幕間 ゴーレムの研究
視界には二十行ほどのコマンドラインがならんでいる。
童話の魔女ににた姿の半妖の老婆が唱える呪文がそんなものに見えるのだ。彼女の前には古びた木の人形。視界の中ではそれは輪郭だけ見えている。頭に刻まれたルーン二文字だけがくっきり見えていた。
老婆が呪文を放つと、コマンドラインはそのルーン文字に吸い込まれ、木人形は立ち上がった。
「ほれ、水をくんできな」
老婆はそれに桶をほうってよこす。人形は器用にうけとってよろよろでかけていった。
「ま、こんな感じじゃ。そっちの壊れているほうでやってみよう。わしの真似をして力の言葉を唱えてみよ」
少し訂正されながら老婆と同じように二十行ほど唱えて壊れた人形のルーンにはなつと、人形は立ち上がろうとした、
老婆がルーン文字を読み上げると、人形は動かなくなった。
「覚えたかのう。わしにできるお礼といえば、こんな簡単なゴーレムの作り方を伝授するのがせいいっぱいじゃよ」
この老婆は村はずれで調薬や医者のまねごとをしてくらしている。人知れず訪れたい患者もいるし、材料の採取に便利だから町中にはすまないのだという。その結果、薬草摘みの最中に熊にでくわし、木の上でにっちもさっちもいかなくなっているところに俺が通りかかったという次第だ。
その熊は老婆の小屋の外で革を干され、肉は薫されている最中、肝臓などの臓器は老婆が材料としてありがたく回収という状態になっている。
助けられたお礼にできることとして、簡単なゴーレムの作り方を教えてもらっているところだ。
コマンドの内容が大分わかってきた。一種のプログラム言語で、知っているものとは違うが内容や構造はだいぶわかってきた。この比較的簡単な言語が魔法を担っているとすれば、生き物を含む物体は文字で記すことのできないより複雑で細かな言語で定義されているようだ。魔法はそれらに働きかけるものらしい。
暗黒の塔のことを思い出すに、ベーシックとマシン語の関係だろう。あのころはそういう構造のものが多かった。
そして魔法コマンドの実行には魔力が必要になる。その部分はマシン語相当の部分にかかれているらしく、今のところはそのまま受け入れるほかはない。
老婆の教えてくれた二十行は、その夜にかけてじっくり分析した。時間限定をするラインはすぐに見当がついた、これを除けば魔力消費は大きいが、破壊されるかコマンド紐付けのルーンを唱えるか消すまで動くゴーレムが作れそうだ。ここはパラメータやスキル付与だろうという行も見えた。そして従うべき者をきめるところも見つかった。たぶんここだけ名前をかえて唱えれば譲渡できるようになるのだろう。
具体的な質問ができるようになったのでオラクルに付与できるスキル、パラメータ、魔力の計算式を教えてもらう。その中に人工知能の設定に関係するものがいくつかあった。状況判断、楽観予測、悲観予測、思考実験、経験検索のような意味のものである。老婆のは判断力だけ付与しているが、一時的なものなので学習系ははずして魔力を節約しているようだ。
では、いろいろやってみよう。
小屋はせまいので、老婆の人形を借りて外でいくつか試して確信を得た後、思い付いた。
そうだ、護身用のゴーレムは作れないか。常に身近にいて不意打ちなど脅威に反応する護衛。
月夜で地面には俺の影がくっきり写っている。もしこれをゴーレムにできたら面白いな。
ルーンの置き場所が難しかったが、結局書いた紙をポケットにいれるだけでいいとわかった。
ぬうっと立ち上がった影のゴーレムは、すべてが漆黒の俺のそっくりさんで、無表情だった。
かなり魔力を使ったが、システム的にゆるされる数値をバランス重視で割当て、スキルも付与できる上限まで厳選してふった。これで昼にも呼び出せれば成功である。タイプとしては隠密系最高とし、手持ちの武器を与えた後、護身と危機発生までの間の待機を命じた。名前は一号である。
それから老婆の木人形もルーンを見えないところに彫り直し、ずっと彼女を助けることのできるものとして起動する。譲渡を試したかっただけではあるが、また彼女が熊とかに遭遇しても守ってやれるようかなり強くした。
かなり疲れたが、非常に面白い体験であった。
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