11
高台に取り残されたロクサスは未だ呆然としていた。まさかこれ程までに実力の差がある人間が居るとは思っていなかった。本気で殺されるかと思った。目の前にはリアムがいたのに、助けてと目で訴えられていたのに、触れることさえ出来なかった。力が抜けてしまって立てない。
突然の騒ぎに、民衆はリアムの消えていった塔を見上げていた。
あの後レジーはリアムを連れて再び塔に閉じこもってしまったらしい。
ラシャドとササンが偵察に向かい、ロクサスの傍にはアレクが付いて居てくれた。
「殿下……」
心配そうにロクサスを見つめる少年は、こういう時どういう言葉を伝えれば良いのか考えあぐねていた。
暫くすると、ラシャドとササンがロクサス達のもとに帰ってきて首を横に振った。
「今日は儀式、中止だってさ」
「これ以上リアムには近づけそうもない……またあのルーカスって男が出てきたら、恐らく俺でも手に負えん」
「そうか……」
「これからどうしましょう……」
四人の間に沈黙が漂う。
すると、突然ラシャドがロクサスの前に出てきて、いきなり拳骨を下ろした。
「!?」
三人が唖然とする中、ラシャドがロクサスに言い放つ。
「いつまで呆けてるんだ? リアムを助けるんだろ?」
「……! そうしたいけど……!」
「だけど真正面からじゃ無理だ。他の方法を探すんだ」
「でも、どうやってだ……?」
そこでササンが提案した。
「とりあえず、この国の人達を味方に付けられるといいかもね」
「この国の人を?」
アレクが繰り返す。
「うん。その場の空気って、結構戦闘において重要だったりするんだよね。確かに逆転も有り得るけど、ほとんどの場合応援されてる方が勝つよ」
流石は草原で生き抜いてきたササンだった。空気の力をよく知っている人の物言いだった。
「あの時、この国の人達はあっち側の味方だったでしょ? それをこっち側に向かせるんだ。つまり、リアムくんが居なくてもこの世界は大丈夫で、皆が幸せになる方法を探すとかだね」
「確かにそれが一番いいが、そんな都合のいい話あるのか?」
ラシャドが質問する。すると、ここでアレクが閃いた。
「あ……! 元々この世界にいた鳥の神様にお願いしてみてはいかがでしょう……! ほら、昨日の夜話した、図書館にあった話です!」
「よし! そうと決まれば図書館で更に詳しく調べるぞ! 立て、ロクサス!」
ロクサスはラシャドに腕を掴まれて何とか立たされた。
「……分かった、調べよう!」
その目にはいつもの光が戻っていた。
リアムの居る塔の次に大きな建物がこの図書館だった。至る所に鳥の文様が刻まれている、まるで鳥の神を祀るような場所だ。
四人はこの世界の歴史を記されている本を探し、ひたすら読んでみた。どんな小さな手がかりも逃してはいけないと、必死に探した。
すると、アレクが他の三人を呼んだ。
「皆さん、ちょっと来てみてください。これはもしかして、鳥神様の居場所では無いでしょうか……?」
三人がアレクの傍に寄ると、アレクはとある本の一頁を開いていた。ササンが読み上げる。
「鳥神住まう地、ここに記す。……当たりみたいだね」
どうやら鳥神はこの街から西方に位置する神殿に眠っているらしい。
「よし、早速行ってみよう!」
ロクサス達は本を見て簡単な地図を作り、街を出る準備をした。
「リアムの声は真剣だったし、顔色も悪かった。とにかく急がなきゃ!」
ロクサスはみんなに言ったが、それはどこか自分に言い聞かせるようでもあった。
街には四方に出入口が設けられている。この間この街に入った時の東口とは真逆の位置の出入口を潜る事になってしまい、外で待っているアレクの竜との合流は叶わなかった。
四人は草原に出ると、真っ直ぐ西に向かった。
西に進むにつれ、段々と草場が無くなり、次第に岩と砂だけの世界になった。
「この辺では雨あんまり降らないのかな」
ササンが不思議そうに辺りを見回す。ロクサスが疑問を口にした。
「そう言うもんなのか?」
「そうだな。そこの気候によって地形も変わるからな」
