463話 機神解体その4
機神ミオトは躯体の維持に《神血励起》を必要とし、その発動に契約者を必要とするが。
あくまで必要とするのは契約できる相手であって、その状態など問いはしないのだ。
ガムラス・ガグス・ギルフォルトはここで拘束され延命され、機神のために《神血励起》の触媒として存在してきたのだろう。───いつから?
「そうだよ、待てよ……!」
思考が閃く。違和感は繋がり、怖気の走る推察としてメール=ブラウの脳内で完成していく。機神ミオトの成立は劫が廻った直後、神歴886年の重みに等しい。躯体の維持に《神血励起》が要求され、そのためにこうして繋がれているのだから躯体があったころにはガムラスもこの牢獄に囚われていたということになる。メール=ブラウは歴史には疎いが、少なくとも機神ミオトが機神都市ミオトヴェレンの前身たる都市を滅ぼしたのはゆうに数百年も昔のことだと知っていた。
そもそも、ガムラス・ガグス・ギルフォルトという名前からして変だった。初めて聞いたときに随分と古めかしい名前だなと思った記憶があるが、その直感は正しかったのではないか? 数百年以上前のガムラスが、ずっとここでこうして───
「───ッ、そんなのアリかよ……!」
メール=ブラウはガムラスを人質にするつもりだった自分を、すっかり棚に上げて吐き捨てる。ようやく理解した、機神ミオトはとっくの昔に狂っていた。ガムラスを盾にとっての交渉など成立するはずがない、これはそんな理屈が通じると思うほうが愚かな鉄塊だと思え。
メール=ブラウは舌打ちをするとガムラスの身体に伸びている管を何本かまとめて掴み、力任せに引きちぎった。痩せ細ったガムラスはこれがなければ命を繋げないはずだ。命を繋げないということは、裏を返せばこれ以上ここに囚われていることはないということ。
仮に、万一、彼がそれを───拘束され永遠に触媒として利用されることを───望んでいたとしても、メール=ブラウが見ていられなかった。ここまでになるほど酷使して、なおも存在を搾り取るつもりの機神ミオトから、ガムラスを解き放つことは責務にすら思えた。
「クソっ、クソ、クソクソくそ、クソがッ、何だこんな、クソ管がッ、ええい鬱陶しい───」
手あたり次第引きちぎり、掻き分け、ガムラスのまだ生きている亡骸を取り上げようとしているうちに気づく。管が動いている。引きちぎったそれはありえない挙動で再びガムラスの身体に潜り込もうとしていて、そうと知ったメール=ブラウは思わず悲鳴を上げそうになった。
「こうなったらッ───」
袖の裾から鎖を伸ばし、ガムラスの胴に幾重にも巻きつけるとメール=ブラウは跳び上がる。搭乗回廊の下り坂の端まで戻って、彼とガムラスの間に太い一本が張り渡された。
もう形なんて構うものか、あそこから引き上げられれば何だって良いものとする。メール=ブラウは一本釣りのために腰を下ろし、大きく息を吸いこんで、
「せえ、のッ───」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます