第5話、人気者
ファルトは、銀河での、アリオン独立を描いていた。
その構想への道程は、銀河帝国が存在する現在、よほどの事が無い限り、険しいだろう。
実際、アリオン独立に関してバウアーが尋ねた際、バルゼーは、きっぱりと『 庇護国家 』を提示した。 ファルトにとっては、それは『 属国 』と変わらない。
だが、何とか皇帝軍から『 評価 』を得、それを担保に、独立を提案するつもりなのだろう。 解放軍に決定的なダメージを与えようと画策中だ。 解放軍幹部に接触を図っているのは、その為と分かった。
事情を話せば、バルゼーも納得するだろう。 少なくとも、解放軍と同調する気は無いらしい。
( 志は認める。 だが、道は険しいな…… まずは、信頼を得る事だろう )
俺は、ファルトと別れ、トラスト号へ戻るすがら、彼とアリオン国家の行く末を考えていた。
携帯を出し、ダイヤルする。
しばらくの呼び出しの後、バウアーの声が聞こえた。
『 会談の成果は、いかがでしたか? 』
「 ま、想像の通りだ。 だが、ヤツは解放軍につくつもりはないらしい 」
『 なるほど。 良い選択ですな 』
「 いつ頃、コッチに降りて来る? 」
『 貴殿の、エルドラ発艦を確認次第、視察に参ります 』
「 了解だ 」
後は、バウアーに任せよう。 ファルトも、無茶な発言はしないだろう。
俺は携帯を切り、トラスト号へと向かった。
「 ? 」
ドックに係留されているトラスト号の周りに、人だかりが出来ている。 2~30人は、いるようだ。 ほとんどがクエイド人である。 アントレーのように、船員服を着ている者が多いが、港湾関係者らしき作業着姿の者もいる。
( 何か、あったのかな? )
ビッグスが、船内にいるはずだが… また、焼肉の煙を、船火事と勘違いでもされたかのかな?
彼らに近付くと、数人がこちらを振り返り、俺を指差して言った。
「 …おい、彼がそうか…? 」
「 あ、そうだ、そうだ…! 当時の、ニュース映像で見た顔だ! 」
( …はい…? 何でしょうか? )
クエイド人の1人が、言った。
「 トラスト号が入港していると聞いてね。 あんたが、あのキャプテンGかい? 」
( …どの、キャプテンGでしょうか? )
ぽかんとしている俺に、Tシャツを着たクエイド人が言った。
「 一度、会ってみたかったんだ! 我が、クエイドの恩人にて、英雄のキャプテンG……! 」
どうやら、クエイド救出の事を言っているのだろう。 もう何年も前の事なのだが、最近、バルゼー元帥救出を機に、俺の名は再び、あちこちで話のネタになっているらしい。
作業着を着た男が、トラスト号の船首を見上げながら言った。
「 久し振りに、トラスト号を見る事が出来たよ。 オレがいたのは、船首下の… あの窓辺りだ 」
明かりが点いた荷物室の窓を指差しながら、彼の視線は遠くを見つめていた。
おそらく、クエイド人救出の際に、俺が乗せた数千人の内の1人なのだろう。 傍らの、中年らしきクエイド人が言った。
「 ワシは、クエイドの星が消滅する時、カシオペアにいた。 だが、妻と子どもはトラスト号に乗せてもらい、助かったんだ。 そうか… この船が、トラスト号か。 なるほど、デカイ船だ……! 」
皆、感慨深げである。
Tシャツを着た男が、握手を俺に求めながら言った。
「 最近は、皇帝軍のお偉いさんを救出したそうじゃないか。 凄いねぇ~! さすが、我々の英雄だ 」
握手をしつつ、俺は答えた。
「 たまたま、成り行きさ。 運が良かっただけだよ 」
「 運も実力の内、って言うじゃないか。 あんたには、幸運の女神がついてるのさ 」
「 ははは。 だとイイんだがね 」
何か、貧乏クジばかり引いているような気がするのだが……?