ラシャドが答えた。聞くと、ラシャドの育ったナード大陸では、場所によって気候や地形がとにかく変わるらしい。
「そうなんだな。ルシタル王国ではほぼ緑の草原とか山だから、なんだか不思議だよ」
「俺にはここはちょっと暑すぎます……」
辛そうに言うのはアレクだ。
「俺の育った地域は雪国なので、こういった環境は苦手で……」
アレクは普段とは違い薄着にしているようだったが、それでも暑いと感じているらしい。
「確かに少し気温が上がってるよな。神殿のある場所って暑いのか……?」
不思議に思いながらも進んでいくと、強い砂嵐に遭った。しかし、その先に見えたのは大きな岩の建物だった。
「あれが神殿か……!?」
ギリギリ目を開けられる状態で、何とか前を確認しながら歩くと、そこには確かに神殿らしき建物が建っていた。
しかし、そこには何匹かの魔物の姿が見受けられた。数は多くなさそうだが、神殿に入る前にどうやらひと仕事しなければ行けないらしい。
「数は三、四、五……五体はいるね。砂嵐で見えないけど、まだいるかもしれない」
ササンが言うと、全員戦闘体制に入った。
魔物は生き物の形をしてはいるが、厳密には生き物ではない。この世の負の感情が凝り固まって出来た異物なのだ。動物や人の形をしているのは、その方が人間が攻撃しにくいのを知っているかららしい。
彼らは人の負の感情で形を成し、また負の感情を食らっている。そうして大きくなるのだ。
「なんでこんな所に魔物がいるんだ……!? 扉はずっと向こう側なのに!」
ロクサスが疑問を口にする。
「恐らくはこの世界で生まれた負の感情の寄せ集めだろう。まだ界廊に出ていないだけで、界廊の魔物と同じだ」
ラシャドが説明する。
「それだけこの世界の負の感情が高まっていたのですね……」
「前にレジーが言ってた疫病のせいかもしれないな。とにかく倒して神殿に入るぞ!」
そう言ってロクサスは魔物に向かって走り出す。が、途端に強い砂嵐に阻まれて身動きが取れなくなった。
「くそっ……!」
砂嵐のせいで出遅れたロクサスに魔物たちが気付いてしまった。魔物は大きめの兎のような形をしていたが、表面はぬるりとしていて黒々としている。赤い目だけがこちらを見ていたが、それらは突然に凶悪な牙を剥いて一斉に襲いかかってきた。
ロクサスは咄嗟に剣で牙を防ぐが、それも一匹だけだ。残りの四匹には到底足りなくて、左腕を齧られる。
「くっ……!」
「ロクサス!」
慌てて加勢に入ろうとするラシャドもこの砂嵐では得意の速さが出ない。ササンも同様に手をこまねいていた。
「アート!!」
その時、ロクサスの後ろで追い風が吹いた。アレクの声だ。一気に砂嵐が吹き飛ぶ。
「アレク!? そうか、魔法!」
「はい!砂嵐は俺の魔法で相殺します。今のうちに、早く!」
「助かる!」
その声と共にロクサスは自らの腕に噛み付いていた魔物を振り払い、それを横から来たラシャドが一閃して薙ぎ倒す。これに怖気付いた魔物が一旦体制を立て直すためか後ずさりするが、それを後方のササンが矢で次々と射抜いた。魔物は頑丈で、矢で射抜いた位では消えないが隙が大きくなる。そこをロクサスとラシャドが剣で仕留めていった。
「よし、これで……!」
漸く魔物が片付き神殿に入れると思った矢先、背後から大きな陰が近づいてきた。再び砂嵐が吹き荒れる。
「アレク!?」
ロクサス達が振り返ると、一体の巨大な兎型の魔物が二本足で立ち、気絶したアレクを担ぎあげていた。
「くそ、また砂嵐が……!」
アレクが魔法を使えなくなったことで、再びこの地を砂嵐が襲う。
「アレク! しっかりしろ!!」
ロクサスの呼び掛けにも応じない。迂闊だった。背後のアレクを気にしていなかった。
アレクの次にこの巨大な魔物に近いササンが引き攣り笑いで固まっている。
「やば、俺は馬がないとそんな早く動けないんだよね」
「アホ! 動け!」
そう言ってササンに近かったラシャドがササンの首根っこを捕まえて一気に自分の後ろに投げた。
「うわぁ!?」
その瞬間、ササンの元いた場所に魔物の拳が降ってきた。
