第22話・武術大会・二回戦。


「どーん、どーん、どーん」

 薄い色の空に、花火が打ち上げられて、武術大会二日目が始まった。

 王宮のテラスの人影に向かって礼をした剣士は、僅かに二十四名。

昨日に比べて激減している。昨日の試合で九十二名がこの場に立つ事が敵わずに、敗退したのだ。

 昨日四面あった試合場は、今日は二面に縮小されていて、その分観客席が増えている。昨日で敗退した多くの剣士が、今日は観客席に座って見物にまわっている。

まずは昨日に引き続き、敗者復活戦の三戦七試合、四戦三試合が二つの会場を使って同時に始まった。

 その十試合が一時間ほどで終わると、第二会場は撤去されて、一つの会場を観客席が取り囲んだ。


「どん・どん・どん」

 低く響く太鼓が鳴って、

「これより、昨日勝ち残った選手により、三回戦を行います」

進行係が告げると、全観客の注目を集めて本戦の三回戦七試合が始まった。二戦目がシュラ、四戦目がタケイルがでる。


一戦目から前大会優勝のゼンキが登場して、貫禄の勝利を納める。

二戦目・シュラは、西端の町・ランカから来た癖技を使う剣士に手こずりながらも勝ちを納め、二年連続四回戦進出を決めた。


四戦目・タケイルは、軽快に動く楓という女剣士と対戦した。

その敏捷に動く姿に、昔のイシコロゲの雰囲気を感じたタケイルは、彼女の攻撃を丁寧に受けて技を全て出させてから、脇の甘さを教える様に一本を決めた。

敗れはしたが充実した表情の彼女は、試合後タケイルの補佐に付いていたアランゲハに挨拶して握手をして貰っていた。

シュキは最後の七戦目に出場して、一瞬の動きで相手を制して勝った。


続いて会場では、敗者復活戦の五回戦・六回戦が行われて、本戦に復帰出来るたった一名が決まった。

 ここまでの試合で残った剣士八名が、王宮に正対して並んだ。


 王都ザルタから、初出場のタケイル。

 同じく、シュラ。前年度準々決勝進出

海の国・第二の町カブールからゼンキ。前年度優勝者

同じく、栄造。前年度準決勝進出者

北の港町・ソノドから、ジャルタ。

もう一つの湊町・スレダから、シュキ。元優勝者

内陸の町・トキから、五郎。苛烈な敗者復活戦を制した。

西の国境の町・カマハから源信。前年度準決勝進出者

いずれ劣らぬ見栄えと経歴の持ち主である。


しかし、こうやって並べばシュキの痩せこけた体と顔色の悪さ、その異様ぶりが一段と目立ち観客は異様にざわついた。


「どん・どん・どん」

 太鼓が打ち鳴らされて、

「これより準々決勝が行われます」

 と言って、抽選の結果の組み合わせが張り出された。


「第一戦、源信、シュラ出よ!」

「どん」

 太鼓の音と共に、左右から剣士が出てくる。それを大観衆の歓声が包む。

 両者ともに、前年度の実力は伯仲していた。


予想通り、見ている者の目を釘付けにする良い試合となった。だが、稽古相手に恵まれているシュラの方が一枚上手であった。

 一通りの攻守が終わると、敏捷さに勝るシュラが相手を抑えて、堂々とした一本を決め大歓声を浴びた。


「第二戦、ゼンキ、ジャルタ出よ!」

「どん」

 次の試合は、前年度優勝者の貫禄を見せて、ゼンキがジャルタを圧倒して、大方の予想通りの勝ちを納めた。


「第三戦、五郎、シュキ出よ!」

「どん」

 熾烈な敗者復活戦を制した勢いで、若い五郎が年寄りのシュキを抑えるか、と言う皆の予想は覆された。

 勇んで出て来た五郎は、シュキと対峙すると攻める事が出来ずに立ち竦んでいる。


「・・五郎は相手が人では無い鬼だと気付いたのであろう」

 ガランゲが呟いた通り恐怖の顔の五郎は、シュキが迫ると逃げるばかりで、観客の避難の声を浴びる。

しかし、その避難の声さえ気付かない様子の五郎は、シュキの突き出した剣にあっさりと当たって敗退した。


「まあ、あれはあれで良かったのであろう。シュキの鬼の気当てを受けると、最悪は死ぬからな・・」

 ガランゲが、五郎の不甲斐なさにため息をついて言った。


「第四戦、タケイル、栄造出よ!」

「どん」


 前年度上位四名に残ったカブールの栄造が激しく攻める。が僅かに及ばずに引き際にタケイルが栄造の剣を巻き落として、勝負が着いた。タケイルは大歓声を浴びた。


 準々決勝四試合が終わり、勝ち残った者は、シュラ、ゼンキ、シュキ、タケイルの四名だ。

 進行役が出て来て、

「海の国武術大会は、残り準決勝二戦と決勝戦だけになりました。試合は、昼食後の午後二時より行います」

 と、二時間ほどの休憩が告げられた。


「この時間も、奴に張り付くのじゃ」

 ガランゲの命に、十兵衛とアクロスが会場を出て行くシュキにぴったりと張り付いた。

 昨夜は表門を出てから、十兵衛につきまとわれて諦めて帰ったシュキは、裏門からも出ようとしたが、アクロスを見て止めたようだ。つまり昨夜生き肝にありつけなかったシュキは、この昼間でも人を襲いかねないのだ。


「奴の廻りを見張っても、密偵の姿は見えません」

 忍び働きしている、ソラとシクラからの報告だ。

 密偵を見逃すと、人質を取ってまでもやり遂げようとするのだ。それが皆の気がかりであった。


 一方、準決勝に進出できたシュラとタケイルは、イシコロゲの補佐でゆっくりと食事をしていた。

「皆に働かせて済まない・・」

 タケイルが、食事も取らずにシュキを監視している皆を気遣う。


「大丈夫。皆も、役目が出来て喜んでいるのよ。気にする事はないわ」

 と、イシコロゲが大事な試合前の二人の気持ちをほぐす。

「それより、シュラ。相手は去年敗れたゼンキよ。どう言う気持ち?」

 シュラは、去年準々決勝でゼンキと対戦して負けたのだ。

「ゼンキは優れた剣士だ。胸を借りるつもりでやるよ。上位四名に残れただけでも、嬉しいのだ」

 控えめなシュラは、正直に言う。頷いたイシコロゲは、タケイルに向かって言う。


「シュキは優勝など望んでいない。全力で来るわ。年寄りでも鬼になった元優勝者、侮れないわね」

 もはや彼には、優勝しようと言う気持ちさえ無いに違いない。

「うん。淡々と剣の試合をするよ」

 タケイルも正直な気持ちを伝えた。ガランゲの言う通り、気当てが来たら、逆風の剣を使うつもりだ。

 ガランゲが気当てで刺客を倒したのを見てから、気当てに対する防御は稽古しているのだ。




 シュキは、いよいよ次は標的のタケイルだと思うと、暗い快感を覚えていた。このために、面倒くさい思いをして予選から出て来たのだ。

思えば、あの男が目の前に現われたのが、この大会に復帰する契機となったのだ。

あれは、ようやく寒さが緩み始めて野宿する身も楽になってきた、今年の春前のことだった・・


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