船内に戻ると、買出しから戻って来ていたソフィーたちが、食堂にいた。
「 あ、グランフォードのおじちゃん! これ見て~! カルバートのお兄ちゃんが買ってくれたの~! 」
ソフィーが、小さな透明ビニールに入ったミニチュアのようなものを俺に見せた。 映画や、アニメの主人公たちのフィギアらしい。 近寄ってみると、宇宙船のようである。
俺は言った。
「 戦艦 金剛でも買ってもらったのかい? それとも、おジイちゃんの戦略空母 シリウスかな? 」
「 へっへ~…! 」
悪戯そうな表情で笑うソフィー。 俺は、ビニールに入ったフィギアを手に取った。
「 …… 」
何と、トラスト号だった……!
シュタルト提督抹殺作戦の際、解放軍の艦船をシリウスの主砲で吹き飛ばした時に曲がった後部クレーンも、見事にそのまま再現されている。 要らんディディールにまで、凝りおって……
カルバートが言った。
「 トラスト号も、有名になったもんですね。 ドコから船体の図面、手に入れたんでしょうか。 写真からかな? 」
戦艦や空母、と言った軍艦ならまだしも、トラスト号は、れっきとした民間輸送貨物船である。 それがナンと、フィギアになっとる…!
( 著作権… この場合、映像権か? 肖像権か…? よく分からんが、どうなってんだ? 製品化に関して、了承をした覚えはないぞ? )
しかし… コアなフィギア製作者がいたモンだ。 買う側にもまた、マニアックな連中がいると言う事か…… オタクの価値観は分からん。
附属していた、折りたたんだ小さな紙は、説明書きのようだ。
『 フリゲート級 大型貨物輸送船・トラスト号。 キャプテンGこと、グランフォード卿が船長を務める民間輸送船である。 クエイド救出、バルゼー皇帝軍元帥救出などに活躍。 エンジンは、カワシマ重工社製 誉( ほまれ )改4型 亜高速仕様。 超重磁力制御システム登載。 全長271m、最高速度 320宇宙ノット 』
…よく調べてあるな…!
320宇宙ノットだと? ドコで聞いて来たんだ……? だが、まだ甘いな。 ワープ出来んじゃい。( ナイショ ) そのうち、乗組員のフィギアも新発売するんじゃないだろうな……?
ソフィーが言った。
「 イイでしょ~? あたしの部屋に、飾っておこうっと ♪ 」
…あの~… ひとつ、イイかな?
いつからキミ、自分の部屋を持ったの? しかも、ドコ……?
マータフが、ソフィーの頭を撫でながら俺に言った。
「 大人になったら、トラスト号の乗組員になるんだそうだ 」
それは前にも聞いたが、ヤメておいた方が良い。 多分、給料が出ん。
俺は言った。
「 シリウスの方が安全だ。 侍従兵のような非戦闘員にでもなって、元帥の世話をしたらどうだい? 」
俺が返したフィギアを受け取りつつ、ソフィーは答えた。
「 だって、ブリッジでケーキ、食べれないんだもん 」
……それも前に聞いたが、キミの乗艦条件はケーキか?