「危な……! ありがと!」
軽い身のこなしで受身を取ったササンがラシャドに礼を言う。
「ぼーっとするなよ、お前も貴重な戦力なんだ」
ラシャドの言葉に冷たいなぁ、とぼやくササンにロクサスが声をかけた。
「無事で良かった! とにかく今はアレクを助けよう!」
「ロクサスくん優しいね、ラシャドにも見習って欲しいね」
「馬鹿なこと言ってないでアレクを助けるぞ!」
そう言ってラシャドは再び砂嵐の中剣を構える。
ロクサスも前に出てきて両手でしっかりと剣を握った。
「でも、どうやってアレクを助ければいいんだ……!?」
しかもこの砂嵐である。急がねばこちらの体力も奪われる一方だ。
「こういう時こそ連携だ。ササン、矢を魔物に撃ち込んでくれ。その隙に俺が魔物の後ろに回り込んで魔物の腕を刺す。魔物がアレクから手を離した隙にお前がアレクを受け止めろ」
「分かった!」
ラシャドの咄嗟の作戦を実行しようとするが、砂嵐が邪魔でなかなか矢が魔物に当たらない。
「アレクくんが起きてくれないと、これ不味くないかな?!」
「だめだ、ラシャド! やっぱり俺が助けてくる!」
「あっ、待て!!」
ラシャドの静止の声も聞かず、ロクサスは魔物の正面に飛び込んでいった。
ロクサスは砂嵐の中を走った。幸い先程と違い追い風だ。後ろから砂が体を叩きつけるが、そんなのは問題にならなかった。それよりも仲間が危険に晒されていることの方が、ロクサスには何よりも許せなかったのだ。
「アレクを返せ!」
ロクサスは渾身の力で魔物の腕に斬り掛かる。魔物は一歩後ずさって前かがみになり、牙を剥き出てきた。剣と牙がギリギリと音を立てる。
「今だ、ラシャド!」
「!」
言われてラシャドは直ぐに動き、アレクを掴んでいる魔物の左腕を切り落とした。
魔物の悲鳴が上がり、牙も剣から離れた。
「これで終わりだ!」
ロクサスは一気に間合いを詰めて魔物の額に剣を突き刺した。すると、魔物は泡のように消えていった。
「アレク!!」
ロクサスは直ぐにアレクの元に駆け寄った。アレクはラシャドによって地面に寝かされていた。
軽く頬を叩くと、アレクは漸く目を覚ました。
「う……」
「アレク! 無事か!?」
「すみません……油断、しました……」
「こっちこそごめんな、全然気づけなくて」
「いえ、ロクサス殿下が謝られるようなことではありません。俺の失態です」
するとササンが近寄ってきて、アレクの頭をそっと撫でた。
「ごめんね、俺たちの不覚だよ。君は自分を責めちゃいけない」
「はい……」
そんな会話に少しだけ安堵するロクサスだったが、今こうしている間にもリアムも危険な目に遭っているかもしれないと思い直した。
「アレク、直ぐに動けるか?リアムも危ないかもしれないんだ。急ぎたい」
これにアレクは頷いた。
「はい、もちろんです。俺は大丈夫ですので、急ぎましょう!」
アレクは立ち上がると再び風の魔法を使い砂嵐を相殺して、四人は神殿に向かった。
神殿に入ると、四人はとりあえず自分についた砂を払った。
神殿内は真っ暗で、シンと静まり返っている。とりあえず手持ちの松明に火を付けると、何年も人の手が入っていないのか、至る所に苔や蔦が貼り付いている、いかにもな空間が現れた。
「足元気をつけろよ、苔は滑りやすい」
「りょうかい」
ラシャドの忠告に軽く返事をするササンは、余裕がある証拠だろう。ロクサスとアレクは本当に滑って転びそうで返事どころではない。
ラシャドが持つ松明の灯りを頼りに、少しずつ奥へと進んでいく。
神殿の中は迷路のようになっていて、盗賊が出てもそう簡単に最深部へは行けないようになっているらしかった。進んでいくと、道が左右に分かれている。
「困りましたね」
アレクが悩みに声を出したが、ササンは迷わず右を進んで行った。
「大丈夫、こっちだよ」
「お前、何で分かるんだ?」
ラシャドが尋ねる。するとササンは左の道を指さして言った。
「だって、こっちからは人の死んだ臭いが風に乗ってくる」
「死……!?」
にこやかに言っているが内容は恐ろしかった。
