5 火炎帝

 そう思った時、階段が見えたその時に後ろから女店主の悲鳴があがった。

「コカトリス? 」

 魔物の姿を見て俺は驚いた。巨大な鶏と蛇のまざった化け物。このフロアの中ボスではないか。それがボス部屋にはおらず、ふらふら出歩いているのか。

「さがって、触ると石になります」

 槍で近づかないようつついていた妖精族の女店主は槍をほうりだして俺の後ろに逃げ込んだ。

 こいつは石化ガスを吐き出すは厄介者なので、ソロのときは真空弾をうちこみ、ガスを吸引させてから、というのがセオリーなのだが、魔法の威力が格段にあがっている今、それをやると店主たちもふっとんでいきそうだ。

「アーススピア」

 芸がないがこれで。

 コカトリスはばらばらになった。やはり魔王ほど頑丈ではないらしい。

 目を丸くする店主たちの前にも肉片、羽毛、鱗のついた皮膚がふる。

 さあ、行こうと声をかけようとすると彼らの様子がおかしい。

「おい、もしかしてこれ」

「ええ、間違いないわ」

 コカトリスの破片を手にして何やら興奮している。

「どうしたんです」

「少しだけ時間をください。これは貴重な素材の山です」

 クラフトは仕様もしょぼかったのでほとんどやっていないが、どうやら彼ら的にはお宝の山らしい。上の町の元冒険者のクラフターたちが気づいたらこの塔のモンスターは狩りつくされるかもしれない。

 半時間ほど後、コカトリスの残骸はほとんどのこっていなかった。戦闘の後に何も残ってなかったのは多分同じ理由なのだろう。

 われわれは三階に降りた。攻略と逆に進んでいるのでまずボスの部屋となるのだが、そこには魔界趣味の豪華な室内がぼろぼろになるほどの戦闘跡があるほかはボスである下級デーモンも脇侍の小悪魔も影もかたちもなかった。

「何があったか見当はつくね」

 店主たちも苦笑するばかりである。

 三階では悪鬼族のパトロールと天井で待ち伏せしていたスライムを倒すだけですんだ。あとは掃除済みだった。悪鬼族は鬼族の仲の悪い従弟で会話もできる。力はありそうだが、頭の悪そうなリーダーを消し炭に変えておだやかに話をすると田舎に帰ると言って逃げてくれた。スライムは手前で気づかなければ店主たちが危なかった。これは脱水の魔法で干物にしたのを店主たちがばらばらにしてしまった。

「おかしいな」

 同じく掃除済みだろうと思って二階に降りたが、今度はまた様相が違った。

 戦闘の跡が一切ない。しかし魔物もまったくいない。一階も同じだった。入り口のホールまで進むと、ここでようやく変化があった。

 入り口の扉はわずかな隙間を残してしめられていた。その影に怪我をした冒険者たちが四人、膝をかかえた他の店主たちが三人、うずくまっていたのである。

「どうしたんだ」

 リーダーらしい鬼族の戦士が顔をあげた。体をはってみなの避難を守ったのだろう。腕一本、足一本使いものにならないひどい怪我だ。そのかたわらの割れた盾はさぞかしわざものだったのだろう。

「外にえらく強いボスがいる。二階からしたの魔物も全部だ。力押しのバカじゃないのでこの有様だよ」

 治療呪文をかけられながら苦痛に顔をゆがめる。生身にあれがおきることを考えると、これはかなり痛い。そして治療呪文も部位のダメージもゲームの頃にはなかった。

「なんだって外に」

「入れないらしい。おかげで追撃を受けずにすんだ」

「どんな攻撃をしてくる? 」

「戦う気か? 無茶だ」

「いや、話をしてみようと思う。その前にやられちゃかなわんからな」

「そういうことなら。だが無理はするな。上のボスに匹敵する強さだぞ」

 それはそれは。

 話をきいて、いけると踏んだ俺は指輪状態のシールドスタッフを起動して一歩外にでた。

 ファイアジャベリンが五十本ほど一斉にとんでくる。まざって普通の矢や投げやり、投石までとんでくる。このへんはおつきの魔物たちのしわざだろう。

 シールドは問題なくこれを全部防いだ。

「さて、反撃するまえに話を聞きたい」

 目の前にいる身長五メートルほどの巨漢、これがボスだろう。鱗のある肌、息をはくたび飛び散る火の粉、そう思えば顔だけ人間のふりをしてるドラゴンのようにも見えてくる。

「わしの攻撃をなんなくふせいだお前は何者だ」

「人に名をきくときはまず名乗るという礼儀はそっちの世界にはないのかな」

「ふんなるほど、では名乗ってやろう。わしは火炎帝ク・アグニだ。魔王ウラの入滅を知り、座を引き継ぐためにやってきた」

「そうか、俺はゴウキ。最近目覚めたただの魔法使いだ。座を引き継ぐならまっすぐ最上階にいけばいいだろうに」

 オラクルがこの相手についての情報を提供した。魔界には魔界曼荼羅という魔王をバランスよく配置した構造があり、この魔王は魔王ウラと対になる位置に座していたらしい。属性は火、巨大な体躯と印象を異にするが、魔法で戦うスタイルらしい。

「それが、ウラを滅ぼしたものの許可がいるようなのだ。どうしてかは長くなるので許せ」

「それは何者かな」

「とぼけるでない。知らないわけがなかろう」

「そうかもしれん。少し時間をくれ。そいつの意見を聞いてみる」

 中に戻った俺は、冒険者たちの視線を一身にあびていた。

「あんた、見覚えがない顔だが、何者だ」

 ようやく気づいたか。

「俺のことはローランかロゴレスにきいてくれ。今は少し考えたい」

 オラクルを駆使して情報を集め、許可をだした場合はどうなるかを判断する。

 場合によっては、ここで戦う手もある。魔力の量は驚いた事に俺のほうが多い、それを隠して戦えばまず負けはない。

 しばらく検索をつづけた結果、この塔の設定が見えてきた。

 暗黒の塔はシリーズ化予定だったのだ。魔界曼荼羅の魔王を一体づつすえてこれを討伐し、大地の半分であった魔界をとり戻す。火炎帝は発売されなかった第二作のボスになるはずだった。

 この塔に魔王をすえる理由は魔界側も同じで、大地の半分である世界を奪うため。もし、それをしなければ二つの世界は混じり合い、どちらにとっても望ましくない混沌となる。番外編としてその場合の世界で融和の道を探るゲームも企画だけはあったらしい。

 ダイモン、いれこみすぎではないか。

 許可を出すのは簡単だった。心で思えばよい。

「感謝する」

 巨大な羽音が外から聞こえた。のぞくと、火炎帝も魔物たちもまったくいなくなっていた。

「なあ、オラクル」

「なんでしょう」

「俺が魔王をかたっぱしから倒したらどうなる? 」

「あなたは今は人界にも魔界にも属さないものです。あなたが魔王を倒してしまったらこの戦いは勝者なしとなり、両世界の破滅が始まります」

「そうか」

 そんな気はしていた。俺はもう塔の戦いの参加者ではないのだ。

 こうして俺は塔を後にした。

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