第3話 すみません、ありがとう


 朝よ、おきなさい。


 だいすきなママの声がきこえて、わたしはむっくりと起きあがる。

 お外はもうお日さまがお空にカオを出して、こんにちはって言ってるみたいに今日もぴかぴか光ってた。

 とってもきれいだけど、おめめが悪くなっちゃうから見ちゃダメっていつもママにおこられる。


 ふかふかのおふとんから飛びだして、ごはんを食べるお部屋に行くとパパが『コーヒー』っていうわたしのキライなものを飲んでた。

 どうしてパパはあんなに苦いものを飲んで「おいしい」って言うんだろう。


 パパとママに「おはよう」のあいさつをして、わたしはイスに上った。

 今日はふわふわのオムレツと、まっかなタコさんウィンナー。わたしがとってもだいすきなごはん!

 ありがとう、ママ!


 ごはんを食べながらテレビを見る。

 今日はまっかな日、パパのおしごともお休みの『にちようび』って言うんだって。

 テレビには芸人さんがうつっていて、今日も元気そうに笑ってた。マイクを持っていろいろな人に声をかけてる。


「ねえねえ、パパ」

「どうしたんだい?」

「あのゲイニンさんはなにをしてるの?」

「ああ、あれは番組で何かの検証をしてるんだね。一般人をターゲットにして、その反応を見る企画なんだろう」


 けんしょう? たーげっと、きかく?

 パパの言うことはむずかしくて、わたしにはよくわからない。

 テレビの芸人さんは「落としものをひろってくれた人が、もしもげいのうじんだったら」って言いながら楽しそうにしゃべってる。


「ねえねえ、パパ」

「どうしたんだい?」

「どうして今のおねえさんも、さっきのおじいさんも、みんなすみませんって言うの?」

「落としものを他の人が拾ってくれたからだよ」


 パパはそう言うけれど、わたしはなんだかヘンな気分。

 だってわたし、おべんきょうを教えてくれるおにいちゃんと、違うテレビを見たことがあるの。

 その時はね、テレビにたくさんのガイジンさんがうつってて、みんなだれかになにかをしてもらった時にあやまってなんかいなかったよ。


 アメリカジンさんは、サンキュー!

 フランスジンさんは、メルシー!

 どこかのカイジンさんは、グラシアス!


 おにいちゃんがね、これはぜんぶ「ありがとう」って意味なんだよって教えてくれたんだ。


「ヘンなの、ガイジンさんはなにかをしてもらったらありがとうって言うよ。どうしておねえさんもおじいさんもありがとうじゃないの?」

「……」

「すみませんより、ありがとうのほうが好きだなぁ。きゅーって、むねのところがあったかくなるもん」

「……そうだなぁ、日本人は変だな。普通にありがとうの方がいいな」

「うんっ!」


 わたしがそう言うと、パパはびっくりしたようなカオでわたしを見つめてきた。

 でも、すぐにやさしく笑って、うんうんってうなずく。


「よし、今日はドライブにでも行こうか。好きなところに連れて行ってあげるよ」

「わーい! パパ、ありがとう!」


 ありがとうって、わたしが言うとパパはうれしそうにまた笑ってくれた。

 パパのその優しいカオを見て、わたしもうれしくなって笑う。


 うん、やっぱり「すみません」より「ありがとう」の方がすてきだよ。

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