「盗賊対策の罠が、はずれの道にはあるんだろうね。こっちにもあるかもだけど、避けれるよきっと」
「どうしてですか?」
アレクが尋ねる。
「正解の道には分かってれば避けれる、もしくは死なない程度の罠しか置かないものさ」
ササンは自分の村の祠にも似たような物があったと話してくれた。アレクはそういった物を見たことがないらしく、興味津々だ。
当然、城から殆ど出たことも無いロクサスも気にはなったが、今はリアムを助けたい気持ちの方が大きく、とにかく黙って前へと進んだ。
その後も何度も分かれ道が続いたが、全てササンが神殿内部に吹く風の臭いで正解の道を当ててくれた。罠も多少はあったが、それはラシャドが素早い動きで三人を守った。
そして、今までこの神殿内で見た中で最も大きい門を潜ると、遂に最深部にたどり着いたようだった。
「……ここが最深部だね」
ササンがこの部屋が最後だと言い当てる。
目の前には大きな鳥が眠っている姿の銅像があった。
「他の部屋とあまり変わらないな……」
ラシャドが松明であちこちを照らして見るが、大きな鳥の銅像以外、他には何も手がかりは無さそうだ。
「この銅像以外は何もなさそうだな……」
ロクサスが呟きながら、他の三人より一歩前に出ると、一段高くなっていた石畳につまづいて転びそうになった。
「おっとと!」
もう片方の足で踏ん張り、一段高くなった箇所に足を降ろすと、カチリと不思議な音がした。
「ん?」
「あー、罠だね」
ササンが呑気に言うのを聞いてロクサスは振り返る。
「へ?」
「ロクサス! 前を見ろ!!」
ラシャドが叫ぶのを聞いてもう一度前を見ると、地面から大きな音を立てて岩の塊が現れた。
「岩の魔法人形、ゴーレムです! 」
アレクが叫ぶ。
ゴーレム。それは古から存在する岩と土で出来た人形らしい。ロクサスは幼い頃絵本で見た記憶を思い出した。
「ゴーレム……! 本当に存在するのか!」
「ロクサスくん達の世界にゴーレムは居ないのかい?」
ササンの疑問にはラシャドが答えた。
「コイツの場合、城から出れなかっただけだ。居るさ、こういう古い遺跡や神殿にはな!」
大の大人二人分もの高さがあろうであるゴーレムの頭部に二つの緑色の光が宿った。どうやらこれが目であり、魔力の宿る部分らしい。ゴーレムは緩慢な動きで頭をゆっくりと下へと動かし、侵入者を捉えた。
「シンニュウシャ、カクニン。センメツスル」
ゴーレムは魔法人形独特の発音でこちらに向かってくる。
「来るぞ!」
ロクサスが叫ぶと、それぞれが戦闘態勢に入り武器を構えた。
ゴーレムは先程のゆっくりとした動きからは考えられない速さで腕を上げ、振り下ろしてきた。一番前線に居たロクサスが攻撃を躱しながら聞く。
「ゴーレムってこんな速く動けるのかよ!?」
「ゴーレムは岩と土で出来ていますが、中は空洞で風の魔法も混ぜられて作られています! 重そうに見えますが油断は禁物です!」
アレクも答えながら、ゴーレムの腕を振り下ろす攻撃を躱していた。
「アレクくんは魔法に詳しくて助かるよ、ちなみに弱点は分かるかい?」
ササンが問うと、それにも直ぐに答えてくれた。
「ゴーレムの魔法は貯蔵式です。あの大きな胴体の真ん中に魔法の貯蔵してあるのが一般的なので、そこを破壊すれば恐らく……! でもそこは一番頑丈に作られる筈ですから、先ずは攻撃の中心である腕を破壊した方が効率良く倒せると思います!」
「流石アレクくんだね」
ササンが感心する横で、ラシャドは作戦を練っていた。本来彼は作戦など考える役ではないのだが、この軍師の居ないメンバーの中では最年長だ。ラシャドは自分がしっかりすべきと考え、頭と身体、両方を使って戦った。
「……よし、それならササン、お前がゴーレムの両腕を矢で壊してくれ、俺とロクサスが剣で、アレクは氷魔法で胴体を狙う!」
「了解」
「おう!」
「分かりました!」
ラシャドの作戦に他三人が一斉に同意すると、ゴーレムに向かいササンは一定の距離を保ち、弓矢を構えた。更にロクサス、ラシャド、アレクの三人はゴーレムの懐に飛び込んで行く。
