7 外交任務

 大使たちはその種族の偉いさんの見本市だった。いずれもそれぞれなりに威厳がある。

 妖精族の大使はレディ・クリスマティ。妖精王の愛人の一人で、正妃と折り合いが悪いためここに派遣されたのだという。妖精族は人間より頭一つ小さい人たちばかりで、背中には虫の翅がはえている。飛ぶときには広げるが、はばたいているわけではない。飛行魔法を生まれつき使えるかわりに体重が軽く、そのくせ力は強いのでレンジャー向きとなる。あまり長時間飛べないので非常に有利というわけでもない。

 レディはその妖精族の中でも人間なみに背が高く、王の愛人になるだけあって育ちも悪くなく、所作はいちいち美しい。そして大使赴任により正妃との衝突を避けるくらいには政治センスもある。もちろん本国には支持者と手足となる者を何人もおいてあるのだろう。

「と、いうことは塔にいる同胞たちはまだ戻って来れないと」

「当分無理でしょう」

「そうか。陛下にお伝えせねば。教えていただいて感謝いたしますよ。ゴウキ殿」

 根掘り葉掘りともいかないが、妖精王が塔の強者たちをあてにして何か考えていたらしいということは察することができる。それと、妖精王国とのおそらく真法的な通信手段の存在。

 侏儒国の大使は盛り上がった筋肉を上等な生地の服で包んだ落ち着きのある紳士だった。酒を矢継ぎ早に飲めど乱れはせず、しかし弁舌は滑らかになるという酒豪である。侏儒国は共和制の国で、大使も本来は国政の中枢にいた人物であるという。にこやかだが目は冷ややかで、俺への質問は町にいたクラフターの同胞の数だった。まぁ、多いほうであったのでそのまま教えると、急に上機嫌になって、魔王討伐には国をあげて協力することになるだろうと言ってきた。これはこれで一物も二物もある感じである。

 鬼族の大使は女性だった。ここは実力主義の王制で、彼女は現王の親戚にあたる未亡人らしい。大柄で力強く、過去なにがあったのか角が折れていた。その戦いぶりで他を恐れさせている鬼族ではあるがとてももの静かで、一つだけ質問した他は特にあれこれきいてくるようなこともなかった。

 そして古賢族の大使は、礼服を貸してくれた通り、同年輩の魔法使い。といっても古賢族の大半は魔法使いでたまにレンジャーや魔法剣士がいる。全体にほっそりして、背丈は人間よりあるが体重は少し軽いという戦士向きではない種族なのだ。

「ニカデマス三十二世ヨモギともうします。ゴウキ殿のことは聞いておりますぞ」

 オラクルに聞くと、ニカデマス家は古賢族の中でも古くからの実力者であるという。俺にとってゴウキの記憶はあの塔でのことしかない。どんなとこで育ってどうして塔にむかったかは、古賢族の地にいったときにはじめて明らかになると思う。

「それは光栄ですが、ニカデマス家のかたにそんなことを言われる日がくるとは思いもしませんでした」

「いやいや、謙遜めさるな」

 大使はにこにこそういう。

「事情のほうは委細承知した。何もかもうまく運べるわけではないが、塔の同胞たちがこまらないようにできるかぎりの調整をいたそう。ところで」

 大使がいくつかの言葉をささやく。俺は驚いた。それはローランたちに新魔王がきたにもかかわらず塔を去る理由として伝えた言葉だった。

「どうしてそれを」

「紹介しましょう。アンナ、こちらへおいで」

 背後に立っていた随員の一人を呼ぶ。窮屈そうにお仕着せをきた女だ。

「ハンナ? 」

 塔にいた古賢族の魔法使い、ローランのチームにいた彼女にそっくりだ。

「ここでは便宜上、アンナと呼んでください。彼女たちは双子ですが、魂は一つなのです」

「そんな」

 そんな設定聞いたことがない。俺は思った。これもダイモンの盛り過ぎなのか。

「お久しぶりです。アンナであうのってなんか奇妙です」

 聞けばハンナが塔で戦い、アンナはこちらで調べものや新しい魔法の研究をやっているのだという。

 体二つに魂一つって、どんな感覚なんだ。

 右手と左手を別々に動かしているような、と彼女はいったがいまひとつ理解ができない。

「あなたの道行きに彼女を添えようと思っています。ソードキングダムは利害関係が多すぎるので、外交官員である彼女に古賢族の長老会議の信任状を持たせます。このへんは王とも話し合って決めたことです」

「長老会議はどこまで把握してるのですか」

「ほぼ全部です、ですから国へは最後にゆっくりもどってくるといいですよ」


 会合が終了し、翌日、俺は連れが一人増えた状態で王都を出発した。

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