第四章:呪われた天才少年
彼女のあれは元々の性格
ディパートの街を発って早二日ほど。
少しずつでもクランの名を売るために、ボルデの街で簡単な魔物退治の依頼を受けていた。
魔物が現れるたびにヴァージャとフィリアがそれぞれ二手に分かれて戦うわけだけど……情けないなぁ、十歳の女の子だって戦ってるのに、オレは見てるしかできないなんて。それに……。
「どうした、リーヴェ。今度は何が不満なのだ」
結晶化した魔物の核を見下ろしていたヴァージャが、不意にこちらを見てそんなことを言い出した。その顔面は確認なんてしなくても相変わらず整い過ぎてるし、いつも通りの涼しい顔だ。菫色の羽織りだって乱れはなく、今の今まで戦闘中だったなんて間違っても信じられないくらい、その出で立ちは綺麗すぎる。
怪訝そうな面持ちでこちらに歩いてくる様を見たってそうだ、普通すぎるんだよ。
「また何か簡単なことをややこしく考えているんだろう、お前の悪い癖だ」
「あんたはそう言うけどさぁ……」
そりゃあさ、ヴァージャのお陰で
けどさ、こいつ無敵じゃん。絶対に怪我とは無縁のやつじゃん。
「怪我をしてほしいのか」
「いや……怪我なんてしないのが一番だけどさ、オレが直接あんたの役に立てることってほんと何もないんだなと思ってさ」
「何を言い出すかと思えば……」
思ったままを伝えると、ヴァージャは穏やかな黄金色の瞳を細めて呆れたように呟いた。あーあー、わかってるよ、どうしようもないワガママ言ってんな、って。でも、何度魔物と遭遇しても守られてばっかでさ、結構ヤキモキするんだよな。
「ふ……なかなか
気にしすぎ、かぁ……今までちゃんとした友達とかいたことなかったから、ついつい色々と考えちまうんだよなぁ。お荷物になりたくないっていうか、何か役に立たないと見限られるんじゃないか、……とかさ。ああ、本当に悪い癖だな、これ。
「ふうっ、これで終わりですね! こっちは終わりましたよ、そっちはどうですかー?」
そんな時、横からフィリアの声が聞こえてきた。ヴァージャとほぼ同時にそちらを見て、思わず苦笑いが――いや、引き攣った笑みが浮かぶ。
フィリアの周囲には、魔物の核がそりゃあもう大量にゴロゴロ転がっていた。数えるのも億劫なくらいに。あれ全部換金したら相当な額になりそうだな。
「リーヴェ、巫術をかけたら性格が変わったと言っていたが……恐らくあれがフィリアの素顔なのだ、別に性格が変わったわけではない」
「……そうみたいだな」
そんなフィリアを見るヴァージャの表情も、やや引き攣っているようだった。神さまにこんな顔させるなんて、あの幼女すごいな。色々と。
* * *
依頼書にある数の魔物を討伐した後、そのまま外で休憩することになった。
ヴァージャが結晶に閉じ込めた荷物たちは、結晶の中にある時は時間そのものが停止するらしい。弁当だ何だとすっかり忘れていた時は青くなったけど、いざ結晶を割ってみると中身は渡された時そのままの非常に綺麗且つ、うまそうな状態だった。
フィリアは広げた弁当を、それはそれは満たされた様子で食べ始めた。
「それにしても、未だに信じられないです。私があんなに戦えるなんて……リーヴェさんの巫術ってすごいんですね」
「オレもびっくりだよ、一度でそんだけの効果があるなんて思わなかったし」
フィリアは
「フィリアは瀕死の重傷を負ったと言っていたな、恐らくはその影響だろう。重い傷を負えば負っただけ、効果がより強く表れるのだ」
「……ってことは、掠り傷とか小さい傷を治したところでフィリアみたいな変化は起きない、と」
そりゃあな、あの時は本当に死んだと思ったからな。助かったとは言え、思い出したら今でもゾッとするくらいだ。その後のことはもっとゾッとするけど。こんな可愛い顔した幼女がブルオーガみたいな狂暴な魔物を追い回してたんだから。
「そういえば……気になってたんですけど、リーヴェさんの逆っていないんですか?」
「オレの……逆?」
「はい。リーヴェさんが想いの力で周りの人を強くしてくれるなら、逆に想いの力を使って周りを弱くする人もいるのかなって」
「ああ、そう言われてみれば……どうなんだ、ヴァージャ」
フィリアってまだ小さいのに、よく頭の回る子だ。確かに、彼女の言うようにオレたち
否定も肯定もしないってことは、いるのか。
けど、今まで聞けば何でも答えてくれたのにこんな顔をするってことは……あんまり言いたくなさそうだな。
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