LevelMaxな不良
「っていう感じなんだけど……」
部活がなんたらという件はまとめるとこんな感じだ。
①望来もうらいが新しい部活をつくりたい。
②新しい部活をつくるには最低でも四人その部活に在籍する必要がある。
③生徒会に相談窓口というものがあったが今年からなくなる予定。それを部活として継続させていけばいいと高田先生からアドバイスをもらった。
④すでに多くの人は入る部活が決まっていて人手を集めるのが難しい。
「なるほどな」
「それで、ええっと、だから魅上みかみくんにも協力してほしくて……」
初対面の俺の罰として受けた掃除の手伝いをした本当の目的がこれって訳か。四人集める必要があるから、学校に来たばかりの俺なら簡単にそのうち一人を埋める役をさせることができると。
「人と関わる部活なんて望来はともかく俺は絶対できないと思うが」
「そんなことないって。それに魅上くんは無理してやらなくてもぜんぜんいいよ。私がなんとかできなそうなとき手伝ってくれれば大丈夫だよ」
部員の枠埋めとして誘われているということ以外に断る理由はない。同じ部活になれば望来の糸が白い理由について探ることができる機会は格段に増える。反対に部活に所属すれば放課後の時間が奪われるし部員と毎日話さなくてはいけなくなる。
天秤にかけろ。放課後の時間は俺にとって重要な要素ではない。どうせ俺は家に帰ってゲームをするまたはテレビを見て寝るだけだ。けれど毎日少人数で同じ部屋の中で何かをするというのは難易度が高い。そして望来の指を結ぶ白い糸。
好奇心が勝つ。
「まあ、人数が足りないなら仕方ない」
「ほんと! 良かったー。魅上くん、すごい悩んでる顔してたから断られるんじゃないかって思っちゃったよ」
死んだ魚のような目という言葉の対義語があるならば今がその出番だ。わかりやすく喜んでいるのが表情に出ている。
「かなり悩んだからな」
「やっぱりそんな悩んでたんだ……」
「そしたらまず部員集めか。すでに部見学も終わってすでに入部届を出してる人もいるって話だったな」
「そー。私の周りの人もみんな入る部活決まっちゃってるんだよねー」
「俺みたいに休んでた奴もなかなかいないか」
学校休んでる奴だらけになっても別の理由で行きたくなくなりそうだ。
「けど……一人だけ心当たりがあるんだよね」
「心当たり? じゃあそいつに頼めばいいんじゃないのか?」
望来は苦笑いしている。
「けど頼みにくそうっていうか……」
「後々の面倒ごとを解決してくれるなら俺がそいつに頼んでもいい」
「いいの?」
「今のうちに協力してこれから蓄積される何もしない罪悪感を少しでも軽減しておく」
「なにもしないってちゃんと部活は来るんだよね……。けど人集まらないと部活はできないもんね。あ、それじゃあ私の家ここだから、明日魅上くんよろしくね、じゃあねー」
「いや、俺の家も本当にここだって……」
「あ、ほんとだったんだ……」
なんで疑ってんだよ。同じアパートに同級生、それにある程度関りがある奴が住んでいたら俺も嫌っていう気持ちはわかるが。
なんとなく気まずくなり無言の時間を過ごしていたが階段を四回上がって口を開かざるをえなくなった。
「「も、もしかして」」
声がかぶった。
「五階なんだ……」
「まあな……」
絶対内心舌打ちしてるだろ。部活の枠埋めと同じアパートそれに同じ階それに……。
「向かいか……」
「向かいだね……」
もしも望来の小指と自分の小指を結ぶ糸が見ることができたなら、今その糸の色は変わらず白なのだろうか。部活をつくる見通しが立ちつつあり喜び、部活の枠埋めと同じアパートで萎えるこの状況。表情、仕草は一喜一憂しているように見える彼女だが本当はなにも思っても感じてもいないのだろうか。
「じ、じゃあ、じゃあね……」
「ああ……」
その答えは閉じられた扉の音と夕日の光に消された。
……… ……… ………
「おはよー」
「ああ」
学校の日の朝は起きれない。学校の無い日の朝はなぜか起きることができる。つまりこれは人間は本能的に学校という空間を嫌がっているのだ。証明終了。
冴えない頭でこんな素敵で馬鹿なことを考えながら時間ギリギリを責めて登校する。それは中学までの話、そう言いたかったのだが高校でもそうなるらしい。
「いつもこんぐらいの時間に来てんのか?」
下駄箱から落とした靴は上下左右反転。この占いもどきで一日は始まる。これは凶だな。
「今日はちょっと寝坊しちゃった」
「これで寝坊かよ」
凶が出たからと必ず悪いことが起きるとは限らない。ただ、ほんの少し俺は敏感になる。
「おはよう、望来、魅上。仲良く二人で登校か?」
「おはようございます」
「おはようございます。ってそこで会っただけですけど……」
ほら、さっそく嫌な予感。
「高田先生から聞いたよ。昨日は一生懸命掃除をしていたらしいな。彼の言うことは信用できないが、まあ宿題の件はこれで無しということにしておこう」
「ありがとうございます……」
ナイス高田先生。信用はされてないが学年長という立場なだけのことはある。
教室に入り席に着き、朝のホームルームが始まった。
理不尽なペナルティを課されることもなく朝は難なく始まった。このまま適当に授業を受け放課後になって今日一面倒な部員勧誘をさっさと終わらせる。そのはずだった。
そんなはずはないのだが後ろから聞こえた“ガラっ”という扉を開ける音が既にほかの人とは違う、そんな気がしてしまうほどそいつは変だった。
「また遅刻か、銀ぎん麻ま」
「あ?」
その返事に思わず振り向いた。白羅義先生にこの態度をとることができる人間がどんな人間か目に焼き付けておく必要がある。
「あ、じゃないだろう。遅刻は七回目、欠席は三回目。君は留年したいのか?」
後悔した。その時彼を見ていたのが俺だけだったこと、望来の前を向いた方がいいという仕草にもっと早く気がつかなかったことに。白羅義先生に眼をつけるその目はだんだんと下がり俺の視線と交わった。
「なんだお前。喧嘩売ってんのか?」
今にも胸ぐらを掴んできてもおかしくないようなその目つきに言葉を返すという行為を忘れてしまった。
「彼は魅上朝。入院していて学校に来れていなかったんだ。学級委員長として把握しておけよ。それとホームルームが終わったら職員室に来い」
耳カスがたまりすぎているのか。今、学級委員長って言ったか?
「めんどくせぇな。話があんならここで済ませばいいだろ」
「ダメだ。こんなに遅刻欠席が続いているのは異常だ。つべこべ言わず終わったら来い」
「遅刻欠席するような奴が成績トップで入れる学校なんてたかが知れてんだろ。そんぐらいいいだろ」
白羅義先生が教卓から学級委員長の彼のほうへ歩く。これが何を意味するか、俺にはわかる。
彼の正面に立つとその瞬間“バァン”と全学年に届きそうなほどの音が盛大に鳴った。
「イマスグコイ」
壁ドンだ……。扉外れちゃってるけど。
「チっ……」
そのまま連れていくと思ったら白羅義先生は下手すぎる笑顔で俺のほうを振り返る。
「扉、つけておいてくれ」
「は、はい……」
まるで嵐が通り過ぎっていったような静けさだった。そして小声で何か良からぬことが聞こえてきてしまった。
「魅上くん……。その、あの、ええっと……。今の彼が……心当たりがあるって言った……部員候補なんだけど……」
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