第18話、真打登場!
「 停戦交渉を早急に進めよう。 生還への道は、それしかない 」
天井の無いブリッジに集まった面々に、俺は言った。
船底倉庫に捕虜は収容し、騎士2人が見張りに付いている。 船尾の機銃に取り付いて警戒しているニックを除き、ファルトと他の騎士たち、マータフ、カルバート、ビッグス… 皆、不安げな表情だ。
「 グランフォード卿、イザとなったら敵中突破を試みてはどうか? 」
中年と思われる1人の騎士が提案した。
俺は答えた。
「 一戦を交え、戦意高揚の貴殿には、そんな提案もあるだろうが、まず全滅するだろう。 狭い館内とは違うんだ。 屋外の戦闘ヤードなら、ランチャーで1発だ 」
カルバートも追伸した。
「 歩兵部隊には必ず、赤外線や3Dの方位レーダーを装備したオペレータが随行しています。 白兵戦になる前に、空から迫撃砲弾が降って来ますよ? 」
上空のバウアーに、キャノン砲の援護射撃を要請する事も考えたが、こちらの座標を割り出す方法も無ければ、バウアーに知らせる手段も無い… 停戦交渉を進める以外、道はなさそうである。
その時、ふいに頭上から声がした。
「 裏切りファルト! そんな所で密談か? 」
声に見上げると、2階の手摺に解放軍将校が立っていた。 傍らには、銃を構えた数人の兵士たちの姿も見える。
「 シュタイン……! 」
ファルトが、憎々しげに睨みながら呟くように言った。
コイツが、シュタインか……!
ヤセ気味の体格に、頬のコケた顔。 鼻の下に、ヒゲを生やしている。 おそらく、どこかの部屋の、屋根裏にでも潜んでいたのだろう。 正々堂々と戦うのならまだしも、今頃になってから現れるとは……
状況は、俺たちにとって更に最悪になった。 入り口付近に潜んでいた連中からは、シュタインの姿を見て安心したのか、歓声が上がっている。 今すぐにでも、突入して来そうな雰囲気だ。
シュタインが言った。
「 どうやら、私を騙すつもりでいたようだな? ファルト 」
無言のファルト。 じっと、シュタインを睨み続けている。
俺は言った。
「 船内に、捕虜がいる。 我々が脱出する際の安全を確保してくれるのであれば、街の外れにて開放する 」
シュタインは、ニヤリと笑みを浮かべて答えた。
「 聞こえんな。 私はここで、哀れな裏切り者が始末される様を見届けたいのだ。 無論、君にも死んでもらうが? 」
捕虜は見殺しか……! まあ、想像はしていたが。
俺の横にいた1人の騎士が、剣を抜きながら言った。
「 おのれっ! 同胞を見殺しにすると言うのか。 何たる卑劣者っ…! 」
シュタインは、鼻で笑いながら言った。
「 愉快、愉快! 無能な下衆が、役立たずな剣を抜いてほざいておるわ。 はっはっは! 」
ワナワナと、剣先を震わす騎士。 シュタインが、入り口付近にいる兵たちに向かって言った。
「 総攻撃、用意! 」
命運、ここに尽きたか…! すべき手立てが、何も無い。 万事休す……!
その時、突入して来た玄関ホールの方が騒がしくなった。 こちらの状況を見守っていた解放軍兵士たちが、騒ぎながら右往左往している。
「 …何だ? 」
シュタインたちも含め、俺たちも、玄関ホールの方を見た。
入り口に、黒い影が確認出来る。
それはみるみる大きくなり、入り口を含む左右50メートルくらいが完全なる日陰となった。 何か、巨大な構造物が接近しているようだ…
途端、腹底に響くような衝撃音と共に、玄関ホールの壁が内側( こちら側 )に膨らんだ……! 逃げ惑う、解放軍兵士。 レンガ造りの壁は崩落し、物凄い粉塵と破壊音が響き渡った。 砕け散る、ガレキやガラス……!
もうもうたる粉塵を掻き分け、巨大な黒い構造物が、高い吹き抜けの天井部分を破壊しながら、更に、ホール内へと侵入して来た。
「 な、何だッ…? 」
皆、迫り来る巨大な構造物に対し、少し、後ずさりする。 やがて、その構造物に装備されているらしい拡声スピーカーから声が聞こえ、ホール内に響き渡った。
『 …コレかな? あ~、あ~( ガコ、ガコンッ ) あ、コレだわっ! オジちゃああぁ~~ん! 来たよおおぉ~~ッ! 』
げえええっ…! ソ… ソフィー!?
浸入して来た巨大構造物は、俺たちの乗っている船の手前で停止した。
天井から堕ちて来る化粧板とガレキ… その落下も治まり、棚引く粉塵が落ち着くと、その構造物の全容がハッキリと見て取れた。
見慣れた、船首… 間違いない。 俺のトラスト号だ…! しかも、ナニやら船首に、白い文字が書いてある。
Top of the Galaxy
TRUST
……ソフィーだな?
留守番の間に、描いたのだろう。
ほほう… 『 銀河の頂点 』とは、大きく出たな…!
