラして来た。体もとても熱い、だけど良い気持ちだ。
「「セオ!」」
俺がお風呂で最後に聞いたのは、2人の慌てた声だった。どうやら俺はまたのぼせてしまったらしい。
そのまま師匠に抱きかかえられて運ばれたようで、気が付いたらララの部屋のベット上に寝ていた。
ララが癒しを掛けてくれたようで、気持ち良く目が覚める。起き上がって見ると、そばにはココとモディがいた。周りの様子を見ると、ララが師匠とマスターと話をしていた。
「二人共、セオが倒れるまでお風呂に入るなんて、どういう事ですか? 子供じゃないんですよ!」
「ううう、ララ様すまん……」
「私の不注意でした。申し訳ございません」
ララは 「まったくもう」 と言いながら、俺の方へ視線をよこす。
「セオ! 目覚めたのですね。良かった。喉は乾いていませんか?」
ララは俺に水差しから冷えた水をコップに入れて差し出す。とても冷たくて美味しい。俺がコップ一杯の水を飲み干すと、三人の顔がホッとするのが分かった。
「ありがとう。もう大丈夫だから」
俺はそう言ってベットから起き上がった。
「セオ、すまなかった。気持ち悪くはないか?」
「悪かったな」
師匠は俺の頭をガシガシと撫でる。ララとマスターのきつい視線が師匠に飛ぶ。
「全く、マトヴィル、もう少しセオを大切に扱ってください! 力が強いのですから、気を付けて下さいませ」
「そうだ、風呂でもお前が抑え込むから、セオがのぼせたのだぞ」
「えー、俺は優しく撫でてますぜー」
師匠は、自分の頭をガシガシっと掻き、ララとマスターが 「まったく……」 とあきれている。俺は何だかくすぐったい気持ちになった。
「あの……俺、もう大丈夫だから……その……心配してくれてありがとうございます。俺こんなに、誰かに心配してもらえるなんて、この家に来てからだから、なんか恥ずかしくて。あの……なんていうか……」
ララが俺にガバッと抱き着いてきた。俺の胸に顔をぐりぐりと押し付けてくる。凄く可愛い。
「セオは私の家族です! 心配するのは当たり前ではありませんか!」
ララの俺を見上げる目は少し潤んでいる。ララの瞳は青空みたいでとってもキレイだ。
「私はセオを守りますからね。思いっきり甘えてくれていいのですよ! そう、家族……ええ、母親と思って甘えて下さいませ!」
ララは胸を張ってどんっと叩く。ララが良くやる仕草だ。
「母親代わりとしてセオの事は私が何でもやりますよ! さぁ、何かして貰いたい事は無いですか?」
「ララ……母親って……」
ララは俺より五つも年下だ、無理がある。師匠とマスターに視線で助けを求めると、二人とも苦笑いを浮かべていた。
「こうなったララ様を止められる者は誰も居ない……」
マスターが、俺の肩をポンと叩く。
「あー、まぁ、先は長い……セオ、先ずは、男として見てもらえる様に頑張るしかないな……」
師匠も反対側の肩を軽く叩く。今度は優しい叩き方だ。二人は同情する顔を俺に向けて、部屋を出ていった。
俺の母親になろうとしているララをどうすればいいのか、俺がララを守りたいのに、ララはまったく分かってないようだ……
まだ抱きついたままで俺を見上げるララの髪をそっと撫でる。太陽みたいに輝く金色のサラサラの髪。触れるたびにララのいい香りがする。
「ララ、俺の願いはララを守らせて欲しい、それだけだ」
「セオ……」
「だからずっとそばに居させて欲しい……いいかな?」
ララはまた俺の胸に顔をぎゅっと押し付けてきた。
「勿論、勿論です! ずーっとずーっと一緒ですからね!」
ララは俺を家族としてずっとそばに居させてくれると、約束してくれた。その後【指切りげんまん】と言う小指と小指を結ぶ約束をして、俺に 「これで大丈夫よっ」 と笑顔を見せた。
俺たちは手をつないで夕食に向かった。ララは嬉しそうに弾んだ足取りだ。ココもそれにつられて、ララの肩口で飛び跳ねている。モディは俺が心配だからと、キーホルダーに戻ることなく静々と後を付いてきた。
あの日、命を諦めかけた時、助けに来てくれたのがララで本当に良かった。こんなに毎日幸せを貰って、俺は何をララに返せるだろう。
あの日の誓は変わらない、俺は何があってもララを守る! 絶対だ! 俺はそっと呟いた。
「ララ、大好きだよ」と
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