「それっ」
ササンの矢はやはり百発百中だ。ゴーレムの右腕に命中する。しかし。
「!」
ゴーレムはその矢をものともせずに弾き返してしまったのだ。
「みんな、 駄目だ! 俺の矢じゃ壊せない!!」
「!?」
壊されるであろうと予測していた右腕が攻撃を仕掛けてくる。その場に居たアレクはササンの警告で間一髪、振り下ろされる右腕から逃れると、目の前に現れた右腕に向かって呪文を唱えた。
「ヴァイル!」
するとゴーレムの右腕は凍りつき、それを引きはがそうとゴーレムの動きが鈍った。
「アレク、流石だ!」
ロクサスはアレクの咄嗟の判断に感心した。
「今を逃す手はないな!」
そしてラシャドがゴーレムの凍った腕ごと切り刻む。が、ラシャドの力では氷を削るだけだった。
「くっ!」
「俺に任せろ!」
ラシャドの後ろからロクサスが出てきて、力いっぱい剣を叩き込んだ。すると、分厚い氷ごとゴーレムの右腕は粉々になった。
「やりぃ!」
「流石です、殿下!」
「ありがとな、アレク! もう片方も同じように壊そうぜ!」
「はい!」
ロクサスとアレクは息を合わせて、今度はゴーレムの左腕に向かっていく。その間、ササンはゴーレムの気を引きつけるべく矢をゴーレムの眼前に打ちまくり、ラシャドはアレクの詠唱時間とロクサスの構える時間を稼ぐべく攻撃を受け流した。
「ヴァイル!」
左腕の攻撃が地面へと叩き付けられる瞬間を狙ってアレクは氷魔法を唱えると、先程と同じようにゴーレムの腕は凍りつき、再び動きが鈍った。やはり人形なのだ。動きのパターンが全く変わらない。
「でぇい!」
ロクサスが渾身の一撃を岩と氷の塊に打ちつけると、先程と同じように左腕も砕け散りゴーレムは攻撃手段を失った。
「よし、あとは胴体を壊せば……」
と、ロクサスがゴーレムの胴体に近づこうとしたその時、ゴーレムの目の光が一段と大きくなった。そしてそこから光の線が伸びてロクサスを襲おうとする。これにロクサスは咄嗟に飛び退いた。光の当たった足元の地面が燃えている。
「うげ、遠距離攻撃……!」
「ロクサス、とりあえず一旦退け!」
ラシャドの指示に従いロクサスは退いたが、光線は更にロクサスを追ってきた。
「わー! 俺が狙われてる!?」
「恐らく腕を破壊した張本人として認識されたんだ、とにかく逃げろ!」
「すみません、俺の知識不足です……!」
「反省はあとだよ、今はロクサスくんを助けるためにもあれを何とかしよう!」
悔しそうに謝るアレクにササンが声をかけた。
アレクは頷くと、記憶を辿ってゴーレムの弱点を探す。
「……あのゴーレム、魔法に弱そうですね。だけど俺の魔法ではあの目の位置まで届きません……」
アレクが呟く。
「あの目に俺の矢なら届くけど多分効果はないね」
ササンも自分の攻撃でどうにかならないか考えているようだ。そこで、ラシャドは思い出した。ルーカスと対峙した時、アレクとササンは同時に攻撃を繰り出し、それが融合してより強力な技になったのだ。
「ササン、アレク。お前たち二人で力を合わせたら良いんじゃないか? ルーカスの時にやった、あの矢と炎の渦の攻撃なら、魔力を帯びた矢がゴーレムに当たると思うんだが……」
ラシャドの提案に、二人は揃って頷いた。
「なるほどです!」
「流石ラシャドだね!」
「よし、そうと決まれば実行だ! ササン、アレク、頼む!」
ロクサスが言うと、ササンが弓矢を構え、アレクが詠唱を開始する。
「アレクくん、準備はいいかい?」
「はい! いつでも行けます!」
「それじゃ、せーので行くよ! せーのっ!」
「ヴァイル!」
ササンの掛け声で二人は一斉に攻撃を繰り出す。ササンの弓矢にアレクの氷魔法がまとわりつき、矢に魔力が宿った。
ひたすらロクサスを追っていたゴーレムは矢の接近に気づけずに、もろに目に攻撃を受けることになった。
すると、ロクサスを追っていた光線が消えた。
「やった!?」
ロクサスが確認に振り返ると、ゴーレムの頭部が凍りついていた。
「ギ……ギ……ギ……」
ラシャドが更に指示を出す。
