神様のポイントカード
K-enterprise
第1話
懐かしい気持ちを抱えながら鳥居をくぐる。
参道左側の手水舎で清め、拝殿に向かう参道を進む。
参道から右手に見える社務所には、祈祷やお札などの申し込みをする人だろうか?まばらに見えるが、年末の神社故、拝殿までの道のりにお参りする人の姿はいない。
こんなに短い距離だったかな?
印象の違いは、訪れなくなった月日のせいだろう。
二十七年ほど前までは、新年の参拝を欠かさなかった。
習慣の始まりは、忘れもしない十四の冬、彼女と恋仲になって初めての正月。
となりにいる人と、ずっと一緒にいられますようにと、ただ懸命に願った。
そんな私も、もう五十歳になった。
実家のあるこの街へ、夏場に幾度か帰省をすることはあっても、冬は本当に久しぶりだった。
正月を、参拝を、辛い気持ちを思い出したくなかったというのもある。
拝殿に到着し、賽銭箱に五百円玉を投げ入れる。
二礼二拍手の後に、手を合わせたまま願う。すぐに何を願うのか考えていなかったことに気付き、あの頃と同じ願いを告げる
「隣にいる人といつまでも一緒にいられますように」と。
続けて一礼し、くるりと拝殿に背を向ける。
「おい、ちょっと待て」と背後から声を掛けられる。
振り返ると、賽銭箱の横に巫女姿の少女。
年末年始のアルバイトだろうか。それにしても、いつの間に現れたのか?
気になることがもう二つ。
昔馴染みに良く似た面影と、私に対する失礼な言動。
礼儀を諭す発言が喉元まで出かかるが、昨今、道を聞いただけで、行政の不審者情報メールとして発信される時代だ。迂闊な声掛けは身を滅ぼすかも知れない。
「何を呆けている、お前に言っているのだ」
「…お前って、私のことですか?」
「他に誰がいる」
「…何か用ですか?」
なんだろう、私が知らない間に参拝のルールでも変わったのだろうか?不始末をしでかした可能性を探るが思い当たらない。
「なんで今になって来たのだ?」
「今?…ああ、年末の参拝はまずかったのですか?」
めでたい新年を迎える前の年末に、どうしても帰省する事情があった。
実家に居づらかったのと、健康の為に最近行っているウォーキングを欠かしたくない理由で、実家から歩いていて辿り着いたのがこの神社だった。
「そうではない。なぜ二十七年もここに来なかったのか聞いている」
私は、こんな年若い少女にからかわれているのだろうか。でも、なんで二十七年前と断定できる?この子は私の事情を良く知る人の縁故だろうか?いや、そもそもそんな事情を誰かに細かく話した記憶もない。
「君は、何を言っているのかな?」
「一緒に参拝に来ていた女はどうした?」
静かな、問い詰めるような声。声色まで似ている気がする。でも、この少女に似ているその人は。
「死にましたよ。二十七年も前に」
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