まあ、もう少し大人になれば考え方も変わるだろう。 どうしても、この船に乗りたければ、あえて拒否はしない。 だが、アホ共には気を付けろ。
カルバートが言った。
「 キャプテン、隣のドックの船、知っています? 」
「 隣? 」
俺は、テーブルに置いてあったスナック菓子を手に取り、口に運びながら窓の側へ行くと、外を眺めた。
ミドル級のステーション・クルーザーが係留されている……
中距離のクルーザーで、多少の貨物も載せる事が出来る船だ。 主に、運送会社などの経営者が所有している事が多い。 ブリッジはトラスト号と同じく、展望式である。 大きな排気塔を船体中央に持ち、どうやらエンジンは超重磁力制御システム登載仕様だ。 この手の船は、改造が多い。 おそらく、ワープ可能だろう……
俺は、煙突のような排気塔に描かれているエンブレムに注目した。 紺地に、剣を持った獅子と星が、白く描かれている。
「 …アリオーソ・グスト 」
アリオン王家の御旗である。
アリオン人が崇拝する神、『 ダコダ 』… その神を警護する四天王の内の1人が、獅子の姿をしたグストだ。 知性を司る、という話を聞いた事がある。
マータフが言った。
「 ジーナの船、ファルコン号ですな 」
ファルトの妹、ジーナ……
アリオン武装戦線軍の将官である。
外交業務を主にしているとの事だが、戦線で、このファルコン号は、よく見かけた。 男勝りの女性将官らしいが、俺は話をした事はない。 階級は、確か准将だった記憶がある。
俺は、スナック菓子を頬張りながら言った。
「 ファルコンが、何でこんなトコにいるんだ? 武装戦線軍は、第2連合艦隊と共にアンタレスへ行っていると、先月、聞いたぞ? …まあ、酒場でのウワサだから、アテにはならんがな 」
どうも、腑に落ちない…… 根拠は無いが、何か、ワケありの雰囲気がする。
カルバートのポケットの中で、無線端末が鳴った。 発信元を確認してイヤホンを耳に装着し、無線に応答するカルバート。
「 こちらトラスト号。 ビジター3087、交信を許可する。 姓名を名乗れ 」
どうやら、外線( 港湾関係以外からの交信の事 )らしい。
相手の交信を聞いていたカルバートがイヤホンを外し、俺に言った。
「 お隣のファルコン号からですよ? キャプテンに、話しがあるそうです 」
…は?
『 兄上 』から、何か言われたのだろうか。 相手は、おそらくジーナだ。 女性と話すのは、どうもニガテだ…
俺は、スナック菓子を飲み込むと、しばらくしてからイヤホンを装着し、一呼吸置いて答えた。
「 トラスト号船長、 グランフォードだ 」
『 ファルコン号艦長、ゾン・フェリス・ジーナだ。 貴殿には、初めてお目に掛かるな。 各地での活躍、聞き及んでおるぞ 』
フェリスとは、アリオン特有の言葉で、『 娘 』を意味する。 たいてい、未婚女性のファーストネームの前に付ける。
…しかし、口調は軍隊調。 声は意外にソプラノだが、明らかに指揮官的なイメージを受ける。
ジーナは続けた。
『 兄上から聞いたが… 貴殿、皇帝軍の洗脳者に成り下がったようだな 』
聞き捨てならんな、それは…
俺は言った。
「 そう受け取られたのなら、仕方ないな。 だが、ファルトにも言ったが、俺は誰の下にも付かない。 今回の寄航は、アリオン人民を思っての行動だ 」
『 …… 』
無言のジーナ。
俺は続けた。
「 お前さんの兄貴に、俺は、散々な目に遭わされている。 それは、お前さんも知っているだろう。 本来なら、会いに来る事など無い。 顔も見たくないのが本心だ。 言い方が悪くて済まんがな…! 」
多少、口調が荒くなってしまった。 だが、本心だ。
俺は、更に続けた。
「 アリオンが、クエイドのようになっても構わないのか? 戦闘が始まれば、諸事情など関係ない。 勝利のみが、最終目的だ。 軍隊は、自分と自分の仲間・部隊さえ残れば、あとは淘汰されようが蹂躙されようが、一切関知しない。 …いいか? 蹂躙されるのは、人民たちだ…! 敵を倒すだけではなく、自国人民を『 守る 』という使命もある事を、軍人は再認識する必要があるんじゃないのか? 」
ビミョーに、お説教になってしまった…
ジーナが言った。
『 ……キャプテンG、前言は撤回しよう。 我が人民たちへの配慮、感謝する。 事態に、どう対処するかは、また兄上とも協議を図るとしよう 』
兄妹ケンカなんか、するなよ…?
俺は言った。
「 それがいい。 ファルトにも宜しくな 」
『 時に、キャプテンG。 我がファルコン号に招待しようと思うが、来てはくれまいか? 』
( 招待? う~… 面倒くさい…… )
俺は、本心を抑え、答えた。
「 光栄だね。 礼服は持ち合わせていないが、構わないか? 」
『 ははは。 結構だ 』
……また、面倒な事を受けちまった。
どうして俺は、こうなんだろう? いい加減、ヤんなるぜ……
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