シルバージャム事件

エリー.ファー

シルバージャム事件

 連続殺人鬼が出た。

 七十八人が殺された。

 悲劇は多くの形を伴って、人々を襲った。

 何食わぬ顔の連続殺人鬼は、隣人の隣人として近づいて有無を言わさず死を押し付ける。

 口ずさむばかりではないかと誰かが批判をしても、逃げなければ命は消えてしまう。

 明日は我が身か。

 ミスターシルバー。

 連続殺人鬼に尋ねるほかない。

 ミスターシルバー。

 ミスターシルバーよ。

 次にジャムになるのは一体誰なのか教えてほしい。

 そうすればその人は自分の身を守ろうと躍起になるだろう。

 町から人が消えても。

 町に死体は増えない。

 ただ。

 当たり前だが教えてくれるわけもないか。

 それもそうか。

 ミスターシルバー、また人間を使ってジャムを作るのか。

 赤くて腐っていて身の程をわきまえろと無言のうちに教えてくれる。そんなあのジャムを作って町に押し付けに来るのか。

 誰も買い取らない。そのジャムはもうすぐ売れ残る。絶対だ。

 警察官も名探偵も、軍人も、政治家も、賞金稼ぎだって躍起になる町。それを作り出したのは誰だと思う。

 お前だよ。

 お前。

 ミスターシルバー。

 銀色の連続殺人鬼。

 哀れな町を悲しみの町に塗り替えた連続殺人鬼。きっと己に操られてあてどもなく殺しを繰り返す、自分勝手な本能の達人。

 理由があるのか、お前に。

 ある訳がない。

 お前の代わりに何度だって答えてやろう。

 ミスターシルバーに主義主張はない。哲学もなければ思考もない。いつの日か誰かがその近くに寄り添って首と体を別々の方向に新婚旅行に行かせるまで。

 泣き寝入り確定の事案。

 涙は出ない。

 この町にはきっと光は訪れない。

 この叫び声は誰かれ構わず飛びついて、音ずれない。

 殺しと悲劇と断末魔の完全一致。

 狙っているのはミスターシルバー、お前だけだ。

 ここはお前のための町じゃない。

 しかし。

 そうは言っても、この俺だって。

 明日は殺されているのかもしれない。


 明日は我が身か。


「ミスターシルバー教えてくれ、死とはなんだ」

「生まれることで得られた特権」

「ミスターシルバー教えてくれ、憎しみが続く理由とは一体何なんだ」

「愛し合い、求め合い、期待し合い、喜び合った副産物だと思われているが違う。憎しみにとってはそちらこそが副産物だ」

「ミスターシルバー教えてくれ、いつになったら政治は機能するんだ」

「国民が機能する様になったら自ずと機能する」

「ミスターシルバー教えてくれ、答えのない問いにどう立ち向かえばいい」

「立ち向かうな受け入れろ。学ぶべき機会を与えられたと思え」

「ミスターシルバー教えてくれ、決断に迷った時はどうすればいい」

「苦しい方が絶対に正しい。しかし、正しいだけでお前を幸せにしてくれるとは限らない」

「ミスターシルバー教えてくれ、友人は人生に必要か」

「必要なのは話し相手だ。友人ではない。はき違えるな」

「ミスターシルバー教えてくれ、俺は殺されるのか」

「人は時間に、状況に、自然に殺される。そこに意思が介在しているかどうかに意味はない」

「ミスターシルバー。どうか、どうか俺に安らかな死を」

「案ずるな」

「ありがとう」

「失うな、何もかも」

「俺は今から、何もかも失う」

「そうだ。生きる予定なら諦めるな。死ぬ予定なら諦めろ」

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