「ササン、アレク、よくやってくれた! このまま胴体も破壊してくれないか、恐らく普通の物理攻撃は効かない!」
「いいよー」
「了解です!」
今度こそ攻撃手段が無くなったゴーレムに、ササンとアレクがとどめの一撃を繰り出す。
「せーのっ!」
「カイール・アール!」
今度はササンの放った矢に炎の渦が宿り、それはそのままゴーレムの胴体の中央に凄い勢いで命中し、ゴーレムの胴体の一部が砕けた。
「おお!」
ロクサスが感嘆を上げる。
ゴーレムの砕けた部分から魔力が流れ出しているのか、光がきらきらと空中に放出されていく。それでゴーレムの目の光も漸く消え、今度こそ動かなくなった。
「倒せたみたいだね」
「はい」
ササンとアレクは目を合わせて、それから拳をぶつけ合って勝利を分かちあった。
「ゴーレムが守っていたのは……この銅像なのか?」
ラシャドが不思議に思い、大きな鳥の銅像を見上げた。
「……」
ふと、ロクサスは何かに導かれるような思いがした。この銅像に触れるべきと思ったのだ。
そして自分の直感のままに動いた。
「これ……こいつだ!」
ロクサスが鳥の銅像に触れると、手が触れた部分から銅が剥がれ落ち、真っ赤な一羽の大きな鳥が首を動かした。
「──む、力が、戻った……?」
「喋った!?」
アレクが驚きに声を上げる。ラシャドとササンも流石にびっくりしていたが、ロクサスだけは動じなかった。
「お前がこの世界の鳥神か?」
ロクサスが問いかける。
「いかにも」
するとロクサスは怒りに任せて叫んだ。
「何故何百年も眠っていたんだ!?」
これに鳥神は面食らって、それから不思議そうに話した。
「……儂の力は枯渇してしまっていたのだが……今の今まで」
ラシャドも思わず話に入った。
「……? どういう事だ?」
「うむ、不思議だ。儂は少なくともあと数百年は眠りから覚められないと思っていた。そなた……何者だ?」
鳥神はロクサスをじっと見下ろして、そして声を上げて笑った。
「そうか、そうか! お前が今の【創造神の器】であり、更に【修復能力】持ちか!」
「……? なんだ、その【創造神の器】って……」
ロクサスは思ったことを口にしたが、鳥神は聞いていない。
「いやいや、参った。なるほど凄いのが現れたなぁ」
ここで漸く笑いが収まったのか、鳥神はやっとこちらの話を聞く気になったらしい。
「ありがとう、小さきものよ。そなたが居なかったら、まだ眠っていたところだ。……それくらい、儂の力は枯渇してしまっていたのだ」
「そういえば本にも書いてあったね」
ササンも思い出したことを口にした。
「でも、だからって人間に押し付けるなよ! 神なんだろ!?」
ロクサスの怒りは収まっていなかった。
「……そうだな。何百年と、苦労をかけたな」
「リアムを、神子を解放してくれ! 頼む!」
鳥神はゆっくりと頷くと、大きな翼を広げた。
「あい分かった。しかし、ここは飛ぶのに狭すぎる。どうにか天井に穴か何か開けてはくれぬか?」
すると漸く我に返ったアレクが提案した。
「俺の魔法で天井に穴を空けましょう。危険ですから、皆さん一度部屋から出てください」
鳥神は多少の岩が当たるくらいなんともないらしくその場に留まり、四人は一度部屋を出て廊下に移動した。
アレクが何やら長い呪文を唱えると、大きな氷の柱が何本も出来、それが勢いよく天井に突き刺さって天井の岩が崩れた。
「ええ!? おま……! そんな強い魔法も使えるのか!?」
ロクサス達が驚いていると、アレクが自慢げに言う。
「俺に魔法を教えてくれたのは、この世で一番の天才ですから! まぁ、威力が強すぎて近くに人がいると使えないんですけどね」
鳥神は満足そうに崩れた天井を見て、ロクサス達に語りかけた。
「儂に乗れ。神子が居るのは“あの”村だろう。ひとっ飛びしてやる」
「助かる!」
ロクサスは嬉しそうに返事をするが、ラシャド達はまさか神様の背中に乗るとは考えもしなかったので驚いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます