455話 最終決戦その7

 《輝きの騎士》。


 ディレヒトが具現化した、神聖騎士たちの再現体。


 条件は『聖剣の使用者ディレヒトが知っている神聖騎士』という緩いもので、同時に《神血励起》を併用することはできないという制約もある。あとはおそらく、明言してはいなくてもあの聖剣───祭具《列聖するもの》が壊れるか、使用者たるディレヒトが戦闘不能になれば消えるだろうが……言うだけならそりゃあ簡単なようでいて、これが果てしなく厳しい条件だ。


 なにせディレヒトが強い。これでもかってくらいに強い。小細工なし混じりけなしの純粋な強さだから付け入る隙ってものがない。素の彼が使役する《輝きの騎士》たちの誰より強いから、《輝きの騎士》の根っこを叩くためにディレヒトを殴るというのは馬鹿げた話にされてしまう。


 そんなディレヒトが、さっきまでは後方で指揮に徹していた。


 ずっと俺を倒すためではなく、封じ込めるための戦いをしていたから。俺に何もさせないための包囲網、なるほど信庁の法の体現と考えればかもしれない。けれどそれに俺は我慢がならなかった。


 戦いたいように戦えないとか、そんな下らない話をするつもりは今はない。そういう戦い方をするならするで、ありったけをぶつけて欲しかった。封じるんなら封殺まで来いよ、何もさせずくらいの気構えをしろよ、何にビビってんだか知らないけど、目前の俺を見ろよ!


 ───ああ、何だ。


 ロジェス、お前と同じか。


 お前が俺に執着してあらゆるの───神聖騎士の座や《人界》の未来すら含んだ───すべてを斬り捨てたのは、俺には今でも理解できないし真似できない。いろいろ大変なことになってるみたいなのはそりゃあ気づいてるよ、どうにかしに行きたいとも思ってる。けれどそれらをひっくるめた上で、魂が燃えちまってんだから仕方ないよな、みたいなところはある。


 俺は、ディレヒトに、勝ちたい。


 そう叫んでいる自分に嘘は吐けない。


 神さえ信じられない、何も信じられない俺でも、いいや寧ろだからこそ、自分自身の魂の声くらいは信じてやるべきだろう。俺らしく生きるってのはそういうコトじゃないか?


 だから俺はあいつだけを見る。ディレヒト・グラフベルだけに専心する。彼に、訣別の一撃を叩き込んでやることを夢見ながら、その道筋を描くとき───ひときわ厄介な連中が、何人かいた。


 当然、ただの神聖騎士よりも聖究騎士の方が厄介なのは確かだ。彼らは《神血励起》を抜きにしても身のこなしからして違う。《信業》の出力から違う。そんな殴り合わずとも今更骨身に沁みていることじゃない、俺がいいたいのは戦いにくさ。


 例えば、《年輪》のヴェネロン。命のストックが彼の《神血励起》だってのは、実のところ《人柱臥処》で彼と斬り合っているときに彼本人の口から聞いていたから驚きはない。問題はそれが、『あくまでストックのみが《神血励起》であり消費やら何やらは《神血励起》とは無関係である』という点にあって、俺はそこを取り違えていたからイイのを一撃、横からもらう羽目になった。


 つまりどういうことかというと、俺はヴェネロンの《輝きの騎士》を斬った。そこで彼の《神血励起》、命を蓄え消費できる《年輪》が作用し《輝きの騎士》は負傷を無視して戦いを続行しようとする───そこまでが《神血励起》だと思い込んでいたから、まさか割って入った火焔の槍が《火起葬》だとは思わず、間一髪で回避したところをロジェスにザックリ斬られたのだ。


 あれは危うかった。あと僅か逸れていたら頭をカチ割られていただろうし、今度はガンゴランゼのときみたいにどうにかできる見込みもない───あの時の俺のパワーの源はバスティだったから、俺自身の頭が開きにされてもというだけの話だ。実際あのとき一回死んでいるようなもので、彼女がいない今に真似しようとは露ほども思えない。

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