492話 最終決戦その10

 ユヴォーシュが吼える。


 文字通り魂が発する叫びは空気ではなく同じ魂を震動させる。その威は立ち並ぶ《輝きの騎士》たちを圧し、その行動を縛った。


 独自に思考して行動することが可能な《輝きの騎士》たちが、動けないと思った瞬間には彼らの首が刎ね飛ばされて光の粒子と消えていく。


 三百四十三名の《輝きの騎士》たちのうち、既に、生き残っている者は半数を割っていた。


 聖究騎士からなる《輝きの騎士》にもかなりの損害が出ている。中でもロジェス・ナルミエ、あの《割断》のロジェスを既に失っていることは極めて大きい損失だ。例え絶対切断の剣が防がれるとしても、彼はディレヒトの攻撃面での要だった。それを失ってなお攻勢をかける余裕は薄く、仮に反撃に打って出たとしても、


「オラどしたァァァァ!!!!」


 《輝きの騎士》が振り下ろした光剣をユヴォーシュは。《光背》も仕舞いっぱなしで、そのままなら穴だらけになって絶命するはずなのに───


「クソッ!」


 確かに光剣は彼の生身を傷つけはする。皮膚を裂き肉を斬り骨を断ち血が噴き出す。。どれほど肉体に損傷を与えても一向に意に介さず、魂のみで戦えてしまえる男にそんな傷が何になるというのだろう?


 アレは最早ヒトではない。ヒトだと自分で思い込んでいる《信業》そのものと考える方がよほどしっくりくる怪物だ。


 ディレヒトは歯噛みする───状況は最悪だ。《列聖するもの》の弱点の一つに、ひとたび展開した《輝きの騎士》たちが存在する限り、新たに補充することはできない、というものがある。つまりロジェスや他の破壊された神聖騎士たちの《輝きの騎士》を出したければ道は二つに一つ。《輝きの騎士》が全滅するのを待ってから再展開するか、あるいは今も戦っている彼らを一度消してから再展開するか。


 どちらの道も、選びたくない。


「だッッ───らァァァ!!」


 気炎を上げながら魔剣を振るうユヴォーシュと相対していて、まだディレヒトが五体満足で居られるのはひとえに《輝きの騎士》の軍勢あってのこと。それらが完全に喪失されれば、ユヴォーシュは間髪入れず中核ディレヒトを狙って来るし、今のユヴォーシュを止めるすべがない以上そこで勝負がついてしまう。


 それだけは絶対に嫌だった。何としても、どんな手を使ってでも、負けたくなかった。


 ───ディレヒトは覚悟を決めて、自分自身に別れを告げる。


 ここが勝負所。失敗すれば死は免れないし、成功したって似たようなものだ。終わりが恐ろしくて手が震えるなど何時ぶりだろう。初心に帰ったようでそれがほんの少しだけ楽しくて、ディレヒトは笑った。

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