しかも、このシチュエーションでの新作披露は、あまりに衝撃的である。 トラスト号の名が、敵味方問わず、またしても大きく、皆の記憶に刷り込まれた事になった。
「 トラスト号だ! 」
カルバートが、指を指して叫んだ。
漂う粉塵を右手で払いながら、マータフも言った。
「 ソフィーじゃな? まったく、おてんばしおって…! 」
ソフィーは、ある程度の操船なら出来る。( 前編・最終話 参照 ) 多分、ファルトとの無線交信を聞き、無謀にも操船して来たのだろう。 よく地上からの攻撃に遭わなかったものだ…! まあ、艦底は防弾仕様なので、応急補修してある部分以外だったら、ランチャー程度なら大丈夫だろう。 敵の注意は、俺たちの方に、全て引き付けられていたのかもしれない。 まさか2度も艦船が突入して来るとは、誰も思わないだろうし……
( この期を逃す手はない…! )
俺は振り返り、大口を開けて船首を見上げているシュタインに言った。
「 船首に、PAC砲が装備してあるのが分かるか? 今、お前さんたちの方を向いてるよな? 」
船首中央付近の第3甲板換気ノズルの横に、『 さりげな~く 』、砲口が開いている。 ホントは内緒にしておきたかったのだが、この際、仕方あるまい…
シュタイン以下、一緒にいる兵士たちも皆、目を細め、砲口を確認しているようだ。 やがて、砲口を確認した彼らの顔に、一様に恐怖の表情が見て取れた。
俺は、ファルトとの交信に使っていた無線マイクを手に取ると、シュタインたちにも聞こえるように言った。
「 ソフィー、よく来てくれた! 船首PAC砲の照準パネルを開けてくれ 」
船首の拡声スピーカーから、可愛らしい声で応答があった。
『 オッケー☆ 』
「 照準を、少し左に合わせてくれ。 回転は、一番上のボタンだ 」
突然、大音響と共にPAC砲が火を噴き、シュタインたちのすぐ横に着弾して、2部屋ほどの扉が吹き飛んだ。 …ソフィー、どこのボタン、押したの?
慌てて、床に伏せるシュタインたち。 大小の建材破片が降り注いで来る。
拡声スピーカーからソフィーの声が聞こえた。
『 オジちゃん、ごめんなさぁ~い! また間違っちゃったぁ~! 』
……どうやったら間違えるんだ? キミ。
発射ボタンには、誤射防止のアクリル板があるはずだぞ?
さては、意図的に開けて撃ったな……?
…まあいい。 コッチ、撃つなよ…?
俺は、シュタインに言った。
「 今のを見て、お分かりだろうが… ブリッジで操船しているのは10歳の女の子だ。 この後、どんなコトを仕出かしてくれるのかは、俺にも分からん…! もしかしたら、間違えて船を動かして、お前さんらを潰すかもしれん。 その時は、勘弁してくれ 」
伏せたまま、シュタインは叫んだ。
「 な、何とか収拾せいっ…! お互い、し、紳士的に話し合おうじゃないか 」
…紳士的だと? ダレの事を言ってんだ?
ファルトが、トラスト号に向かって叫んだ。
「 話し合いの余地など無いっ! 吹き飛ばせッ! 」
どうやらトラスト号の『 乱入 』で、立場は逆転したらしい。 今や、状況を握っているのは、俺たちのようだ。
俺は、のほほんと、シュタインに言った。
「 操船している女の子は、何と、皇帝軍 バルゼー元帥の孫でね。 もし、フッ飛ばされてミンチになったとしても、相手にとって不足はないだろう? きっと、お前さんの名前も、銀河戦史に残るぜ? 」
床に伏せたまま、シュタインは言った。
「 きっ、君らの撤退を許可するっ! い、今すぐ、その船に乗り… 戦域を離れるが良い…! 我々は、君らの進路を、妨害しない事を約束する! 」
う~む… 願ってもない申し出だ。
しかし、ここで我々が無事に帰還しても、作戦としては不成功に終わる……
俺は、しばらく考え、答えた。
「 我々としては、お前さんをトラスト号にご招待しつつ、撤退したいのだがね? 」
「 …… 」
無線マイクを通し、こちらの様子はソフィーにも聞こえたのだろう。 船首の拡声スピーカーから声がした。
『 ねえぇ~… オジちゃあぁ~ん。 撃ってもイイ~? このボタン、ナニかなぁ~…? 』
シュタインが、うろたえて言った。
「 や、やめろ、やめろ…! 撃つなあぁ~っ! 」
伏せたまま、両手をこちらに向けて、盛んに振っている。
『 ポチッとな! …なぁ~んちゃって♪ 』
「 や、やめ… やめぇ~いっ! さ、触るな! 触るでなあぁ~~いっ…! 」
俺は、声を荒げ、叫んだ。
「 降伏しろ、シュタインッ! 貴様は、処刑される訳では無い! 命あっての物種だろうが? 今なら、幽閉程度の恩赦も、あり得るだろう。 腹を決めろっ! 」
…ま、実際は、銀河系外への追放だろうがな……
シュタインは、あっけなく降伏した。
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