05.VS不良
もしも宝くじで一億円が当たったとしてまず初めになにをする? 夢の一軒家を買うとか、自慢のベンツを買うとかそういうのよりもっと前。疑うだろう。もう一度番号を確認する、誰かに当たっていたと言われることがあればより怪しい。だから聞き返したんだ。
「……え?」
「さっきの人が……部員候補って言ってた人……」
「え?」
「どんだけ認めたくないの……」
事実であってしまった。俺はさっきの不良の彼に話かけなければいけないという大きな壁がたった今できてしまった。
「まあ、凶だったし覚悟はできていた」
「今日? なにが?」
「こっちの話だ」
決まってしまったことにウダウダしていても仕方がない。それにここからやっぱり嫌だなんて言えるわけがない。
「……やっぱり勧誘やめたほうがいいかな?」
「やめたい気持ちは山々だが他に部員候補はいないんだろ? 四人集めるには誘うしかない」
あのタイプの人間とまともに話をしたことはないが彼は成績優秀らしい。そこらへんにいる話が通じないタイプの人間ではなさそうだ。むしろあっちが俺のことを話が通じない人間だと思っている可能性が濃厚まである。
それにしても成績トップで入学できるような奴がどうこじらせたらあんなことになるんだ。それに学級委員長を務めているらしい。クラスのトップがあれだ。確かに、頭がいい奴は変な奴が多いがあのベクトルは初めてだ。
そんなこんなで恋する乙女のように彼のことばかり考えていたら七時間目終了のチャイムが耳の中に響く。これは全ての授業が終わったことを示すチャイムでありながら戦闘開始の合図でもある。分かっているのに体はメデューサと目が合ったんじゃないかと思うくらいに動かない。
「
「ああ……」
伏せた顔を上げ、窓側の一番後ろの席でカバンに荷物を詰めている彼を見る。
「ごめん、大変なこと頼んじゃった……」
「いや、大丈夫だ。急がないと帰ってしまうな。それじゃあ、行ってくる。
「う、うん。じゃあ、お願い」
望来の廊下を歩いていく音を聞き俺も足を踏み出す。
「お、おい。
「あ?」
振り向いたその目つきを見た瞬間、脳細胞が練っていたプランをすべて置き去り逃げだした。
「ええっと、なんだろうな、ほら、学級委員長らしいな。自己紹介でもしておこうと思って……」
「友達はいない、成績は下の中。人と話すことに慣れていない、そうだろお前」
なんだこいつ、占い師とか預言者とかそっちの人種か。言っていることが当てはまっているからこそ腹が立つ。
「それはこれまでの話だ。そこから俺は進化している」
「なに言ってんだお前」
そっちがその対応ならこちらも遠慮はしない。
「そう言ってるおまえも、友達なんていないだろ」
今日こいつをストーカーかと思うくらい観察していたから分かる。こいつの小指を結ぶ糸の色は明るくても黄色。つまり仲がいいと胸を張って言える友達はいない。
「いないんじゃねぇ。作らないだけだ」
「なんだよそれ、ただの言い訳にしか聞こえないぞ」
さらに鋭くなった目つき、だがここで逸らせば俺の負けだ。
「言い訳にしか捉えれねェお前の知能の問題だ。お前のボッチとは違う」
「ああ確かに俺は友達なんていない、ただのボッチだ。だがボッチで何が悪い。人と関わるメリットなんてないだろ。強いて学校だからと言えばペアをつくる授業、修学旅行のグループ決め、それぐらいだ。おまえも心当たりあるだろ、ほらボッチだ」
こいつの目つきは変わっていない。けれど口角が上がった、俺の体も。胸ぐらを掴まれ地面から宙に浮き壁に叩きつけられたのだ。
「それで要件はなんだ。俺に話しかけたのは俺が学級委員長だからじゃねェだろ?」
「新しい部活を作っている。部活として認められるには最低でも四人必要だ。俺を含めまだ二人しか部員はいない。だから協力してくれ……」
胸ぐらから手が離され、だらしなく地面に落ちる。
「構わねェよ」
「え」
即答だ。断られると思っていた。
「どうすれば部員になれる?」
「じゃ、じゃあ、まずは望来のところに行くか……」
なんだこの気分、問題に答えがなかったような何とも言えないこの感じは。
そしてタイミングよく廊下を走る音が聞こえてくる。
「あ、もしかして銀麻くん、部活入ってくれるの?」
教室に戻って来た望来が空気を察する。
「ああ」
「ほんと? やったー! これで四人そろったー」
「四人? もう一人も集まったのか?」
「うん!」
望来の元気いっぱいの返事の後扉からそいつは姿を現した。
「よろしくお願いします……」
「あ、ああ……」
髪に関して疎い俺でも知っている。ボブという髪型だ。だがその艶のあるその黒い髪に見惚れているのではない。確かに普通なら見惚れていたと思う。けど普通じゃなかったんだ。
糸が。
真っ黒い糸が腕に絡みついている。小指同士を結ぶはずの糸が自分自身に絡みついていたのだ。
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