自分と太郎とクリスマス 前篇

「こんばんは」


 来た。今夜も太郎がやってきた。


 潤滑油のようなキャラクターを買われ、会社の歯車を滑らかに動かそうと張り切るも、儚く巻き込まれ、さまざまな汁を垂れ流して働いているうちに悟りの境地が見えてきたようなある日。

 なけなしのボーナスを、唯一残された欲望のために使うことにした。


 クソバズりたい。


 まずは模倣から始めるタイプの自分は、バズっている記事とまんま同じことをしたのだが、カクカクしかじかでやばいタイプの化け物に目をつけられ、命を狙われることになった。


 そういったわけで、バズってしまったら死ぬほど嫌な目に遭わされて、多分生きていることが嫌になって死ぬと思う。


 その、やばいタイプの化け物がこいつ。ゴスロリ太郎だ。


 今日の太郎は20歳前後の女性の姿で、相変わらず黒いゴスロリドレスを着ている。奴の姿は日替わりだが、服装が同じことと話す内容が共通しているので、自分としては同じ個体と判断している。


「hey!ぼくのパンツを見えるか見えないか微妙な感じでちょっとだけ見えるように写真を撮ってTwitterにアップしろよ」


 それはまずい。バズりそうだ。どうしよう。


「いや……あの……ここ駅前だし、ほらクリスマスツリーとかあって人もたくさんいるからさ、『駅前にやばいカップルいた』とか写真アップされて、他の人バズっちゃいそうじゃない?」


「んん?じゃあどこで撮る?めんどくさい奴だな。早くバズって、貴様が生まれてきてごめんなさいって言いながら橋の上で紐なしバンジージャンプをするとこが見たいぞ。ふはっ…ははははははーあっははははーーーアバー」


 腹立つなぁ。なんだよアバーって。今日は見た目だけは可愛いのにな。なんの気無しにスマホのカメラを向ける。


 すると、そこに居るはずの太郎の姿は映っていなかった。


 よかった。写真には写らないタイプの化け物らしい。


「あー太郎ちゃん、ごめん。君、写真に写らないみたい」

「本当か?」

「ほら」

 インカメラに切り替えて2人並んでスマホを覗き込む。そこには自分1人がきったない顔でにやけていた。軽くへこんだ。


「くっ……ぼくとしたことが……おい貴様、いい加減他に怖いことはないのか?」


 太郎は目的のためにはあまりプライドとか関係なく素直に相談をしてくる。プライドばかり高くてロクに相談もせず、おかしなことになる後輩を思い出し、あいつもこのくらい素直に相談してくれればなぁ……とちょっと嫌な気分になった。

 

「返事をしろ!」

「あはーい…」


 嫌な気分でノロノロと顔を上げると、目の前には件の後輩がゴスロリドレスを着て立っていた。

 あいつか?いや、このドレスは太郎だ。どうやら太郎は無意識で心の中で思い描いた人物を模倣するらしい。奴が意識的に姿を変えるところを見たことがあるので、何も考えていない時はこちらの心の中を反映するようだ。


 ものは試しだ。実験に最近毎日眺めて癒しをいただいている、爆乳コスプレイヤーの姿を頭に浮かべる。


 目に前のクソバカ後輩は、みるみるうちに爆乳コスプレイヤーに変身した。


 これはいける。


「怖いもの、あるよ。性の6時間って知ってる?それが怖い」


「ほほう。わかった。死にたくなるような性の六時間を味わせてやろう。

 クックックックックックっクックックックックぅううううう!!!!!!」

 

 変な笑い方だが、爆乳コスプレイヤーがやっているからとても可愛い。許す。



 そして、一か八か。クリスマスを太郎と過ごすことになった。


 

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