456話 最終決戦その8

 厄介と言えばロジェスもそうで、彼もまた《神血励起》を必要とせずに最高のパフォーマンスを発揮できてしまう聖究騎士だ。むろん神聖騎士を辞めたあとの───《真なる異端》としてのロジェスの方が強いのはそうだが、あれは個の強さの極致。こうして集団による武力を発揮する場では活きないし、全く違う恐ろしさがある。


 そしてやはり、華々しく仕切り直しを飾った《ファディマスの龍》の別格具合たるや。


 天龍に匹敵する龍体を人の身で操るのも凄まじいが、そこに神の血脈が通ると別格だ。匹敵するどころか上回るのではないかと錯覚させる超膂力。万象を溶かし尽くさんばかりの業火の息吹。魔剣の黒刃すら弾ききるほどの硬度を誇る外皮。どれも一筋縄ではいかない。


 そしてそれが、最悪のタイミングで切り替わる。


 俺が斬りかかって、龍体の鱗が刃を弾いたところで自らの《神血励起》ぶんのリソースを他へ回す。すると俺が体勢の崩れたところに《火起葬》やら何やらが襲い掛かってきて、俺がそれに対処しようとしたところにリソースを奪った《ファディマスの龍》の鉤爪が降ってくる、という塩梅なのだ。どうにも権限を無理やり奪っている節すら見えるから、奪われた側の聖究騎士もすっぽ抜けたりつんのめったりしているが一顧だにせず、ただ俺の負荷を増すためにそういうことをしてくる───その貪欲さが、例えようもなく俺を燃えさせる。


 そうだよ、それだよ。俺はそこまでするに値する敵手だろう。


 俺もそう在りたい。だから、俺もその評価しんらいに値する男であろうとできるんだ!


 俺は剣を収める。


「───来いッッ!!!!」


 拳打ち合わせて、目前まで迫る《ファディマスの龍》の頭部に手を広げて見せて、


 ───力比べと行こうぜッ!


「───おおおおおおおッ!!」


 気合の咆哮と共に《ファディマスの龍》の突撃を真っ向、! 衝撃が足元の地面を木端微塵に粉砕しても意に介さない。この期に及んで踏みしめるための地面が必要だなんて言わないさ、そんなもの自力でどうにかするからな!


 地面ばかりでなく俺の身体も限界らしく、骨がひび割れる感覚が伝わってくる。当然激痛と共にだが遮断、こっちゃそれどころじゃねえってんだよ!


「逃がさねえッ───」


 いま《神血励起》を切ったらそのままブッ潰してやる、これはそういう力比べだ。全部ぶっ壊せるからと、《龍》より堅いものはないだろうと、そういう気構えで頭突いてきたのを後悔させてやる。俺がここを動かなければ、砕けるのはテメェの側だ───!


 《ファディマスの龍》の無限に思える前進と、耐える俺の拮抗。それが終わるは、ぴしりと罅が入る音だった。

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