457話 龍戮戦線その10

 《ファディマスの龍》の突進は、当然俺が潰れてくれるものと思っての行為だ。俺なり俺を支える足場なり、そこらが融通を利かせてくれるつぶれてくれるものと思い込んで全力を出して、びくともしなければその力がかかるのは《龍》以外にいない。


 亀裂は《ファディマスの龍》の硬い鱗に入っている。それは見る間に広がっていくが、それを悠長に待ってやるつもりはない。俺は支えていた片手を振りかぶると───渾身、額のど真ん中を思い切り殴る。


 ついに鱗は砕けて、俺は肘まで深々と《龍》の頭内に腕を突っ込む羽目となった。義体にも関わらず肉の気色悪い感覚が返ってくるが抜くわけにもいかない。せっかくここまで踏み込めているんだ、やるんなら徹底的にやるべきだ。


 俺は拳に《光背》を集中して、《龍》の頭の中で炸裂させる。排斥の光が内側から全方位に広がれば、《神血励起》と魔術で構築された龍体の頭蓋とて一たまりもない。脳漿と肉片をブチ撒けて《龍》の目から上が


 悶絶する《ファディマスの龍》。首を振り回して、半分なくなった頭を俺から遠ざける。突き立っていた腕も抜けているから、俺はそれを止めようとすればよっぽど無茶をしなければならない。


 上顎もひしゃげて噛み合わせは最悪だろうから、噛みつきや火焔の息吹ブレスやらはそうそう使えまい。とはいえ運の無いことに核の手応えはなかった───こいつは未だ死んでいない。


 一瞬追撃も考えたが……これ以上、《ファディマスの龍》ばかりに注力しているとそろそろマズい。頭を獲れただけ良しとして、他の《輝きの騎士》たちの攻め手に対応しなければ。そう思って俺は剣を抜き向き直ったし、《輝きの騎士》たちだってそのつもりで攻めかかってきた。


 双方に驚くべき動きはなく。


 だから予想外は、その外から。


 俺が頭部を機能不全に陥らせた《ファディマスの龍》、そこに上空から飛び降りてきたのは匹敵する巨体。


 上空を舞い機神ミオトと戦っていたはずの天龍が、何をトチ狂ったのか急降下してきたのだ。耳をつんざく甲高い咆哮と共に前肢の爪を胴に突き立てると、力任せにこじ開けたところに息吹を吹き込む。鉄すら融解させる超高温を、体勢を立て直すのに必死だった《ファディマスの龍》が耐えられるはずもない。完全に押さえつけられた状態では爪で地べたをひっかくくらいしかできず、あっという間に壊れていく。


 俺がやっと頭を潰した《龍》を、横からしゃしゃり出てきた天龍が。


 ふざけた真似を、


「してんじゃねえぞッ───」


 瞬間、戦力を削ってくれてラッキーだとか、俺に向かって飛び掛かってくる《輝きの騎士》たちがいるとか、そういうことが頭から吹っ飛んで。


 俺はただひたすら、ことだけを考えて飛び出した。

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