2 塔の勇者たち
宝物庫を空にして魔王の部屋に戻ると、来客があった。六人組だ。剣や槍をもった堅そうなのが三人、黒いフードつきローブが一人、何かシンボルらしいものを大事そうにささげもっている青い豪華そうな衣装が一人、急所にだけパッドをあてた動きやすそうな革服に弓をもったのが一人。武器をもってない二人は女で、あとは男、年齢はおそらく二十前後で、人間は剣の一人、あとは妖精と半妖、侏儒族、鬼族、古賢族。全員リアル化の被害をうけ、お互いの姿に戸惑っている。さっきまでは全員、ドット絵だったのだろう。種族特有の臭さやえぐいディテールには無縁だったはずだ。
それにしても暗黒の塔はソロプレイゲームであったのになんだろうこの連中は。
「やあ、こんにちわ」
とりあえず挨拶してみる。彼らはこれまた恐ろしく戸惑った顔で俺を出迎えた。
「こんにちわ」
隠しきれない警戒心とともにリーダーらしい人間の戦士があいさつを返す。
「我々はこの部屋にいるボスを倒しにきたものだけど、あなたはどちら様か」
「ご同様さ。申し訳ない、ボスはさっき倒してしまった」
嘘ではない。どこまで本当かは自信がないが。
彼らは顔を見合わせた。
「あんな桁外れにつよいのを、あなた一人で? 」
一様に信じられないという顔をした。
コンピュータゲーム草創期ならではのチートをやったから、とは言いにくいな。
「こんなになったせいか、そんなに強くなかったんだけど」
室内をぐるっとさしてそう言ってみる。これも嘘ではないし、その原因が俺だという本当のことも言ってはいない。
「信じられない」
俺と同じ古賢族の女魔法使いがそういう。
「ボスの魔法はとにかくすごくって、回復アイテムがぶのみで、膨大な魔力がきれるまでとにかくしのぐしかなかった。俺たちも数十回挑んで勝てたのは二三回だ。とても一人でかなう相手じゃない」
「なんというか、人並みだったよ。アイススピアなんかも一本しかでなかったし」
微妙なものいいになる。
まてよ。
魔法がとにかくものすごいって。
それはもしかして俺のことだろうか。あんなアーススピアを出していればそう思われても仕方あるまい。
魔王は何万回も俺に殺されたといってなかったか。俺はここにずっとこもって魔王を狩り、彼らのような冒険者にとってのラスボスになってしまっていたのだろうか。
「わかった」
リーダーがそういった。
「我々はいったん町に戻る。あなたも同行してくれないか。道々ボスとの戦いについて聞きたい」
これは話をあわせるのがむずかしそうだ。
と、同時に興味もわいていた。彼らは魔王をのぞけば初めてであう住人であり、おそらくは出会うことなどなかった他の誰かのキャラクターなのだ。彼らは自分たちの作り手、操り手のことを覚えているのだろうか。そしてこの変化にどう思っているのだろうか。
作り話をしても破綻するので、あの時想定していた魔王攻略戦の通りに進んだものとして俺は話をした。途中、モンスターとの戦いなどは発生しなかった。ドット絵のときとはいえ、彼らが掃除したおかげであろう。ボスの階は豪華だったが、六階までのおもむきは、各階ボスの個性にあわせたもので質実剛健であったり華麗で繊細であったりと様々。ドット絵で戦った場合、跡はのこらないらしい。踏み込んだ瞬間にリアルになったそれらの部屋はすべてがらんとして奇麗だった。
「今までは半日もすればみんなもとに戻ったけど、これからはどうなるんだろう」
今までの生活ががらりとかわる不安感のにじんだ言葉が出る。
塔は無制限に魔物と宝を生み出す豊穣の角であった。だからこそこの狭い中に町が生まれ、諸族の冒険者たちが集まってきた。だが、魔王はもう復活しない。
「つかぬことをきくが」
俺は誰にともなく聞いた。
「君たちは自分たちを生み出したものについてどのくらい覚えている」
現実社会でこんなことを聞いたら正気を疑う苦笑か、神信心の問答がはじまるだろう。
沈黙が降りた。
「あなたは、今までどこにいたんですか? 」
半妖の僧侶がそれを破った。名前はセイシ。妖艶な美女で、露出をおさえてその魅力を隠すことに腐心している。女としての魅力を人がほうっておかないのを嫌って信仰の人生に入り、清く堅く身を保とうとしています。そんな感じだろうか。
「長い間眠っていたのだと思う」
本当ではないが、そうとでも答えるしかなかった。ここにいるゴウキの記憶はない。あるのは人間としての俺の記憶だけだ。ボスをやっていたらしいが、その間のことは覚えていない。その間に魔王をひたすら倒していたらしいが、それすらもだ。
「目覚めればあの部屋で、世界がかわると同時にボスとの戦いになった。戦い方は覚えていたし、昔あそこで何度も戦ったことは覚えていた。あとはさっき話した通りさ」
「あなたのことについては疑問がたくさんある」
剣のリーダーが言葉を引き取った。名前はローランでこっちの由来は見当がつく。金髪碧眼のゲルマン的美声年である。
「だが、それでさっきのようなお互い触れないことになっている質問がでたわけがわかる。そろそろ町につくといっても信じないだろう」
「まだ六階だよね」
「六階と四階に少し広げたんだ。ボスが強すぎて、協力するようになったら手狭になった」
もう見えてきた、と指差す先には通路を仕切って重そうな鉄の扉をはめた門であった。
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