465話 機神解体その6
搭乗回廊は、機神ミオトは、崩壊の一途を辿っていた。
体内たるここのあらゆる全てが不安定化している。巨体を千年近くに渡って維持してきた力がいま一挙に失われたのだ、ガタも来ようというもの。押さえつけてきた不安要素がいちどきに噴出し、従来のスペックなど発揮できる理由はなくなった。行きは邪魔だった免疫機構も見当たらない。
だがそれで帰路が楽ちんかと言われればそんなことはなかった。
崩壊していく。圧壊していく。狭い通路は潰れるし、広い通路も崩れて狭まり、結局は潰れる。機神ミオトから《神血励起》が失われたことで、ンバスクもある程度透り抜けられるようになっていなければ、とても脱出できなかっただろう。
「くッ……!」
それでも無傷とはいかない。まだ《神血励起》の影響が抜けていない部分が落下してくれば回避を余儀なくされるし、破片に至るまで神血色濃い部位はンバスクからすれば散弾にも等しい。時にはどうにも通路が塞がってしまって、迂回路を探すのに手間取りもした。脱出しなければ、最終的には機神ミオトだった瓦礫の雨に打たれて彼も絶命するのは確かだ。
走る。走る。
急げ。急げ。
まだやることはあるのだから、ここで死んでいられない。ンバスクに下された命令は明瞭、『《大いなる輪》の輪転を妨げようとする者を排除せよ』だ。聖都を荒らしまわる天龍たちはその実、儀式を邪魔しようという魂胆はないだろうから放置。機神ミオトという危険要素は取り除き、次なるはユヴォーシュ・ウクルメンシル。ディレヒトと交戦中の彼の、今度こそ心臓を串刺しにして始末しなければ。
それが彼の存在意義。
命令に従うことで思考を停止できるから、そうしていれば楽だから、彼はそれをただ只管選び続ける。それ以外に寄る辺のない彼は、小神に選ばれる前から今に至るまで、頑ななまでに誰かの命令に従い続けてきた。ひたむきさは狂気の域にまで達しているが、貫き通せばそれもまた彼のエゴ足りうる。
エゴであるが故に、決して相容れない別のエゴの存在もまた、必然だった。
かつーん、と。
二重の意味で聞こえるはずのない、聞き覚えのある
その跫の主は今しがた始末してきたばかりで、よしんば生存していたとしてもそれが前方から聞こえてくるはずなどない。だってンバスクは全速力で離脱していた。だのにどうして彼が、あの男が、行く手に立ち塞がっているのだ───!
「───そんな、馬鹿な!」
「……遅、かった……じゃねえかよ、ンバスク」
《鎖》のメール=ブラウは、フラつく足ながら、しっかと立って待っていた。
一歩、また奥へ───ンバスクの方へと踏み出す音。
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